「国連を使い倒せ!」「世界人権宣言に私たちはいるんだね」――5/2 牧村朝子×谷口洋幸「世界は日本をどう見てる?」トークライブレポート

2019年5月2日、新宿のアイソトープラウンジにて牧村朝子さんと谷口洋幸さんによるトークイベントに参加しました。今回はその要点をまとめたレポートになります。参加した人の復習用に、行きたいけど行けなかったという人のためになればなと。このイベントは録音録画NG(撮影はOK)でしたので、メモ書きから記憶を掘りおこして書いてみようと思います。一言一句同じではないですし、有料イベントでもあるので細かいところまですべては書いてません。ご了承を。

2時の開演時間を少し過ぎたところで司会の石田仁さんが登場。谷口さんをお迎えするにあたり、みなさんで「たにたに~!!」と呼びましょうね、と初っ端から会場を盛り上げてくれました。金沢大の生徒さんたちに置かれましては、是非GW明けの授業でこちらを実践していただき、先生の度肝を抜いてほしいと思います。んなことはさておき、かなり困惑した形で谷口さんが登場。その後魔法のステッキ(限りなく泡立て器に似ている)が石田さんから渡され、谷口さんがステッキを振り回し、みんなで「まきまき~!!」と会場で声を張りあげて牧村さんをステージに呼びました。イベントの内容はしっかりとした講義、といった雰囲気でしたが、登場はカジュアルというかカオスで面白かった。アドリブに戸惑うお二方。なお、牧村さんはTwitterでよく見かける和装男装姿でして、衣装はちょっとラフで色味も地味だけど、アイシャドウは赤くてメイクはかっちりで艶っぽくて……という、とっっっても素敵なスタイルでした。着物を普段着にするのは躊躇するけど(汚れや歩きにくさなど)、袴ならいいかもなぁ。

国連から日本への勧告

そんな派手な登場が終わり、いよいよトークイベントスタート。谷口さんがスライドを使いながら概要を話し、牧村さんがわかりやすく言い換えたり合いの手を入れてくれる、といった形式。終わりがけに仰っていたのですが、谷口さんはなんと大学の講義3コマ分のお話を2時間に凝縮してくれたそうで、かなり内容の濃いものとなりました。国際人権法が専門の先生から、「人権」について2200円(500~700円のドリンク&冊子BEYOND付)で学べるって破格!!

LGBT関連で「世界は日本をどう見てる?」というと、日本はとにかく遅れてる!(怒)という方向に話が行きがちですが、そうじゃなくてもっと細かく見ていきましょうというのが今日のメイン。ニュースでもやらないし、みんなあまり知らないけれど、実は日本には国連からの勧告というものが数多く出されています。特に、2014年に国連自由権規約委員会から出されたLGBT関連の内容は以下の通り

・SOGI(性的指向・性自認)の差別禁止法を作るべき

・SOGIに関する差別被害者の救済をちゃんとするべき

・同性カップル間のDVの防止対策を取るべき

・差別に対する啓発活動をもっとするべき

・公営住宅に同性カップルが入れるようにするべき

といったものです。ちなみに国連の総括所見、政府による定期報告書および回答などはすべて外務省人権人道課のHPに公開されており、無料で読むことができます。↑に書かれているのはこれ。→同報告に関する自由権規約委員会の総括所見(2014年7月24日)

国連自由権規約委員会は、行政の人間ではなく人権の専門家集団で構成されています。委員会が各国に事前質問を送る→各国が質問に答え、定期報告書をあげる→委員会が市民情報とともにその内容を審査する→総括所見を発表、勧告が言い渡される→各国はそこで提示された課題をクリアできるようがんばる、というサイクルでできており、約8年でこれが繰り返されます。

なお、最後の「公営住宅に同性カップルが入れるようにすべき」という勧告に関しては、以下のようなやり取りがあったそうで。

国連「2008年に公営住宅に同性カップルが入れるようにすべき、といったやつどうなったん」(※前々回の08年に既にこの内容の勧告があったのです)

政府「公営住宅法を改正し、同居親族要件を撤廃しました。入れるようになりました!」

国連「ほんまか」

市民「ほんまじゃない」

国連「どういうこっちゃ」

政府「公営住宅の入居要件については、地方自治体が決めることになったんで……」

まきむぅさん「出た!特技たらい回し☆」 ちなみにこのやり取りの内容も読めます。PDF15頁。→同報告に関する自由権規約委員会の事前質問に対する政府回答

そもそもなぜ国連が人権を扱うの?

