最終話「エピローグ」 夕焼けの赤が、水平線を燃やして落ちてゆく。 ゆっくりと入水する太陽は、最後の残滓でユアンを照らしていた。 飛行甲板ではまだ、多くのクル…
第31話「穿ち貫く軍神の神槍」 二人を別つ、生と死。 今、一つの伝説が終わった。 五十年戦争と呼ばれる長き戦いの末期を、彗星のように駆け抜けた美貌の少女エース…
第30話「復讐姫が朱に染まる時」 再び希望の方舟は疾走り出した。 一切が謎に包まれた動力による、100ノットを超えるスピードで。 戦後の世界で闇から闇へと、影の…
第29話「朱き空の竜神翼」 揺れる機体が崩壊を始めた。 既にエンジンは死んで、蜂の巣になったボディが破綻し始めている。ラステルを守るため、身を盾に割り込んだユ…
第28話「捨て得ぬものを得た男、捨てるもののない女」 ユアンが死線を超えて飛ぶ空は、既に彼の支配下にあった。 秘密結社フェンリルの飛行隊は、混乱から立ち直るま…
第27話「赤い悪魔の羽撃き」 パイロットスーツに着替えたユアンを、再び激震が襲う。 再度エンジンを全開にして、特務艦ヴァルハラは不規則な回避運動で海面を泡立て…
第26話「痛みを止めて」 耳に突き刺さる警報に、艦内の空気が張り詰めてゆく。 ずぶ濡れのままでユアンは、仲間たちと上層の飛行甲板を目指した。こういう時はエレベ…
第25話「休息の一時に濡れて」 名も無き翼のシェイクダウンを仮想現実で行った後に、ユアンには懲罰が待っていた。 エインヘリアル旅団も軍隊なれば、軍規は厳しい。 …
第24話「名も無き翼に、力を」 特務艦ヴァルハラはメルドリン市を出港し、再び外洋へと漕ぎ出していた。市民団体のボートに無言で睨まれる中、楽隊の演奏も市長の見送り…
第23話「無敵の笑顔で」 特務艦ヴァルハラへと戻ったユアンを待っていたのは、喝采と歓声だった。 ただし、自分へ向けられている訳ではない。 艦内の食堂へ顔を出し…
第22話「翼が染め上げる空の色は?」 長い夜が明け、出港準備中の特務艦ヴァルハラが動き出す。 いまだ港に係留されたままだが、副長のロンはこれ以上の長居を危険だ…
第21話「名も無き夜に」 訪れた宵闇は、サーチライトの中に巨艦を浮かび上がらせる。 今、特務艦ヴァルハラは首輪で繋がれた猟犬にも等しい。そして、周囲には野蛮な…
第20話「償い贖うために」 無事に特務艦ヴァルハラへと、ユアンは戻ってきた。 彼を救ってくれたムツミは、すぐに艦内の医務室へと運び込まれる。救出部隊は待機して…
第19話「漂白されてゆく空」 妄念を乗せた翼が今、静かに舞い上がる。 瞬間、戦場を支配する空気は戦慄に凍り付いた。 全速力で逃げるヘリが、まるで牛歩の如き遅さ…
第18話「妄執は白く燃えて」 ムツミを両手で抱えて、ユアンは走る。 軍事基地などどこも似たような作りで、それは協約軍も協商軍も変わらない。なにより、ムツミの残…
第17話「絆は鎖に、血は導に」 監禁されたままでユアンは、死を覚悟した。 そして、それを甘んじて受け入れる諦めを拒絶する。 ドアのノックへと背を向けたエルベリ…
ながやん
2023年7月13日 20:01
最終話「エピローグ」 夕焼けの赤が、水平線を燃やして落ちてゆく。 ゆっくりと入水する太陽は、最後の残滓でユアンを照らしていた。 飛行甲板ではまだ、多くのクルーが修復作業にかかりきりだ。応急処置で辛うじて艦載機を収容したものの、激しい攻撃に晒された痕が痛々しい。 特務艦ヴァルハラは、迫る宵闇の中でライトの光を幾重にも屹立させていた。 そんな中、ユアンは甲板の隅で海を見やる。 先程までの
2023年7月13日 19:56
第31話「穿ち貫く軍神の神槍」 二人を別つ、生と死。 今、一つの伝説が終わった。 五十年戦争と呼ばれる長き戦いの末期を、彗星のように駆け抜けた美貌の少女エース……"白亜の復讐姫"の物語は結末を迎えたのだ。 否、この瞬間からエルベリーデは伝説になったのかもしれない。 平和な世の中で語られる戦争の美談として、創作物や逸話の中に生き続けるのだ。 そして、ユアンもまた因縁を振り払った。 一
