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折り紙と漫画

故エリックジョワゼル氏について火沢が以前から思っていたことがある。
そもそもエリックジョワゼルとは誰かと言うと2010年に53歳という若さで亡くなったフランスの代表的な折紙作家である。
すでに世界中に折り紙愛好家が当たり前のようにいる時代となって久しいが作風が極めて個性的で折紙作家というより芸術家に近い稀有な方だった。
とにかく表現力が凄まじく、日本の「型」を大事にする、まさに「折り目正しく」という直線的な造形とは対照的で、規則的に折りたたまれた蛇腹のひだを広げて人物の顔や服、装飾品まで生々しいほど有機的に表現されていて圧倒的な造形力。
初めて見た作品は折り紙から人がせり上がって生まれる過程を表現した「誕生」だった。
勿論技術もすごいが折られたその人間はこちらになにか訴えかけるような存在感と迫力があり、これまでの折り紙の常識を遥かに覆すものだった。
それから火沢は白山にある「おりがみはうす」や当時、折り紙学会員だったので、そこで定期的に刊行されるマガジンなどで氏の作品群を目にし魅了されていた。
当時、極めて複雑な作品を折る若手は多かったが「表現」というレベルにまで到達している作家は極めて少なかった。
意外に西洋の作家も日本の造形を見習う感じで(それはそれで嬉しいが)エリック氏の様なアート系の作家はいなかったと思う。
まさに唯一無二と言える作家だった。

ただ、生前のエリック氏は自分は折り紙が下手なのだと随分謙遜していたようである。
そして氏とは対象的なシンプルな造形で、こちらもアート系の作家、ジャン・ディン氏の作風が好きだったと語っている。

自分は正直、この話を聞いて、やはり謙遜だろうと勘ぐってしまった。
エリック氏の造形は極めてリアルで誰もが認める最高の芸術作品。
確かにジャン氏の作品もアート系の造形として紛れもない表現力を兼ね備えているのだが凡人にはどうしてもエリック氏の方に目が行ってしまう。
どうしても造形の巧みさや複雑さに魅了されてしまう。

しかし・・・
これを漫画に置き換えてみた時、考えが一変してしまう。
それはそうだろう。
漫画で考えれば、シンプルな作風で面白い名作は数しれず。
必ずしも美麗な絵を書く作家が成功するわけではない。
その不思議さ、面白さを火沢が一番訴えていたはずなのに・・・
折り紙となると造形的な技巧のみに関心が行ってしまい、本来見るべき本質が見えなくなる。
これは折り紙が、必ずしも表現を目的として進化してこなかった現れではないか。
いかにモチーフをリアルに折りこなせるか、それが重要だったし、自分も幼少の頃から折っているが、やはり超絶技巧の作家を敬愛してきた。
勿論それ自体悪いことなどないし、今でも火沢は、その様な作品群が大好きである。
その気持も否定したくない。
でも・・・
漫画に置き換えるとどうしてもね・・・
やはり漫画は「見るもの」ではなく「読むもの」。
面白いか、つまらないか、だと思う。
そういう意味でやはり画力は、プロの水準に達してさえいれば十分なのではないか。
そう思っている。
勿論、そんな考えが今の熾烈な漫画界で通用するかはわからない。
それに逆に低ければいいというものでもないだろう。
しかし、その内容に見合った作風というのは確かにある。
例えば、さくらももこ先生。
先生とは実は若い頃お世話になったバイト先が一緒で(なんてね、時代が違うからお会いしたことないけど・・・)少し縁を感じている。
先生の代表作ちびまる子ちゃん。
背景は明らかにパースがおかしい。
キャラの線だって、はっきり言ってしまえば歪んでる。
でも・・・
火沢は昔も今も、さくらももこ先生を「下手だ」などと揶揄する人を見たことがない。
むしろ「可愛い」なのではないだろうか。
それにファンタジー系の独特の世界観、デザインなど常人を遥かに超えるセンスだし、やはり天才なんだと思う。
やはり絵は不思議だ。
絶対に「デッサンが全て」というわけではない。
これは時代が変わっても否定しようのない事実だと思っている。

そういう観点でエリック氏の話に戻ると・・・
エリック氏はこうも語っている。
技術は「方法」であり「目的」ではない、と。
要するに技巧偏重によって本質を見失うな、と。
だからこそ、エリックさん自身極めて技巧的な人だったからこそ随分葛藤と言うかジレンマがあったんじゃないな・・・
だからジャン・ディンさんに対する眼差しって結局「リスペクト」だったと思う。
やっぱ、「欲」とか「見栄」なんだと思う。
技術って・・・
見た目とか。
上手くなりたいっていう・・・
バカにされたくないとか、見下されたくないとか・・・
称賛されたいとか・・・
だから、そこをすっ飛ばして裸で表現してる人を見かけると火沢も引け目を感じるの。

人の目気にして何度修正してんだかって・・・
でもやめらんないじゃん?
そのバランスっていうかさ。

でもエリックさん自身は自分の作風を気に入っているらしい。
それを聞きいて火沢は、ホッとしたの。
俺も自分の絵、好きでいいんだって。

答えはないけど。
中途半端かもしれないけど。
皆悩んでるなら・・・
それでいいじゃん?

最後に。
見出し画像の写真は本を見て火沢が折ったもの。
俺は頭が硬いんで、あんまり表現力は出せなかったが(苦笑)。
このドワーフという作品(バンドネオンは橘高美保子さんの作品)が一番火沢は好き。
エリックさんの作品ではシンプルな方だが元気いっぱいで、自分の子供のように思われてたんじゃないかな。
エリックさんの作品が気になる方は検索してみてください。
きっと折り紙の常識が一瞬で変わるから。

それではまた。














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