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「週刊金曜日」(2023年10月20日号)に丸木位里・赤松俊子『ピカドン/『ピカドン』の時代』(琥珀書房)の書評を書きました。

『ピカドン』は1950年に丸木位里と赤松俊子によって制作された絵本です。広島に原爆が落ちた瞬間の前後を描き、そこに短い説明文が添えられたこの絵本は、かつて大江健三郎『ヒロシマ・ノート』にも挿画として使われ大きな注目を浴びました。戦後、何度か復刊されたのですが、その初版を初めて完全に再現したのは今回が初めてだと言います。

表紙を開くと三瀧町のある老婆の語りから始まります。突然途絶えた戦時下の日常の、その断面に顕れる被曝の真実。それを伝える老婆の声が記憶を呼び覚ますと、次第に声は描写に変わり、日常から切断された情景が世界に再び映しだされる。あの日、あの瞬間の当事者の記憶の継承が64枚の絵を通じて、戦後という時間のなかで行われ続けてきたわけです。

書評でも書きましたが、だからこそ、今回の復刊はとても意義深いですよね。琥珀書房という版元の、琥珀という名前に込められた、過去を過去として葬らない意思が見事に身を結んだ偉業だと僕は思います。

別冊としてセットになっている解説の冊子も充実。5人の研究者がこの絵本の歴史的/文学的な価値を伝えてくれます。

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