2023年7月13日 19:51
第30話「復讐姫が朱に染まる時」 再び希望の方舟は疾走り出した。 一切が謎に包まれた動力による、100ノットを超えるスピードで。 戦後の世界で闇から闇へと、影の中で邪悪を討つ……その名は特務艦ヴァルハラ。 死せる勇者が英霊となって集う、神々の黄昏に備えた力だ。 そう、ユアン・マルグスは一度死んだのだ。 憤怒に燃える復讐鬼など、もういない……血涙の赤を纏った"吸血騎士"は死んだ。 今
2023年7月13日 19:41
第29話「朱き空の竜神翼」 揺れる機体が崩壊を始めた。 既にエンジンは死んで、蜂の巣になったボディが破綻し始めている。ラステルを守るため、身を盾に割り込んだユアンの"レプンカムイ"は、煙と炎を引き連れ墜ちてゆく。 否、飛んでゆく。 降りるべき場所、仲間たちの待つ場所へ。 アラートが鳴り響くコクピットの中で、ユアンはまだ飛んでいた。 自分の意思を操縦で伝えて、死にゆく愛機に身も心も重ね
2023年7月13日 19:35
第28話「捨て得ぬものを得た男、捨てるもののない女」 ユアンが死線を超えて飛ぶ空は、既に彼の支配下にあった。 秘密結社フェンリルの飛行隊は、混乱から立ち直るまでに5機を失った。まるで死と破壊が連鎖するように、赤い翼が引き裂く空に炎が爆ぜる。 特務艦ヴァルハラへの対艦攻撃が緩んで、その分だけ敵意はユアンへと集中した。 だが、単機で自在に宙を舞うユアンは、混戦模様の空を朱に染めてゆく。「
2023年7月13日 19:27
第27話「赤い悪魔の羽撃き」 パイロットスーツに着替えたユアンを、再び激震が襲う。 再度エンジンを全開にして、特務艦ヴァルハラは不規則な回避運動で海面を泡立て始めた。格納庫でその振動を感じつつも、至近弾の爆風にビリビリと艦体が震える。 完全に先手を取られ、ユアンたちは空への道を閉ざされてしまった。 近接防御戦闘の最中では、艦載機は発艦できない。 秘密結社フェンリルの部隊は、潜水母艦から
2023年7月13日 19:23
第26話「痛みを止めて」 耳に突き刺さる警報に、艦内の空気が張り詰めてゆく。 ずぶ濡れのままでユアンは、仲間たちと上層の飛行甲板を目指した。こういう時はエレベーターを待つより、自分で走った方が早い。重々しい扉を蹴破るように押して、そとの非常階段へと躍り出る。 そこには既に、手すりから身を乗り出す少女の姿があった。 パジャマ姿でぬいぐるみを抱えているのは、ムツミだ。 恐らく彼女も、突然の
2023年7月13日 19:19
第25話「休息の一時に濡れて」 名も無き翼のシェイクダウンを仮想現実で行った後に、ユアンには懲罰が待っていた。 エインヘリアル旅団も軍隊なれば、軍規は厳しい。 女性主体の女系社会故に、適度に緩めつつメリハリは忘れないのだ。 当然、艦長であるムツミを危機に晒したユアンには、罰が下される。 それを皆は、罰ゲームだと笑うのだった。「驚いた……本当に軍艦の中にこんなものが。悪い夢を見ている
2023年7月13日 19:15
第24話「名も無き翼に、力を」 特務艦ヴァルハラはメルドリン市を出港し、再び外洋へと漕ぎ出していた。市民団体のボートに無言で睨まれる中、楽隊の演奏も市長の見送りもない船出……だが、誰も気にしてはいない。 ムツミが言う通り、エインヘリアル旅団は死せる勇者の集い。 いわば影の戦力、秘匿されて当然なのだ。 人知れず秘密結社フェンリルを追い、危険な武力を武力で撃滅する。 その誓いを新たにしたユ
2023年7月13日 19:11
第23話「無敵の笑顔で」 特務艦ヴァルハラへと戻ったユアンを待っていたのは、喝采と歓声だった。 ただし、自分へ向けられている訳ではない。 艦内の食堂へ顔を出したラーズグリーズ小隊は、あっという間にクルーたちに囲まれてしまった。妙齢の女性から可憐な少女まで、皆が笑顔を輝かせて迫ってくる。 やはり、ユアン以外の全員に迫って取り囲む。「ナリアお姉様! さっき、ニュースの中継で見てました!
