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『新潮』2023年2月号に温又柔『祝宴』(新潮社)の書評(≒作品論)を書きました。

書評と作品論は厳密に言えば、僕のなかでは別物なのですが、今回、編集部から論として踏み込みのあるものを書いてくれと依頼があったので、作品論に近いものを書きました。

今回の作品『祝宴』の主人公は台湾から日本へ移住してきた移民一家の父親、明虎。次女の結婚式の日、長女が彼にあるカミングアウトをすることから物語が始まります。

まず本作と、これまでの温又柔作品を比べて、僕が最初に感じたのは文体の違いでした。本作の文体からは作者の温又柔さんが、文章を通じて、じぶんにとって〈他者〉にあたる父親と身体的な同一化を試みようとする気概を感じたので、書評にはそのことを書いています。

その上で温又柔さんのこれまでのテーマである〈ふつう〉を巡る煩悶が、本作でどのように変奏されているのかをかんがえました。手がかりとなるのは、前作の『魯肉飯のさえずり』です。前作は本作と対になる小説で、移民の母親とその娘・桃嘉の物語でした。

僕は前作の『魯肉飯のさえずり』が大大大好きなんですね。何度も人生の苦境に陥る桃嘉の前に、彼女を救い出してくれる大切な人が現れるたびに心が大きく震えてしまう物語になっていて、電車のなかで思わず泣いちゃったのを覚えてます(笑)。

『魯肉飯のさえずり』は僕にとっても思い入れのある作品なので、今回の書評では2つの作品を並べながら『祝宴』を論じました。ちなみにこの2作の比較は決して無理筋なものではなく、というのも、桃嘉のお父さんが本作にさりげなく登場するんですね。桃嘉が幸せになったことがわかる逸話も描き込まれているので前作のファンは要チェックです。

ぜひ書評も小説もお手に取っていただければ幸いです。

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