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映画「デトロイトメタルシティ」を観に行った時の苦いような楽しかったような思い出を綴る

#映画にまつわる思い出

これまで40年近く生きてきたが、感性が乏しいせいか「人生を変えた映画」というものに出会ったことがない。

大学では一般教養科目として「映画論」という授業をとっていたし、所謂名作と呼ばれる映画を一時期貪るように観たことはあったが、それでも自分の内面が大きく変わった、という経験は悲しいが一度もない。

一方で、映画を観に行ったおかげで自分の人生の行き先が少しだけ変わったという経験はある。

それは合コンで知り合った女性との初回デートで「デトロイトメタルシティ」観たときに起きた。

少し話が前後するが、デトロイトメタルシティを観にいく日の少し前、私は合コンで知り合った女性と電話番号交換をした(確か当2008年当時は「LINE交換」というものはまだなかった)。

その後、早速「どこか遊びに行こう」という話になり、どういういきさつでそうなったかはわからないが、「映画館に行こう」という下りになった。

加えて、どういういきさつで選んだのかはもはや覚えていないが「デトロイトメタルシティ」を観ることになった。

そのデトロイトメタルシティを観ている時に、私は松山ケンイチが演じる内気な主人公がヘヴィメタルにのめり込み、必死でデスボイスを発してる姿を見て、思わず号泣してしまったのだ。

そして「全く泣く要素のないワンシーン」で号泣している私を見た彼女は私に明らかにドン引きをしており、このデート以降、連絡を取ることはなくなった。

なぜ私は「デトロイトメタルシティ」を観て号泣してしまったのか。

それは私が大学時代に夢中になっていたヘヴィメタルバンドサークルの日々を思わず思い出し、松山ケンイチに思わず感情移入しまったからだ。

失礼を承知で言うが、大学でバンドサークルに入る学生のほとんどは今でいうところの「陰キャ」であると思っている。その中でもポップな音楽ジャンルに走る学生は「陰キャの中の陽キャ」に分類されるが、そこでヘヴィメタルを選ぶ学生は「陰キャの中の陰キャ」である。

「ヘヴィメタルをやっています」と言えば長髪でドクロのロゴ入りのTシャツとストリートファイター2の春麗がつけるようなトゲトゲのリストバンドをまとっている、少し不良チックな人々を想像してしまうが、彼らの大半は極めて内向的で真面目な陰キャなのである(自分も含め)。

実際よく考えればわかることだが、ヘヴィメタルのようなギター速弾きを習得するためには多くの自主練を要する。ちょっとかっこつけてモテそうだからという軽い気持ちで習得できるジャンルではないのである。

そのため、彼らは多くの青春の時間を楽器の演奏につぎ込む。

他のバンドサークルとの合同ライブでは、メタルサークルの演奏の順番になった瞬間、ポップな音楽を聴きにきた女性が皆ライブハウスから消え、残った者たちがステージの前でモッシュやダイブを繰り広げ、その空間を楽しむ。

そんな青春時代を送った自分にとって、シャイで陰キャなデトロイトメタルシティの主人公・根岸崇一の行動・言動は感情移入できるものばかりであり、鬱屈としつつも充実した学生時代を思い出し、観ている途中から思わず号泣してしまったのだ。

そんな私を横目に見た、少し前に合コンで知り合った女性は「理解不能」という苦笑にも似た笑顔を浮かべた。その後、連絡は途絶えた。

もし私が映画館を選ばなければ、もしデトロイトメタルシティを選ばずもっと無難なジャンルの作品を選んでいれば、もしかしたらまた違った展開もあり得たのだろう(ちなみに私はこの文章を未練タラタラで書いているわけではない)。

この映画は私の生き様な内面を変えなかったが、私の人生の進む道を確かに変えた。それは間違いない。



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