2023年7月13日 19:07
第22話「翼が染め上げる空の色は?」 長い夜が明け、出港準備中の特務艦ヴァルハラが動き出す。 いまだ港に係留されたままだが、副長のロンはこれ以上の長居を危険だと判断していた。秘密結社フェンリルは、この国の協商軍はおろか、市民レベルにまで魔の手を伸ばし、侵食している。 今も市民団体の声は、沖への航路を塞ぐようにボートの上で叫んでいた。 現状でヴァルハラは身動きが取れず、艦長のムツミも重傷で
2023年7月13日 19:03
第21話「名も無き夜に」 訪れた宵闇は、サーチライトの中に巨艦を浮かび上がらせる。 今、特務艦ヴァルハラは首輪で繋がれた猟犬にも等しい。そして、周囲には野蛮な狩猟時代に忌避の感情を叫ぶ市民たちがいる。彼らのために害獣を狩り、平和な食卓に肉を並べるのが猟犬の仕事……その真実を知る者など、いない。 闇夜で尚も声を張り上げる市民団体たちに、ユアンは甲板上から溜息を零した。「我々メルドリン市民
2023年7月13日 18:58
第20話「償い贖うために」 無事に特務艦ヴァルハラへと、ユアンは戻ってきた。 彼を救ってくれたムツミは、すぐに艦内の医務室へと運び込まれる。救出部隊は待機していた班と合流し、引き続き艦の出入り口を固めるようだ。 港に停泊するヴァルハラは今、一触即発の事態に直面していた。 協商軍の基地でのテロと、何らかの関係があると思われているのだ。 そしてそれは、事実でありながらも、隠された真実を語れ
2023年7月13日 18:54
第19話「漂白されてゆく空」 妄念を乗せた翼が今、静かに舞い上がる。 瞬間、戦場を支配する空気は戦慄に凍り付いた。 全速力で逃げるヘリが、まるで牛歩の如き遅さに感じる。ユアンはただ、その中で揺られるしかない。ストレッチャーへ横たわるムツミの手を握ってやりながらも、震える彼女に自分の震えが重なった。 ――"白亜の復讐姫" 五十年戦争末期の混沌が生んだ、凄絶なまでに美しい死神。 その血に
2023年7月13日 18:50
第18話「妄執は白く燃えて」 ムツミを両手で抱えて、ユアンは走る。 軍事基地などどこも似たような作りで、それは協約軍も協商軍も変わらない。なにより、ムツミの残した血痕が教えてくれる。それを追うユアンは、敵意への鋭敏な感覚だけは確かで、そこかしこで走り回る兵士たちをやり過ごす。 優れた聴覚は遠くで、銃撃戦の音を聴いていた。 恐らく、ムツミが手配した特務艦ヴァルハラの陸戦隊だろう。 本来、
2023年7月13日 18:45
第17話「絆は鎖に、血は導に」 監禁されたままでユアンは、死を覚悟した。 そして、それを甘んじて受け入れる諦めを拒絶する。 ドアのノックへと背を向けたエルベリーデの、その長い金髪を睨み付けて思考を巡らせる。今、ムツミが大胆にもこの基地に潜入してきた。確か、メルドリン市には協商軍の空軍基地があった筈だ。 なにか、なにか手が……チャンスが残されていると信じる。 諦めない限り、チャンスを作る