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勝負の行方は“風”のみぞ知る!?—— グライダーに乗って空飛ぶ名大生たち

動力なしで大空を悠々と飛ぶ航空機「グライダー」。機体に乗るのは、“空を飛んでみたい”という純粋な気持ちで集まった名大航空部のメンバーたち。2月21日から開催される国立7大学の対抗戦「七大戦」の航空競技に出場します。勝負の行方は“風”のみぞ知る!? 日頃の活動と競技の見どころを紹介します。

高度500mを時速100キロ近いスピードで滑空

グライダーは、エンジンなどの動力を持たないのが最大の特徴。離陸するための助走に、曳航(えいこう)機と呼ばれる飛行機あるいは曳航装置(強力なウインチ)を使います。ウインチの場合、長さ1,000mほどもあるワイヤーで勢いよく機体を引っ張り、機体を時速90~110キロ程度に加速させることで離陸させます。
飛び立った後は、通常は高度400~500mを時速80~90キロで飛行します。滑空場の空域にもよりますが、上昇気流に乗れば高度2,000~3,000mまで上がることも。理論上は時速200キロで飛ぶ機体もあるそうですが、「スピードが出すぎると空中分解してしまう危険性もある」(同部)そうです。

ウインチ曳航(えいこう)による離陸の瞬間

グライダーの操縦は風など天候の影響を受けやすいこともあり、安全に飛行することが最優先。入部したら安全対策のレクチャーを徹底的に受け、操縦を学んでいきます。パイロットは操縦桿とペダルを使って機体を傾かせたり機首を上下させたりしながら進路とスピードを調整します。
操作自体はシンプルな一方、風向きや風速、目の前の地形を読み、いかに上昇気流に乗せるかが“腕の見せどころ”。気圧配置など気象に関する知識も必要で、場面に応じた臨機応変な判断が求められます。
うまく気流を捕まえることができれば1時間以上飛び続けることもできるとのこと。部員の中川聡さん(理学部2年)は「強い上昇気流に入ると、身体がふわっと浮くような感覚になります。長く飛べたときの気持ち良さは格別です」と、魅力を語ります。

飛行練習中にコクピット内から見る風景

「ソロ」で飛ぶための“免許取得”が最初の目標

航空部は、2人乗り用と1人乗り用のグライダーを1機ずつ保有。単独で操縦するには「自家用操縦士(滑空機)」の免許が必要で、免許取得には学科試験と実技試験に合格しなくてはいけません。
受験資格は、飛行経験として① 30回以上の滑空、② 3時間以上の単独飛行、③ 失速からの回復方法の実施――が求められ、受験までに2~3年程度かかることがほとんど。免許を取得するまでは2人乗りのグライダーに指導員と乗り、レクチャーを受けながら操縦方法を学びます。

1人乗りグライダー「Discus b」、別名『翔遙(しょうよう)』。この機体に憧れて入部した学生もいるなど、その美しい機体が魅力
今回の七大戦で搭乗予定の2人乗り「ASK21」、別名『遙(はるか)』。機体の文字は名大カラーの濃緑を採用

限られた練習機会のなか、フライトに打ち込む名大生たち

飛行練習は滑空場での屋外飛行と、シミュレーターを使った室内飛行の2種類。屋外練習は月に1回程度、岐阜県や福井県の滑空場で数日間の「合宿」です。合宿中は日の出とともに準備し、日没まで時間が許す限りひたすらフライト練習を重ねます。
免許取得までは飛行練習に指導員の同乗が必須なので、インストラクターの資格を持つ卒業生も参加。中川さんは「仕事で忙しいところ練習に付き合ってくれるOBの皆さんのおかげで活動できています」と、感謝を表しました。
悪天候で飛べない日もあるため、飛行練習は1本たりともおろそかにできません。今夏の免許取得を目指す部員の松井響輝さん(工学部2年)は「事前のイメージトレーニングが欠かせません。落ち着いて飛べるよう準備をしっかりして練習に挑みます」と、貴重な機会を無駄にしないよう工夫して実技練習と勉強に励んでいます。

名大航空部のメンバー。合宿などで寝食をともにすることが多く
自然と絆も深まっていったとのこと
グライダーを格納した総重量1,280kgのトレーラー。
けん引免許を取得した部員が乗用車でけん引して滑空場へ運搬しています

名大オリジナル、世界にひとつだけの複座型シミュレーター

シミュレーターを使う室内練習の場は、東山キャンパスの部室です。「世界に1台しかない」という複座型(2人乗り)のシミュレーターは、3年前に部員が製作したもの。授業の空き時間などに部員が使用しています。本格的な操縦練習ができる仕様で、他大学の航空部員が練習で使ったり、あいち航空ミュージアムなどに展示したりと幅広く活用されていて、いわば名大航空部の“第3のグライダー”です。

シミュレーターに乗る松井さん(手前)と中川さん(奥)
操縦練習のほか、実機では難しい緊急時の対応も練習できます

速度、旋回、滞空時間を競う“航空競技”

グライダーでの航空競技は、指定コースの周回速度、旋回得点、滞空時間を競います。七大戦では平均速度や飛行距離に基づき得点が計算され、各大学の合計得点により総合順位を決定。指定されたチェックポイントを通過する際には最低高度が定められており、機体に搭載されたGPSによるフライトデータをもとに審判が採点を行います。
近年はコロナ禍で練習機会が激減し、フライト経験が少なく卒業までに免許が取得できない部員もいたとのこと。コロナが始まったタイミングで入学した4年生は七大戦が最後の大会となるため、「有終の美を飾ってもらえるよう、後輩の私たちは少しでもチームに貢献したい」(中川さん)と、意気込みを語ります。
過去には七大戦での7大会連続優勝(2000~2006年)、全国大会で2度の優勝(2007、2011年)の実績を誇る名大航空部。70年近い歴史を持つ古豪の名にふさわしいフライトをきっと“魅せて”くれるでしょう。

昨年の七大戦では大会中にボウリング大会も実施。他大学とのつながりも生まれます

名古屋大学航空部「七大戦」試合日程
2月21日(水)~2月29日(木) ※競技飛行は23日(金)~29日(木)
[大会会場]関宿滑空場(千葉県野田市)

【追記】
七大戦 航空・最終順位
1位 東京大学
2位 名古屋大学
3位 東北大学
4位 京都大学
5位 大阪大学
6位 九州大学
7位 北海道大学

主将、井岡翔馬さんの大会終了後コメント:
「昨年の七大戦は6位でしたので、成長を感じた大会になりました。航空競技は知名度が低いので、もっと皆さんに知っていただけるように、今後も地道に活動を続けていきたいです!」

航空部 ホームページ
https://www2.jimu.nagoya-u.ac.jp/kouku/
 
七大戦 ホームページ
http://www.7univ-nanadaisen.jp/

▼▽▼七大戦についての紹介記事はこちら▼▽▼

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