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NBAで2023-24シーズンから始まる「スター選手は試合に休まず出るべし」という新ルールについてまとめてみた

NBAは、怪我もなく健康であるはずの選手がロードマネジメント(身体への負担の管理)のために試合を欠場するケース数年頻繁に起こっていることを踏まえ、休養規定に違反したチームに対して1回あたり100万ドル(約1億4千万円!)以上の罰金を科すことができるよう新ルールを制定した

この点について非常にわかりやすくまとまっていた英文記事があったので、その参考和訳を書きに記すとともに、最後に個人的な見解を述べておきたい。

NBAが新たな全米放映権の契約(現在の契約は2024-25年シーズンまでで終了)について交渉を進めている中、NBAコミッショナーであるアダム・シルバーは、(健康な)選手はもっと試合に出るべきだと考えている。以下、この新ルールについて説明をしていく。このでは、これはリーグ、選手、ファンにとって何を意味するのだろうか?

1.ロードマネジメントに関する新ルール概要

NBAが選手休養規定(Player Resting Policy、以下PRP)を導入したのは今回が初めてではなく、2017-18シーズンから導入している。2017年以降、注目度が高く全米で放送される試合(例:当時のゴールデンステート・ウォリアーズ対クリーブランド・キャバリアーズのような人気も実力もあるチーム同士の対決)では、健康な選手を休ませることは禁止された。チームがこのポリシーに違反した場合、少なくとも10万ドル(約14百万円)の罰金が科される。またPRPには、複数の選手を休ませたり、アウェーゲームで選手を休ませたりすることを禁止する規定がある。

今回はこのルールをより厳格な選手参加規定(Player Participatino Policy、PPP)に置き換えられ、2023-24年シーズン開幕から施行されることになる。この新ルールでは、スター選手(過去3シーズンのいずれかでオールスターまたはオールNBAチームに所属していた選手と定義される)を欠場させる際、チームは以下のルールに従わなければならないとされている。

①同じ試合で欠場できるスター選手は1名のみ(複数のスター選手の欠場は禁止)
例えば、ボストン・セルティックスのようにスター選手が2名いるチームはジェイレン・ブラウンかジェイソン・テイタムのどちらかが各試合に出場できるようにしなければならない。セルティックスは両選手共に負傷と判断されない限り、同一の試合で両選手を休ませることは許されない。なお、2022-23シーズンはブラウンは15試合、テイタムは8試合欠場しているが、2人同時に欠場したのはわずか2試合である(うち1回はレギュラーシーズン最終戦)。

②チームはスター選手を全米放送される試合やインシーズントーナメントには必ず出場させなければならない
フェニックス・サンズは2023年11月21日にポートランド・トレイルブレイザーズを迎え、翌日の夜のゴールデンステイト・ウォリアーズとの試合はESPNで全米放送される。サンズのスタープレイヤーであるデビン・ブッカーは、いくら2日連続の試合で身体がつらくとも、怪我をしていない限りはこのウォリアーズ戦を欠場することは許されない。

③チームはホームゲームとアウェーゲームで、スター選手の1試合の欠場人数のバランスを保たなければならない(スター選手3人全員が一気に欠場する、という状況は避けなければならない)
昨季、ゴールデンステート・ウォリアーズのスタープレイヤーであるステファン・カリー、クレイ・トンプソン、ドレイモンド・グリーンの3人は、2022年12月5日のインディアナ・ペイサーズ戦に全員出場してホームで敗れた後、2日後のユタ・ジャズ戦とのアウェーゲームで3人全員休養した(そして負けた)。これと同様のことを新ルールの下で行った場合は、調査の対象となり罰金を科される可能性が高い。

