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大学院生たちはどう生きるか!? 人生で打ち込んできたこと、ありますか?

生物、考古学、森林保護、数理生物学…さまざまな分野で研究に打ち込む現役大学院生5名を迎えた第102回名大カフェ。寒の戻り甚だしい3月初旬、「大学院」にピンときた幅広い年代のみなさんが名古屋大学に集まりました。

会場のNIC館1F Idea Stoaは、アットホームな雰囲気に包まれました。

今回のテーマは、「大学院生たちはどう生きるか。」大学院進学が減少傾向の今、大学院生たちは研究を通じて何を得て、苦境にどう向き合っているのか、赤裸々に語り合いました。

ゲストのみなさん:左から榊晋太郎さかきしんたろうさん(生命農学研究科修士2年)、須賀永帰すがえいきさん(環境学研究科博士3年)、鈴木華実すずきはなみさん(生命農学研究科博士3年)、山ノ内勇斗やまのうちはやとさん(理学研究科修士2年)、西山尚来にしやまたからさん(理学研究科博士2年)

大学院で打ち込んだ研究は?

今回のゲスト5名は、大学院での研究成果をプレスリリースした経験の持ち主でもあります。研究や人生へのパッションを表す「とっておきの一枚」を披露しながら、取り組む研究やその醍醐味を語ってもらいました。

「新型コロナを数式で読み解く」──西山尚来にしやまたからさん

西山さんのパッションは、ウイルス、数式、バスケ。「この3つのキーワードで、ChatGPTが作成しました。ちなみに数式は何の意味もなしていません(笑)」

私は、数学で生物現象を読み解く研究をしています。新型コロナのワクチンって、感染しにくくなっても、感染を防ぐわけじゃないですよね。実は粘膜抗体がウイルスの感染を防ぐのでははないかと言われています。そこで、ウイルスや粘膜抗体のデータを数理モデルで解析すると「鼻の粘膜抗体がウイルス排出を防ぐことを示せました。粘膜抗体を標的にしたワクチンも考えられるかもしれません。このように、限られたデータを活用して素早く世に還元できるので、数式はパンデミックの時などに有効活用できると思います。

「ヨルダンでホモ・サピエンス発展の謎に迫る」──須賀永帰すがえいきさん

「今大変な状況のイスラエルの隣、ヨルダンで発掘調査中の自分です」

僕は旧石器時代の人類進化を研究をしています。旧石器時代は、ネアンデルタール人やデニソワ人など、いわゆる旧人もいた時代です。日本にはホモ・サピエンス(現生人類)以外の人類の痕跡がまだ見つかっていないので、西アジアをフィールドにしています。旧石器時代の中で時期を区切って、石器の材料となる石材の変化を調べると、旧人が絶滅し、ホモ・サピエンスだけが生き残ったとされる時代に石器石材を使い分けています。なぜホモ・サピエンスだけが生き残ったのか、アフリカからどうやってユーラシア大陸全域に広がっていったのか、石器とその材料にまつわる文化行動を掘り下げながら検討しています。

「デンキウナギで遺伝子導入!?」──榊晋太郎さかきしんたろうさん

「デンキウナギが餌に食いつき、放電する瞬間を捉えました」

僕は修士研究で「デンキウナギが他の生物の遺伝子導入を促す」という仮説を検証しました。遺伝子組換えをするときに電圧をかける手法は、生物学実験で昔から使われています。デンキウナギは、獲物をとる時に高電圧で放電します。水中には色々なDNAが浮遊しています。デンキウナギが放電する瞬間に他の生物が近くにいたら、その生物に水中のDNAが導入されるか…?実験は大成功でした。DNA導入した生物の世代交代までは観察していませんが、自然界でも同じことが起きていて、生物の進化に繋がっていたら面白いなと思います。

「生物の交尾行動の謎に迫る」──山ノ内勇斗やまのうちはやとさん

「実際は2−3mmなんです…」山ノ内さんのとっておきは、巨大スクリーンいっぱいに広がるショウジョウバエの交尾…!

