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『カーラ』を御覧になった方々へ

 ラジニカーント主演『カーラ/黒い砦の闘い』(原題:KAALA)を御覧になった日本の方々へ、現代インド仏教徒から一つだけお願いがございます。
どうか何とぞ「新仏教」という呼び方をなさらないでいただきたいのです。この呼称は、英語のNew Buddhism, Neo Buddhistからの直訳であり、もとはインドの圧倒的多数派ヒンドゥー教徒が〝他国に生き残っていた旧来の仏教〟や〝ヒンドゥー教内の一宗派〟と区別するために造った言葉なのです。基本的に、改宗仏教徒の側から「新 (New, नया)」を称することはございません。
現代インド仏教の最高指導者:佐々井秀嶺師の自叙伝『必生 闘う仏教』(集英社新書。拙編)83頁にも、このように記されています。

 ぜひ申し上げておきたいのは、私達インド仏教徒を「新仏教」と呼ぶのは間違っている、ということです。この呼称はアンベードカル博士以前の仏教と私達を意図的に区別し〝元不可触民〟のレッテルを貼るもの(中略)。同じ人間同士に、新も旧もありません。

また119頁には、

 ヒンドゥー教神話において、世界は創造・維持・破壊の三つの時代から構成される。創造神ブラフマーから世界の維持を託されたヴィシュヌ神は、さまざまな化身を表して世界を守る。だが、破壊神シヴァにバトンタッチするためには、正しいヒンドゥー教が栄えていては滅びる理由がない。そのためには邪教がはびこり、魔族が栄えて世の中が乱れる必要がある。そこで九番目の化身ブッダとなって、邪教としての仏教を広めたのである……と云々 (『バーガヴァタ・プラーナ』より取意)。

映画『KAALA』の本編中、宿敵ハリ(ヴィシュヌ神の別名!)は主人公カリカーランのことを
「ラーワン」
と呼びます。これはインド神話『ラーマーヤナ』でラーマ王子(ヴィシュヌの化身!)と敵対する大魔王ラーヴァナのことです。また、カリカーランもみずからを
「ヤムラージ (閻魔大王)」
と称します。

インドの仏教は13世紀初頭にいったん滅亡しました。その後、ヒンドゥー教社会の中で〝邪宗の徒〟あるいは〝魔族〟と蔑まれ、地底の闇に追いやられていたブッダの国の仏教徒達。
彼らが、人間として立ち上がれたのは、1956年10月14日、独立インド初代法務大臣にして現行憲法起草者:アンベードカル博士により仏教復興宣言がなされて以降のことです。そしてアンベードカル博士は、御自身が「不可触民」出身でした。
まさに暗闇…काला(カーラ)…から立ち上がった人間達。それが現代インドの仏教徒なのです。

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