国連が人権を扱うようになった経緯には、1948年の世界人権宣言に礎があります。

前文)人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、
 人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言されたので、
第一条)すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

これも外務省のHPに載っています。→世界人権宣言(仮訳文)

ここで重要なのは、前文にある「野蛮行為」。これはいったい何を指すのか? 答えはずばり「ナチスの強制収容所」。強制収容所というとユダヤ人を思い浮かべますが、実際はユダヤ人だけではなく、ナチスのイデオロギーに沿わない人々……政治犯・移民(ジプシー)・同性愛者・障がい者・精神疾患者・聖書研究者(エホバの証人)の人々も収容されました。

ここで同性愛者はゲイだけですよね?という牧村さんの質問。ナチスはゲイは禁じたものの、レズビアンに限っては性的指向を矯正すれば子どもを産むことができるため、強制収容の対象ではなかったという話は有名ですね。しかし、今まではそのように言われてきたが、最新の研究ではレズビアンの人もいたのではという説もある、というのが谷口さんの回答でした。強制収容所に関しては、証拠隠滅のため資料が焼かれていて(どっかの国の賃金データが吹っ飛んだように)、生き延びている人たちの証言も少ないため、実証ができないようです。

収容所に入れられた人々は、民族や宗教、生産性といった基準で選ばれたひとたちであり、帝国の経済状況が悪化し、運営費用も無駄やね、となると殺戮が始まっていきました。そして一番重要なことは、この「野蛮行為」は決して法も議会もないような原始社会で行われたことではなくて、合法のもとで行われた、ということです。合法のもとで、国民の選挙で選ばれたひとたちが、国会で決めたことで、このような強制収容および殺戮が行われた。そのような「野蛮行為」――国家が合法だからいいでしょ、といって差別を容認し国民の人権を奪うような行為――は、二度と繰り返してはならないんだ。こうした背景が国連のベースにあります。

「人権」って結局なんなん

人権。人間の権利。英語でHuman Rights、フランス語ではDroit de l'homme(もしくはDroit de humaine)。日本で人権という言葉を使うと、なんだか左翼っぽいとか、意識高い系に思われるけど、フランスでは普通に使う言葉だし、右翼だって使うよ、とフランス生活の長い牧村さんのお話。人権が日本で誤解されているのは、「権利」という言葉のイメージによるものがあり、そもそも明治時代にライツを「権利」と訳したことが間違いなのでは、「権理」の方がよかったんじゃないか、など今更そこに戻るんかい!といったような議論があるようです。「利」だと利益とか利潤とかいう言葉が想起されるので、権利を主張すると「生意気」「みんな我慢している」など筋違いの批判を受けることがあるけれど、そうじゃないんだよ、利益とかじゃなくてこれは「正しさ」の話なのに……と谷口さん。

第一条)すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳権利とについて平等である。

再び世界人権宣言の第一条を引用しましたが、この通り、人権のキーワードは「自由・尊厳・平等」です。英文だと、All human beings are born free and equal in dignity and rights. そして、LGBTsに関しては、80年を経てもこのfree and equalはまだまだ達成されていないという現実があります。牧村さんは、「人権」の訳は「人間あつかい」がよいのではないかと提案し、谷口さんも同意されていました。

国連の勧告は「外圧」ではない

国連からの勧告をよく思わないひとたちは、「外圧でしょ、従う必要なんかない!」と言うひともいます。しかし、国連からの勧告は外圧とは言えません。なぜかというと、

・国連は「市民社会情報」を受け付けている。委員会の人々は各国に散らばっており、193ヵ国すべてに精通していることは不可能であり、実際の生活に関する情報は手に入りにくいことがある。そのため、我々はメールといった形で国連に情報を提供することができる。(!!)つまり、国連から出される総括所見には間接的に市民も参加しており、まったき外国人からの一方的な勧告というわけではない。