「交尾に関わる神経メカニズムを知りたい」と思い、研究を始めました。ネズミなど小動物は素早く交尾しますが、昆虫は意外に長いんです。ショウジョウバエの交尾も20〜30分このままの体勢です。そこで、機械学習を独学し、自作した交尾映像の解析システムを使って実験しました。その結果、この体勢をキープする遺伝子があって、交尾の成功に欠かせないことを発見しました。交尾は生物の繁殖にダイレクトに繋がるので、生物多様性を守る取組みなどに貢献できるかもしれません。

「木を見て、森も見る」──鈴木華実すずきはなみさん

「研究の道に進んだきっかけはコレです」イエローストーンで見た野生のオオカミの写真に喜びを隠せない様子☺

学部4年の研究室配属の直前、大学の演習林でササの花が120年ぶりに一斉に咲きました。これはまたとないチャンスと考え、ササと森の動物の研究をしてきました。120年前の古文書に、ササが咲いてネズミが増え、林業に被害が及んだと記録があります。今回も、ササの実を食べるノネズミが大量繁殖し、森の生態系に影響することが分かりました。いずれはオオカミ研究をしたい強い気持ちを持って、こういった森林保護学の研究をしています。

ライフラインチャートから見える、私の人生

後半は、会場のみなさんにライフラインチャートを配り、生まれてから今に至るまでの気持ち書き出し、人生を振り返る時間としました。

「ライフラインチャート」とは
キャリア支援のカウンセリングで使われるツール。自分の感覚で、良かったことはプラス、大変だったことはマイナスとしてグラフ化します。その時々の気持ちを可視化し、人生の振返りを促します。

ゲスト5人のライフラインチャートを拝見。それぞれの人生を少し深堀りしていきます。

ゲスト5人のライフラインチャート。上がり下がりのパターンも幅も人それぞれ。

── 須賀さんは第一志望ではない高校に進学後、チャートが右肩上がりですね。

入学後、もっと勉強するようになりました。第一志望に受かっていたら、これでいいやと思って堕落していたかもしれないです(須賀さん)

── 幼少期の歴史への興味が、今に繋がっているようですね。

はい。歴史や博物館が好きで、そのままここまで来ちゃった感じです。名大環境学では、博物館で考古学を研究する教員がつくため、通常の考古学の研究室とは異なり、理系の教員や学生に囲まれた環境です。石器石材の研究では理系の発想がプラスに働きました。石器の大きさや種類と、材料となる石材の割れやすさの関係を明らかにすることができました(須賀さん)

── 鈴木さんは、研究室配属と120年ぶりのササの開花のタイミングが見事に重なりましたね。

本当に。森林の研究をするために農学部に入学して、今の研究室に入るために必死で勉強しました。120年ぶりのササの開花を研究対象にできたのはラッキーだったなと思います(鈴木さん)

── 準備があってこそ、チャンスをつかめたんですね。イエローストーンへの訪問や調査ボランティアの経験も貴重ですね。

野生のオオカミを見るのが夢でした。目の前でバイソンを食べる姿には興奮しました。調査ボランティアの経験も含め、こういう研究がしたいんだ!と確信しました(鈴木さん)

── ポジティブな転居とネガティブな転居というのは…?

子どもの頃は転校が多く、恵まれた学校で楽しかったことも、なじめずに疎外感に晒されたこともありました。内向的な時期に、好きな動物に関することやオオカミにのめり込めたのは良かったかもしれません(鈴木さん)

── 山ノ内さんは、研究に出会って道が開けたみたいですね。

もともと学校自体が好きではなく、小中高の始めまではあまり楽しいと思えることがありませんでした。「研究」を知って、研究者と関わるイベントにも積極的に参加してきました。今は自分のテーマを持って、楽しんで研究をしています。特に、学会などで会う人達とのコミュニケーションは楽しいです(山ノ内さん)