④チームは、たとえばチームがプレイオフに出場できくなったシーズン終盤の消化試合や、チーム再建中等の場合において、スター選手の出場を制限したり長期欠場をさせてはならない
ワシントン・ウィザーズは昨シーズン、既にプレイオフ出場の可能性が途絶えた後、スター選手であるブラッドリー・ビールを膝の痛みという名目で最後の10試合に出場させなかった。新ルールの下では、ワシントンは休養ポリシー違反の可能性があるとしてNBAの調査を受けた可能性がある。また、昨シーズン、ポートランド・トレイルブレイザーズでは、同じくプレイオフ出場の可能性が消えた時点でダミアン・リラードが最終11試合を右ふくらはぎの痛みで欠場した。

⑤チームは、健康な選手が欠場している場合でも、ファンの前に姿を現し、ファンが見えるようにしなければならない
これは何も新しいものではなく、従来のPRPにも既に含まれている。

チームが上記①〜⑤の規則のいずれかに違反した場合、1回目の違反で10万ドル(約14百万円)、2回目の違反で25万ドル(約35百万円)、3回目の違反で125万ドル(約1億75百万円!)の罰金が科せられる。3回目以降の違反に対しては、前回の罰金額より100万ドル(約1億40百万円)増額される。

2.新ルール導入の背景

NBAは現行PRPの下、健康上の理由で選手が欠場する試合は大幅に減少してている一方、ロードマネジメントや怪我の管理・痛み・その他単なる休養(この場合でも、欠場理由は「負傷」が公式の理由になる)により欠場する選手は大幅に増加しているという。こうした状況を踏まえ、NBAでは以下5つの重要な目標の達成のため、新ルールを制定した。

①NBAのレギュラーシーズン82試合への選手の参加率を向上させること
②同一試合における複数のスター選手の欠場を最小限に抑えること
③全米放送やインシーズントーナメントの試合を優先させること
④ファン、一般的な認知度を向上させること
⑤明確なルールと罰則の強化により、コンプライアンス推進を強化すること

特に、NBAでは全米放送の試合でスター選手がコートに立つことが重要だと考えている。また、賭博ビジネスに関連して透明性を確保するための要素もある。情報筋によると、NBAはカジノやスポーツ賭博から1億6700万ドルの収入(約233億円、昨シーズンから11%の増収)を得ているとされている。

3.健康な選手を休ませないよう、NBAは他にどのような措置をとっているか

PRPの他にNBAは最近、特定のリーグ表彰の資格を得るために、選手の最低出場試合数の条件を導入している。

選手がMVP、オールNBAチーム、ディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤー、オールディフェンシブ・チーム、MIP(Most Improved Player、1年間で最も成長した選手)の受賞資格を得るためには、以下の2つの基準のうち少なくとも1つを満たさなければならない。

①レギュラーシーズン65試合以上に出場する
②レギュラーシーズン62試合以上に出場するも、シーズン終盤に負傷し、その負傷以前にレギュラーシーズン試合の85%以上に出場する

この出場した1試合にどうカウントされるか、についてだが、少なくとも20分出場しなければ1試合に出場したとは見做されない。ただし20分に満たなかった試合でも、15分以上プレーした試合が2試合あれば、上記①の試合数に算入できる。なお、この出場時間の条件は、2021-22シーズン最終戦でジュルー・ホリデーが契約ボーナス確保のためにたった7秒だけ出場した、という事態を避けるために追加された。

Jrue Holiday got his $306k bonus for playing in his 67th game of the season with the Milwaukee Bucks 🤑

Posted by NBA on ESPN on Monday, April 11, 2022

また、新ルールの下では、63試合に出場したメンフィス・グリズリーズのフォワード、ジャレン・ジャクソンJr.は、2022-23シーズンのディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれる資格がなかったことになる。

4.新ルールの影響を受けるチームについて

全30チームのうち合計25チーム、50選手(リーグの約11%)が新ルールの影響を受ける。そのうち15チームには、過去3シーズンにオールNBAやオールスターゲームに選出された選手が複数名在籍している。

仮に2022-23シーズンにこのルールが適用されていた場合、46選手が影響を受けたことになる。NBAの定義に基づき、新ルールの下で「スター」に該当する選手は以下の通り。

