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俳句のみが発揮しうる魅力:現代俳句文庫88『金子敦句集』

いつもウキウキ、ルンルン♫で俳句を作れるなんてことは先ずなくて、大体句会や締切など「必要に迫られて」ようやく取り組むことが多い。
でも、それだといざというときに季語やエピソードを掴む瞬発力を養うことができないから、準備体操的な感覚で一日一句という即吟をやっている。

だが上記とは違い、心が干上がってしまったり仕事等で疲れてしまって「俳句を作れない……」と追い詰められるときがたまにある。

作らなくてはならないのに、心は焦るばかり。どうしたらよいんだ、うう💦

そういうとき、私は「原点に戻ることができる」作品や句集を読むようにしている。
それは時に岡本眸だったり、加藤楸邨だったり、八田木枯、田中裕明、中村苑子など。現存の作家だったら津川絵理子や渋川京子などなど。

そして、金子敦。

敦さんの句集を読むと、「なんで、同じものを見ているのに自分は俳句にできなかったのか」と驚かされることが多い。
鋭く新鮮な着眼点が17音のリズムとしらべのなかで幸福に波打っている。
そして、表現される世界は普遍性と深さに満ちているのに、用いられる季語や言葉はどこまでも平明で読者の心にするっと馴染む。

「俳句の申し子」。敦さんとはまさにそういう作家なのではないだろうか。

そんな敦さんの俳句ファンの一人として句集の世界に身を浸していると、知らないうちに「詠めない」とささくれ立っていた心は穏やかになり、「自分の見える、感じるものを詠めばいい」と励まされた気持ちになるのだ。

そんな俳句マジックの名手・敦さん。
(前書きが大変長くなってすみませんが)その敦さんのこれまでの6句集から代表作を集めたベスト盤というべき「金子敦句集」が現代俳句文庫(ふらんす堂)から刊行された。

すでに各方面で高い評価を得ている本書、いまさら私などが言えることはほとんどないのだが、この句集は多くの方に読んでほしい。
型と韻律、季語などの「俳句のみが発揮しうる魅力」がどの句にもあまねく満ち満ちており、「この詩型を表現形式として選んでよかった!」と思うことのできる一冊である。

感銘句を全6句集より各2句ずつ。
(他にもたくさん佳句があるのですが、実際に読んでいただきたく紹介は限定しました)

夕立の匂ひのしたる葉書かな
何に逢ふ夕焼のこの曲り角

星釣りに行かむ白露のみづうみに
とほき日を蜻蛉の空に放ちけり

春愁のたとへば0で割るごとし
ポインセチア抱いてくちびる隠れたる

鶏頭へ砥石の水の流れゆく
フルートの音の水平に風光る

年賀状束ねてゴムの細くなる
独り占めか一人ぼつちか大花野

大根の首に遥かな海の色
おのづから水葬となる海月かな

なお、本書には俳句作品とともにエッセイが収録されている。
このエッセイがとてもよい。
敦さんの俳句への深い思い、そして俳句を詠むときの姿勢などが伝わってきて胸が熱くなる。
自分の俳句を今後どうしたらよいかわからなくなっていたり、「俳句、やめようかなあ……」と悩んでいる方には特に読んでほしい。
次の段階へ進むためのヒントが潜んでいる文章と思う。

素晴らしい一冊です😊
ご恵贈、ありがとうございました!





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