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米国で拡大するVenture Debtについて概要をまとめてみた

Bloombergの記事で、2022年に入ってから米国でベンチャーデットによるスタートアップの資金調達が増回傾向にあるとの記載があった。記事によれば、2022年上半期でベンチャーデット組成額は前年同期比で7.5%増の171億米ドルとのこと(ちなみに同期間でベンチャーキャピタルからのエクイティ調達額は8%減の1477億米ドル)。

エクイティ調達に比べればベンチャーデットの調達額はまだまだ規模は小さいけれど、大手PEファンドのBlackstoneも今後数年で20億ドル規模のデットをグロース企業に供与する予定であり、同じくPEファンドのKKRも今後強化していく旨の記事が最近出ており、ここ最近でベンチャーデットの注目度は高まりつつある。そこで今回はベンチャーデットの生みの親と言っても過言ではないシリコンバレーバンク(Sillicon Valley Bank、以下SVB)のホームページに掲載されている「Venture Debt:  How  It Works」を元に、ベンチャーデットとは何か、について以下にまとめてみた。

ベンチャーデット概要

ベンチャーデットとは:ベンチャーキャピタルから投資を受けているスタートアップ(創業から時間が経っておらず、急成長を志向する企業。家族経営の理容室等、事業拡張を志向しない企業はこれに該当しない)向けのローンのこと。

ベンチャーデットの提供者:銀行またはノンバンク。

ベンチャーデットの要件:借入企業がベンチャーキャピタルからの出資を受けていることが前提条件。無い場合、ベンチャーデットを供与することはできない。

特にアーリーステージがベンチャーデットを調達しようとする場合、前回の資金調達ラウンドの際に設定した事業計画の達成状況と将来計画している次回資金調達ラウンドのタイミング、そしてその資金調達計画に対しベンチャーデットの位置付けを正確に説明できることが必要となる。

通常の銀行ローンとベンチャーデットの違い

通常の銀行ローンは収益性(当期純利益が確保できているかどうか)とキャッシュフロー(資金繰りに問題がないか)、を主に見ているが、ベンチャーデットは融資先の収益性よりも成長性を重視している。

通常の銀行ローンは過去のキャッシュフローや運転資本資産に焦点を当てる一方、ベンチャーデットは成長性に重きを置いた審査を行い、また追加でのエクイティ調達が可能かどうか、を見ている。

ベンチャーデットの諸条件について

借入の目的のみならず、スタートアップの事業規模、これまでに調達してきたエクイティの額や条件によって大きく変わってくる。

調達可能なベンチャーデットの額は、直近のエクイティ調達ラウンド額の25%から50%程度。なお、まだプロダクトの研究開発フェーズであったり、創業してまだ間もない段階でのベンチャーデットの調達額は、事業拡大フェーズに入っているレイターステージにおける調達額に比べかなり少額となる。

一般的にシードステージのベンチャーデットの調達は不可。

ローン期間は通常 3 ~ 4 年以内。返済条件は、最初の 6 ~ 12 か月は利息のみ支払い・元本返済義務は無しで、その後元本返済が開始されるケースが通常。

返済原資:将来のエクイティ調達ラウンドで調達した資金。従って、融資先のスタートアップ企業が、将来継続的にベンチャーキャピタル等の投資家から資金調達を得られるかどうか、はベンチャーデット供与時の重要なポイントになる。

デット(負債)とエクイティ(資本)の違いとは

返済の義務があるのがデット。返済の義務は通常ないのがエクイティ。
長期の資金、短期の資金両方を、条件次第で柔軟に設計して提供するのがデット。基本的に長期資金を提供するのがエクイティ。
資金の利用は、予め特定しと使途に限定されるのがデット。ほぼ全ての事業目的に対し調達した資金を使えるのがエクイティ。
調達条件の変更やストラクチャー変更が期間の途上で可能なのがデット。「資本政策は不可逆性があり」と言われる通り、一度調達したらストラクチャーの再構築や条件変更不可なのがエクイティ。

スタートアップにとってのメリット

創業者持分の希薄化を避けつつ、資金調達ができる
また買収や設備投資、在庫資金確保のための資金調達、または次のエクイティ調達ラウンドへの短期的なブリッジファイナンスとして、エクイティ調達対比で素早く調達ができる。

主要プレイヤー

もちろんSilicon Valley Bank (SVB)である。SVBはその名の通り、シリコンバレーを拠点とする銀行であることからテクノロジー企業の知見、スタートアップエコシステムに対する造詣が深く、資金のみならず、財務アドバイス、セクター知見の提供、ネットワークを融資先に対して提供することができる。

審査のポイント

貸し手が主に見ているのは以下の3点。
①将来、追加のエクイティ調達を必要としているか?(=ベンチャーデットの返済原資となる将来のエクイティ調達が発生する可能性は相応にあるか?)
②次のエクイティ調達ラウンドの評価に影響を与えそうなKPI・財務指標は何か?
③株式の希薄化を起こさないBSで、到達できるパフォーマンスレベルは?

ベンチャーデットの貸し手は、会社のBurn Rateと手元流動性(キャッシュ残高)を注意深く分析し、現預金残高が尽きるまでの所要月数(Runway)を算出する。

十分な成長性と手元流動性を備えたスタートアップは、次のエクイティ資金調達ラウンドで、ベンチャーキャピタル等の新規投資家からの高い関心を惹きつける可能性が高いため、ベンチャーデットの審査が承認される可能性が高くなる。逆に上記のいずれかが不足している場合、新規投資家からの調達は困難となる可能性が高く、したがってベンチャーデットを受けることができない可能性も出てくる。

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