トレイ・ヤング(アトランタ)
デジャンテ・マレー(アトランタ)
ベン・シモンズ(ブルックリン)
ジェイソン・テイタム(ボストン)
ジェイレン・ブラウン(ボストン)
ラメロ・ボール(シャーロット)
デマー・デローザン(シカゴ)
ザック・ラビーン(シカゴ)
ニコラ・ブーチェビッチ(シカゴ)
ドノバン・ミッチェル(クリーブランド)
ジャレット・アレン(クリーブランド)
ダリアス・ガーランド(クリーブランド)
ルカ・ドンチッチ(ダラス)
カイリー・アービング(ダラス)
ニコラ・ヨキッチ(デンバー)
ステファン・カリー(ゴールデンステート)
ドレイモンド・グリーン(ゴールデンステート)
アンドリュー・ウィギンス(ゴールデンステート)
クリス・ポール(ゴールデンステート)
フレッド・ヴァンブリート(ヒューストン)
タイリース・ハリバートン(インディアナ)
カワイ・レナード(LAクリッパーズ)
ポール・ジョージ(LAクリッパーズ)
レブロン・ジェームズ(LAレイカーズ)
アンソニー・デイビス(LAレイカーズ)
ジャ・モラント(メンフィス)
ジャレン・ジャクソンJr. (メンフィス)
ジミー・バトラー(マイアミ)
バム・アデバヨ(マイアミ)
ギアニス・アンテトクンポ(ミルウォーキー)
ジュルー・ホリデイ(ミルウォーキー)
クリス・ミドルトン(ミルウォーキー)
ルディ・ゴベア(ミネソタ)
カール・アンソニー・タウンズ(ミネソタ)
マイク・コンリー(ミネソタ)
アンソニー・エドワーズ(ミネソタ)
ザイオン・ウィリアムソン(ニューオーリンズ)
ジュリアス・ランドル(ニューヨーク)、
シャイ・ジルゲウス=アレクサンダー(オクラホマシティ)
ジョエル・エンビード(フィラデルフィア)
ジェームズ・ハーデン(フィラデルフィア)
ブラッドリー・ビール(フェニックス)
デヴィン・ブッカー(フェニックス)
ケビン・デュラント(フェニックス)
ダミアン・リラード(ポートランド)
ドマンタス・サボニス(サクラメント)
デアロン・フォックス(サクラメント)
パスカル・シアカム(トロント)
ラウリ・マルカネン(ユタ)

5.スター選手のリストが、2024年のオールスターゲーム後に変わる可能性について

可能性はある。PPPのメモでは、スターの基準にはそのシーズンにオールスターゲームに選出された選手も含まれている。例えば、フィラデルフィア76ersのガード、タイリース・マクシーはまだオールスターに出場していないため、現在はスターに分類されていないものの、もし彼が2024年2月のオールスターゲームに選出された場合、「スター」選手に認定されることになる。そうなると、ESPNで放送され、バック・トゥ・バック(2日連続の試合のこと。選手にとっては疲労が蓄積し非常に辛い。また2日目の試合を行うチームは負ける確率が高い)の2日目の夜にキャバリアーズをホームに迎える2024年2月23日の試合では、新ルールの下、健康である限りは休むことができなくなる。

6.新ルールの例外規定について

新ルールは書類上は厳格に見えるが、NBAは、チームがスター選手のバック・トゥ・バックゲーム(全米放送の試合やシーズンイントーナメント戦を含む)の欠場について、いくつかの条件の下承認を行う例外規定についても言及している。

シーズン開幕時点で35歳、またはキャリア通算出場時間がレギュラーシーズンで34,000分、またはレギュラーシーズンとプレーオフを合わせて1,000試合出場したの選手に対して、事前に承認された場合に限りバック・トゥ・バックゲームの欠場を認める見通しだ。

スター選手がバック・トゥ・バックに出場できないとチームが判断した場合、少なくともその1週間前までに、その選手の出場を制限すべき理由を説明した書面をNBAに提出しなければならない。