── 初めての論文執筆には苦戦されたようですね。

はい…。4年生の1年間は、構想しつつ実験にまるまる費やしました。その後の修士の1年間は、論文の執筆に専念しました。どのように書けばよいのか体験できたので、2本目3本目は少し楽になってきました(山ノ内さん)

── 西山さんは、修士から博士に進学するタイミングで研究室を移動されたのですね。

修士の頃は農学のラボで、ピペットなんかを持って実験していました。朝から夜までラボにいるくらい没頭していました。でも取り組んでいた研究を通じて、数理モデルを使った解析に惹かれていったんです。自分の興味にフィットするラボ探しの末、今のラボに移動を決めました(西山さん)

── 大きな決断です。迷いはありませんでしたか?

私は何度も勉強しなくなった時期があるのですが、やり始めに遅いことはなく、興味を持てるかどうかが大事だと思います。今いる場所が全てではないので、自分に合わなければ違う場所に移ってもいいと思います(西山さん)

── 榊さんは、デンキウナギの研究のスタート時に気持ちがプラス側にありますね。どんな心境でしたか。

デンキウナギという単語がでてくるとは思わなくて、衝撃をうけました。修士を出た後は就職すると決めていたので、1年は就活しながら全力で研究に向き合えないのはジレンマでしたね(榊さん)

── 指導教員の方針が「好きなようにやっていいよ」というスタイルだったそうですね。問題はありませんでしたか?

特に問題なかったです。研究室での動きはある程度見えていましたし、他の人とは明確に違う研究ができたのは良かったと思います(榊さん)

── 他の皆さんは、指導教員との関係はいかがでしょうか?心がけていることなどありますか?

私も研究に関しては任せてもらえていて、トラブルになった経験はないですね。実際にフィールドに入ってやってみて、やってみたいことを伝え、終わってから報告します(鈴木さん)

僕も任せてもらっています。お互いに譲り合いながら相手を理解しようとする関係だと思います。大学院での研究はほぼマッチングだと思うので、外部の大学院へ進学を希望するなら、研究室のメンバーの意見(進学先の教員の評判等)も参考にするといいと思います(須賀さん)

研究内容で意見が対立することもありますよね(西山さん)

お金に関することや不利益になるような場合は、正しい対応が必要ですね(山ノ内さん)

最後の話題には、会場からも多くの相槌があり、研究に繋がる人間関係の相性が、研究テーマ以上に学生生活を左右するのではないかと思いました。

この後は、会場も交えた語り合いが盛り上がりました。例えば、論文執筆の話題では、執筆そのものが重いと感じる人もいれば、査読を待つ時間が苦痛、自身の成長を感じて楽しいなど、ゲストそれぞれの感じ方がありました。「自分の研究に繋がる道筋が見えれば苦手な分野の勉強にも意欲的に取り組むことができるけれど、成績やテストの点を取るための勉強は嫌い」という発言も印象的でした。

これから大学院を目指す方はもちろん、大学院を目指さない人も、行った方も行かなかった方も、大学院進学という一つの生き方を知るきっかけとなれば幸いです。 

取材:森真由美(株式会社MD.illus---アウトリーチ活動を支援しています)

開催概要(第102回名大カフェ
タイトル:大学院生たちはどう生きるか
ゲスト
榊晋太郎さかきしんたろうさん(生命農学研究科修士2年)
須賀永帰すがえいきさん(環境学研究科博士3年)
鈴木華実すずきはなみさん(生命農学研究科博士3年)
山ノ内勇斗やまのうちはやとさん(理学研究科修士2年)
西山尚来にしやまたからさん(理学研究科博士2年)
MC:
関さと子せきさとこ(名古屋大学 博士課程教育推進機構 特任助教)
丸山恵まるやまめぐみ(名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部 URA)
日時
:2024年3月5日(火)18:00~19:30
会場:名古屋大学NIC館 Idea Stoa
対象:どなたでも
参加:14名

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