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緊張と安堵

数年前、障害児にかかわる仕事をしていたときの話。

私が担当していたのは、知的障害を伴う自閉スペクトラム症の男の子だった。

彼が小学2年生くらいの頃、私と彼の前にゴミ収集車が止まったことがあった。
ゴミ収集車は、すごい音を立てながらゴミをどんどん飲み込んでいた。

自閉スペクトラム症の人には回転するものや一定のリズムで動くもの好きが多い。
でも、大きな音は苦手。

彼もそうだった。

彼とは手を繋いでいたし
ゴミ収集車からは大きな音がしていたから
まさかそんなことがあるとは思っていなかった。

それはあっと言う間の出来事だった。

私がちょっと他の職員と言葉を交わした瞬間に
私の手を振り解いて、彼はゴミ収集車の回転板に向かって走り出した。

彼がまだ幼く身体が軽かったことが幸いし
彼の服を掴み止めることができた。

その場に座り込み彼を抱きしめて安堵した。

ゴミ収集車には作業員の方も数名ついていて安全管理はきちんとされている。
私が止められなくても、作業員が止めていただろうと思う。

でも、絶対はない。

その時、もしゴミ収集車が道路の向こうで作業をしていたら…
それでも、彼は行き交う車には目もくれず
ゴミ収集車に向かって走り出していただろう。

私の危機管理が甘かったといえば全くそうなのだけれど。

あの瞬間の緊張と自分の情けなさと
彼を危険にさらしてしまった後悔と
間に合った安堵と
あの時の全てを私は一生忘れないと思う。

障害児を育てる全ての親に
毎日一瞬でも安らげる瞬間があって欲しいと願う。

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