この条件に該当するスター選手は、クリス・ポール、マイク・コンリー、ステファン・カリー、ケビン・デュラント、レブロン・ジェイムス、ケビン・デュラント、デマー・デローザン、ジェームズ・ハーデン等である。

例えば、レイカーズは昨シーズン2023年1月30日のブルックリン戦でアンソニー・デイビスとレブロン・ジェームズを試合に出さなかった。この2人は翌日の夜、ニューヨークでニューヨーク・ニックスと対戦した。PPPの下では、レイカーズはジェームスがレギュラーシーズン34,000分以上プレーしているため、ネッツ戦欠場の承認を求めることができる。しかし、新ルールでは、ジェームスが欠場の許可を得た場合、デイビスはブルックリン・ネッツ戦を欠場することは許されない。また、デービスはニックス戦が全米放送される試合であったため、欠場は許されなかっただろう。

リーグはまた、スター選手の負傷歴や異例な負傷歴に基づいて、チームがバック・トゥ・バックの片方を欠場する許可を求めることができるとしている。

クリッパーズがレイカーズと対戦する前夜の2023年10月31日オーランド・マジック戦(ESPN放送)に、カワイ・レナードを欠場させることが可能である。レナードはプレーオフで左膝半月板を断裂し、オフシーズンに手術を受けた負傷歴があるからである。

また、リーグは他にも以下のような例外を定めている。

  • 善意の負傷による複数試合の欠場を余儀なくされる場合

  • 個人的な理由

  • 稀で特異な状況

  • シーズン終了時の柔軟な対応

この例外規定に基づけば、セルティックスは前述のウィザーズとのシーズン最終戦でブラウンとテイタムを休ませる許可をリーグに求めることができる。

7.超大型ルーキー、ビクター・ウェンバヤマの取り扱いについて

皮肉なことに、サンアントニオ・スパーズとウェンバヤマは、NBAのチーム休養規定にも、選手がリーグ表彰を受ける資格があるかどうかを決定する65試合の基準にも影響されない。"スター "選手とは、過去3シーズンのいずれかでオールスターまたはオールNBAチームに出場した選手と定義されているからだ。

また、ウェンバヤマは、新労使協定で追加された65試合出場の条件を満たさなくても、新人王に選ばれる資格がある。レギュラーシーズン中に65試合に出場できなかった選手は5つの賞(上述ご参照)の対象外となるが、オールルーキーチームとルーキー・オブ・ザ・イヤーは含まれない。

尚、スパーズは今季、全米放送対象となる試合は18試合である。

8.仮に昨シーズンこのルールが適用されていたら、どのチームと選手が影響を受けたか

もしこのルールが2022-23シーズンより前に実施されていたら、46人の選手がスター選手に指定されていた。また、新ルールに違反した可能性のあるチームの具体的な事例をいくつか挙げてみる。

①ネッツは12月10日のインディアナ戦で、ケビン・デュラント、カイリー・アービング、ベン・シモンズを含む先発メンバー全員を休ませた。尚、その試合hは選手層が薄かったにもかかわらず、ネッツが最終的に勝利を収めた。尚、、新しいポリシーの下では、デュラントはキャリア累計出場時間の基準を満たしていたため、デュラントのみ欠場が許可されていたことになる。

②クリッパーズはポール・ジョージとカワイ・レナードの両選手を、2023年1月29日のクリーブランド・キャバリアーズ戦を含むいくつかのバック・トゥ・バックの試合のうち、一方を欠場させた。レナードの欠場は承認されたかもしれないが、ジョージとレナードの同時欠場は許されなかっただろう。

③76ersは2023年1月21日、ポートランドでのロード最終戦でジョエル・エンビードとジェームス・ハーデンを休ませた。フィラデルフィアはバック・トゥ・バック明けではなく、2023年1月25日のホームでのブルックリン戦まで再試合の予定はなかった。

