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漫画の話.6 井上雄彦

スラムダンク

スポーツ漫画は人気ジャンルだ。
連載開始当時、すでに世の中には多くのスポーツ漫画があふれていた。
スポーツのルールを利用したアクションやギャグをストーリーに組み込んだ作品が多かった。
「スラムダンク」はバスケットボールを題材にしたスポーツ漫画だ。野球やサッカーの人気が高い時代、「バスケ漫画はヒットしない、いざとなったら別ジャンルに変更できるように」と編集部に言われ、不良要素とラブコメ要素を取り入れて連載を始めたそうだ。

主人公の桜木花道は、中学時代に喧嘩ばかりしていた不良。
根は真面目で純粋な彼は、高校に入学して赤木晴子に一目ぼれをする。
晴子がバスケ部のマネージャーである事から、バスケ部に入部する。
最初は晴子に「格好いい」と思われたいだけで、バスケはどちらかといえば嫌いだったが、面白さに気づき、成長し、やがて自分の意思でバスケをするようになる。自分が素人である事を逆に長所とし、物怖じせず挑戦して行く姿が感動的だ。

晴子の憧れの人で、花道が勝手にライバル視する相手、流川楓は、中学時代からスター選手。しかし自己中心的でワンマンなプレーが多い。目の前の相手をドリブルで抜いてシュートを決める事が最優で、人付き合いは苦手。しかしバスケはチームスポーツ。精神的に成長し、チームが勝つ為に仲間を信じ頼る事ができるようになる。

クライマックスの重要な場面で、花道にパスを出すシーンは、思い出すたびに泣きそうになる。最初から読み返すと、流川は最初の頃から花道のポテンシャルに気付き、成長の手助けをしている事に気付く。花道の成長が自分自身の成長にも係わっている事が、わかっているかのように。

桜木花道と流川楓が物語りの中心だが、魅力的な登場人物は他にもたくさんいる。三井寿と安西先生のエピソードは特に人気が高い。試合で対戦する相手高校の選手もみんな個性的で魅力的だ。個人的には綾南高校の仙道彰が好きだ。

主人公の髪型がリーゼントからボウズ頭に変化したあたりから、バスケ濃度が上がり、どんどん面白くなっていく。

スラムダンクが、これまでのスポーツ漫画と一線を画す人気と地位を得た理由は、徹底的に「スポーツのリアル」を描いたからだと思う。
主人公が初心者だから、最初は地味な基礎練習ばかりさせられる。漫画的にはつまらない話だが、後の成長に説得力を持たせ、読者は成長を見守った仲間の視点で、後の活躍を楽しむ事ができる。そして勝負は時の運も係わる。努力が報われない事もある。それでも次を見据えてまた努力する。スポーツだけでなく、勉強や仕事にも通じる、全てのがんばる人に共通する普遍的なメッセージが込められている。

実は、小学生の頃サッカーをやっていた息子に、
「サッカーにも役立つから、これ読みなよ」と与えたら、影響を受けすぎてしまい、6年生でサッカーを辞めてバスケを始めてしまった。


バガボンド

「スラムダンク 第一部」の連載終了後、しばらく経って1998年からモーニングで連載を開始した、吉川栄治の「宮本武蔵」を原作とする作品。
井上雄彦が宮本武蔵を描くって事に、驚き興奮した。
この頃から今までずっと、毎週モーニングを買って読む事が習慣になった。

どこか桜木花道を想起させる、若く猛々しい武蔵の青年時代から始まり、死闘を重ね、悩み迷い、成長する。そして段々と原作から離れ、完全にオリジナルな佐々木小次郎編が始まる。原作では、あの有名な“巌流島の決闘”で小次郎は武蔵に敗れる事を読者は知っている。原作の小次郎は、あえて読者から嫌われるような嫌味なキャラ設定だが、「バガボンド」の小次郎はまさかの“ろう者”で、耳が聞こえない。それでいて愛嬌があり、聴覚以外の感覚に優れ、天才的に強い。魅力的なキャラクターなのだ。

最初の頃は「いずれ武蔵に負けるやつ」って程度の認識だったが、段々と好きになってきて「こんなに強いのに、武蔵に負けるの?」って悲しくなり、
「もう戦わないで!きっと気が合うから、友達になって!」っていう、両者の親のような心境に変化してしまった。

作者も描くのがつらいと思う。
巌流島の決闘の少し前あたりで中断し、2015年からずっと休載が続いている。いつか再開するんだろうか。案外このままでも風流な気がする。





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