・国連からの勧告は無視してよいものではない。なぜなら憲法の98条2項にその旨の記載がある。

日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

また、勧告はなにも国連→日本だけではなく、国同士の審査・勧告もあります。日本も他国に勧告を出しています。ここで、昔日本がフランスに「女性の社会進出推進にもっと努力すべし」、という21世紀最大のブーメランを放ったという話が谷口さんから紹介されました。会場はもちろん笑いに包まれる。どんなギャグなんだいったい……。フランスだぞ。

なぜ人権に関して「啓発」活動しか行われないのか? 人権イコール道徳という誤り

国会ではLGBTに関する差別禁止法・理解増進法の制定に関する議論がやっと出てきたところです。差別禁止法は、罰則はないものの「禁止」「防止」といった内容が審議されています。しかし、理解増進法に至っては、結局「啓発」という内容しか盛り込まれないで終わりそうという気配が。これでは法的効力はないに等しく、「啓発」だと理解する/しないの問題になってしまう。理解する/しないというのはつまり、「差別やイジメはやめようね☆」「みんな仲良くしようね~☆」(byまきむぅ)くらいの話であり、社会の仕組みを変えることにはなんら影響がない。ここに、政治家や一般市民による人権という概念の勘違いが見られます。つまり、人権を道徳と勘違いしている、ということ。

道徳という言葉を牧村さんの「みんな仲良く」と置き換えます。みんな仲良くしてね!が法律の内容です。この法律が守られなかった場合、いったい誰に責任があるのか。それは仲良くできなかったみんな、であり、これはつまり政府の責任を放棄・転嫁しているに等しい。国民の理解がまだまだ足りんな(ま、俺たちはなにもしないが)という政治家の声が聞こえるようだ……。

啓発活動自体はもちろん重要ですが、それだけで終わってしまっては意味がない。さきほどの繰り返しになりますが、人権とは「正しさ」「人間あつかい」の話で、みんな仲良くしようね、ではないのです。社会システムそのものを変えることが求められます。同性婚の議論もそうで、認める/認めない、結婚制度がなくて困ってる人たちを助けよう☆、ではなくて、婚姻制度が存在する時点で、同性に限って認めない理由がない。というわけです。それが人権というものです。

結びに

「国連を使っていこう! 国連を使い倒せ!(日本はアメリカに次いで2番目に国連の費用を供出しています)」――谷口さんからの強いお言葉。さっき言ったとおり、国連にはメールをすることができ、なんと一般市民が情報提供することができる! もちろんちゃんと読んでもらうためのメールの書き方とか形式とかは守らなくてはなりませんが。また谷口さんら研究者の方々がロビー活動なんかもしてくれているようで、この前も会議のとき委員会のメンバーとカフェで喋ったとか。国連にメールができて、会議の様子なんかもライブストリーミングで配信されて、こんな素晴らしい時代だからこそ使わない手はない!

「世界人権宣言に私たちはいるんだね」――牧村さんからの勇気をくれるお言葉。世界人権宣言の前文には、

(略)社会の各個人及び各機関が、この世界人権宣言を常に念頭に置きながら、加盟国自身の人民の間にも、また、加盟国の管轄下にある地域の人民の間にも、これらの権利と自由との尊重を指導及び教育によって促進すること並びにそれらの普遍的かつ効果的な承認と遵守とを国内的及び国際的な漸進的措置によって確保することに努力するように、すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準として、この世界人権宣言を公布する。

私たちのことも、しっかり書かれているのです。


補足・雑誌掲載)TOKYO RAINBOW PRIDEのオフィシャルマガジン『BEYOND――特集 日本のLGBT30年史』の34~35頁に、谷口洋幸さんによる「LGBTと人権――国際人権の視点から考える意味」が載っています。谷口さんによると、今日話したことの50%くらいは書いてあるとのことなので、TRPで雑誌をもらった方は是非そちらもご覧ください。

補足・会場情報)「新宿三丁目」C8出口からすぐでした。ただ場所がわかりにくいので注意。目立たないところにあるので、地上の看板を見逃さないよう。この日は開場待ちの人が20人くらいいたのですぐ見つかった。 トイレは一箇所です。男女共用ということですね。入って右の赤いところが小便器、左に個室3つ。 ドリンクは500円から。ワンドリンク付きの場合は、500~700円のものを注文できます。アルコールだけでなくソフトドリンクももちろんあります。クランベリージュースおいしかった。

2019/5/4 長月

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