これらの3つの事例はすべてNBAによって調査され、罰金を科される可能性が高い。

④ブルズは2023年4月7日のダラス・マーベリックス戦で、デマー・デローザンとザック・ラビーンの2人を休ませた。しかし、すでにプレーイン・スポットを獲得していたため、ブルズは両選手を欠場させても罰金を科されることはなかっただろう。

NBAは選手を休ませることに関して、リーグに有害な行為をしたチームに罰金を科す裁量をまだ持っている。

⑤マーベリックスは同じ4月7日のシカゴ戦で、オールスターのカイリー・アービングを含む複数の選手を休ませたため、NBAから75万ドルの罰金を科された。ルカ・ドンチッチは最初の12分35秒をプレーした後、残りの試合(そしてシーズン最終戦全体)を欠場した。ブルズに敗れたマーベリックスは、プレーイン争いから脱落した。

9.健康なプレーヤーを休ませていると思われないよう、チームが(健康な)プレーヤーを怪我人リストに入れることをどうやって防ぐか

2022-23年のNBAオペレーションマニュアルの下では、選手が負傷していて1試合以上プレーできないかどうかの判断はチームドクターの見解に委ねられていた。また、リーグは、「選手が怪我や病気をしている」というチームの判断をチェックする権限を持っている。

PPPの下では、選手が負傷しているかどうかの判断は引き続きチームドクターが行うが、この新ルールの制定を踏まえ、リーグは選手の出場可能性を判断するための独立したメディカルレビューを含む調査を行う権利を持つ。

スター選手が以下のような状況で1試合以上欠場した場合、自動的にリーグによる調査が行われる。

・スター選手が全米放送またはシーズンイントーナメントを欠場する
・複数のスター選手が同時に同一の試合を欠場する
・矛盾する一貫性のない言動が見られる

2019年、クリッパーズはこの "一貫性のない言動 "の規定に基づき、5万ドルの罰金を科された。当時のドック・リバース監督は、「レナードはバック・トゥ・バックの試合の前に(怪我で(欠場していたにもかかわらず、コンディションは最高だ」と発言した。

また、リーグは以下のような場合にも調査権限を有する。

・スター選手がロードの試合を1試合だけ欠場する
・長期欠場をする
・その他異常が見受けられる状況

10.新ルールについて各チームはどのように考えているか

複数のチームは、スター選手が全米放送の試合に出場し、バック・トゥ・バックの試合で欠場にならないようする必要性は理解できるとする一方、まっとうな懸念も抱いている。

主な懸念は、スター選手の健康状態は良好でバック・トゥ・バックゲームに出場できる健康であるとチームが判断したにもかかわらず、その選手が痛みがあり休養が必要だと判断した場合にどうなるのか、という点である。

もう1つの懸念は、スポーツ科学を駆使して選手の運動量をコントロールしているチームと、この何がなんでも試合に出るべしというPPPの考え方は矛盾するのではないかということだ。

あるチームがESPNに語ったように、バック・トゥ・バックの初日の延長戦で2人のスター選手が45分間プレーしたらどうなるだろうか?データによると、次の試合は休養のために休ませるべきだが、PPPのルールでは、怪我ないため2人ともプレーする必要がある。

11.なぜNBAは、そもそもレギュラーシーズンが長すぎ、また過密スケジュールである、という根本的な問題に取り組もうとしないのか


シーズンを長くして試合数を多くした方がリーグにとっては収入が増えるからだ。

NBAは2023年から24年にかけて57億ドルの収入を見込んでおり、試合を減らせばほぼ間違いなく減収となる。チケット収入、放映権、駐車場、スポンサーシップなど、すべてがバスケットボール関連収入(BRI)に充てられることを考えれば、選手とそのサラリーにも影響が出る。サラリーキャップの決定には、BRIのパーセンテージ(44.7%)が使われる。

レギュラーシーズンの長さを変更するには、NBAと選手会の団体交渉が必要だが、最近のCBA交渉ではほとんど盛り上がらなかった。NBAの新CBAは7月に発効され、適用期限は2029年6月30日までとなっている。

しかし新しいPPPは、金銭的な罰則は選手ではなくチームに適用されるため、団体交渉の必要はない。

(最後に)何のための・誰のための新ルールか:一見ファンのためにも思えるが、ビジネスのためというのが本音だろう

そもそも新ルールができた背景は何か。これは「そもそもNBAのゲームにおける勝利条件とは何か」という問いに関わってくる質問でもある。

もしチームが「優勝すること」を最優先事項として掲げているのであれば、シーズン終了後のプレイオフを見越して、レギュラーシーズンの間で休める間に選手を休ませておくことは合理的な考えである。シーズン中に試合に出過ぎて疲労がたまり、肝心のプレイオフで選手が怪我をするよりは、適度に疲労を回復させて致命的な怪我を防いでおくことは重要だ。極論を言ってしまえば、レギュラーシーズンの成績はプレイオフの成績に大きく影響しないのだから、レギュラーシーズンは流して体力を温存させ、プレイオフで本気を出すことが賢明であろう。

一方で勝利条件を「ファンに楽しんでもらうこと」と設定した場合はどうか。言わずもがなNBAのチケットというのは非常に高額だ。ファンにとっては大好きなスター選手のプレイを観ることができる一生に一度の機会である可能性もある。大袈裟かもしれないが選手やチームから見ればごくありきたりな日常の一試合だとしても、ファンにとっては生涯一度の経験だ。そんな中スター選手が「疲れた」「連戦はきつい」といって、怪我もしていないのにベンチに座っている姿をファンが見たらどう思うか。せっかく大金をはたいて見に来た試合がとてもつまらなくなり、上述の「ファンに楽しんでもらうこと」という勝利条件は満たせなくなる。

そして、その結果は視聴者数にも影響を及ぼす可能性がある。もし「今日は2日連続の試合の2日目だから、スター選手はどうせ出ないだろう」とファンや視聴者がある程度見切りをつけていたとしたら、観戦するインセンティブは下がり、視聴率の低下やアリーナチケット販売収入の低下という結果にも繋がりかねない。

この点について、「NBAのチームは、そもそもファンのためにプレイをすべき。優勝のためのプレイはその次」という立場からマジック・ジョンソンやマイケル・ジョーダン、ステフィン・カリーが持論を展開している。

NBAはファンあってこそ成り立つのだから毎試合出場すべき、という議論は尤もらしく聞こえるものの、ここでは実際にプレーする選手の視点が欠けている。「ファンのために気合と根性で試合に出続けろ」というのは金を払っている観客側の立場から言うことはとても簡単だが、その分選手の身体にかかる負荷は過大なものとなる。極端な話、選手のとしての選手生命よりも目先の1戦の出場を優先したが故に選手生命をそこで絶たれてしまう、などということも起こり得る。したがってリーグは「ファンのために試合に出続けろ」というのであれば、その条件として「バック・トゥ・バックの試合数は減らす」「そもそもレギュラーシーズン82試合が多すぎなので減らす」等、ある程度の負担を軽減する案が同時にあってしかるべきなのだが、今回の新ルール改定に際してこうした譲歩条件は全く提示されていない。これは極めてシンプルで、ビジネスの観点から試合数はこれ以上減らせないからだ。選手の負担よりビジネスを優先したからだ。

誰のための新ルールか、といえば、表面的にはファンのためという大義は成立する。一方で実際に試合をする選手側の負担増は何も考慮されていないこと、さらには現在のNBAの全米視聴率が低下傾向にあること、などを踏まえると究極的にはビジネス(リーグ自身の収益拡大)のためになるだろう。

ファンのため、ビジネスのためのルール改定とは言え、これでもしスター選手の負担が増えて怪我が増えて欠場や引退等が続いたりしたら、それは結局ファンのためにもビジネスのためにもならない。サステナブルな解決策が今後出てくることを望みたい。

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