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「介護3.0」でいこう ②

6月17日、暮らしのライフセーバー講座の2回目が行われました。
前回の記事はこちら。


 今回2回目は…

前回、大雨の影響で横木さんは直接香川に来られずオンラインでしたが、この日はリアル。響いてくるものがさらに濃くなるというか。
介護技術の実践もあってすごく充実した時間でした。

実技いろいろ

介護を暮らしに返す


    さて、横木さんがこの日最初に話したことが「介護を暮らしに返す」。

 どういうことかというと…

 よく見られるのが、それまで地域で生活していたお年寄りにケアマネがついたとたん、周囲の人たちが離れていくってこと。「もうあの人は…」って関わりが薄くなっていくんですよね。介護が、“介護を取り上げてしまった”んです。それを僕らがもう一回アップデートして暮らしに返す。それがライフセーバー講座をやる意味でもあるんです。
 世の中に仕事って腐るほどあるじゃないですか。でもね、そのすべての仕事が生活を豊かにするためにあるんですよね。であれば、そもそも生活のなかにある介護は、大きな理想を掲げなくたって全ての職種とコラボできるはずなんですよ。

 と横木さん。
 たしかに!!!!!
 
 かつては家族が介護を担ってきたのが“ふつう”。そこから社会構造、生活スタイルなどの変化に伴い、介護保険制度・システムがつくられ、介護にまつわる様々なことが整理され数値化され、システムのなかに収められていった。
 結果、介護とはこういうもの。認知症とはこういうもの。施設とはこういうところという”概念”が出来上がった。
 それが当たり前、ふつう…となって、私たちのなかに浸みこんでいった。

 でも本当は。

 人はみな違う。
 生活スタイルもみな違う。
 暮らしは人それぞれ。

 ケアのやり方も、どんな対応が良いのか、心地よく感じるのかも人それぞれ。介護・ケアとは個別性のあるもの…なのに。

 システムにあてはめて、その範囲内で介護する。
 利用者・入所者主体でなく、介護者側に主体性があるかのような。

 “正しい暮し”がないように、”正しいケア”って定義づけできるものじゃない。

 暮しに解はない。
 ケアにも解はない。


 だから私たちがすべきこと、できることは、横木さんの言う「圧倒的な個別ケア」に尽きるのでしょう。

 2回の講座を受けていま、改めてそう思います。

「新」というブレイクスルー


 横木さんという人がいて、その近くに篠崎さんという人がいて、構想に2年もの月日をかけたのが有料老人ホーム・新(あらた)。
(篠崎さん、新の設計を担った、わくわくデザインの八木さんという建築士さんも欠かせないのですけど、どこかでいずれ綴る機会があればと思います!※横木さんは会社設立前、新の施設長を務めていました。)

 新の在り方は、私たちの既成概念に風穴を開けてくれる。

 さて。
 新とは、どんなホームなのでしょう?

 横木さんがこの日出してくれたスライドには以下のポイントが綴られています。

ハードのリノベーション
 
・主語を職員から利用者にする建築へ
・作業導線のデザインから生活導線のデザインへ
・部屋で完結する生活から外に出たくなる生活へ
・効率を計算した空間から余白を可能性にする空間へ
・管理の環境から自立の環境へ
・介護施設を地域の集合場所へ

 これらを具現化したのが新なのですね。具体的に見てみると…


 写真は私が撮影したものです。新の雰囲気を感じ取ってもらえたらと思うので、2018年7月に取材で訪れたときの写真を用いながらレポートしていきます!

右がホーム本体 出入り自由 畑があり、木々が育ち、奥(台形の屋根)は工房「TEPPEN」が。

Café くりの実

くりの実内部

 今や予約が必要なほど人気のcaféくりの実。なぜカフェを併設したのでしょう。

「面会っていう概念を壊したかったから」

といいます。
もうこれだけでしびれてしまいます。
 
施設で面会っていうとまず事務所を訪れて記帳して…うんぬん。
そうじゃないんですね。
”カフェで待ち合わせ”であれば、たとえば、入所者のおばあちゃんが家族に何かを“御馳走できる”機会になる。
カフェで使用されている椅子も、実は元は利用者さんのものだったりするそうです。
(お年寄りが与える側、になる)

TEPPEN工房

この”ごちゃ感”が最高!

「続きができるから」工房をつくった。

つくりかけのものがそのまま置ける場所。

「家で何かつくる。そのまますぐ続きができるようにしてありますよね、ふつう。趣味って、続きがすぐできるものじゃないですか」と横木さん。

仰るとおり!!

確かに、いったん片付けて、また後日に改めて…ってなんか違う。
 
「役割・居場所を考えたとき、ずっと与えられる側でなく、どう与える側にいられるか。それを本気でやる場所」(横木さん)

あすなろ教室

施設の介護スタッフがレクを考えるのではなく、その道のいわばプロが様々な教室を開く。
地域に貸し出しをしており、地域住民が集う場所にもなる。
 ハイクオリティなモノ・コトが繰り広げられる場が「あすなろ教室」です。
そこに入居者が参加すればハイクオリティな時間を過ごせることになり…もはやレクじゃない。

発露

 くりの実も、あすなろ教室も計算された導線上にあります。
 誰でも訪れることのできるカフェ。
 カフェを訪れれば自ずとあすなろ教室と、教室の掲示板が目に入る。

「へぇ…今度ミニシアターが上映されるんだ。観てみたいな」
「あ、親子クッキング教室だって。参加してみたい」
「私、ここで教室やってみたい」

 これはつまり、新たなつながりが生まれるきっかけ。

「在るだけで成立するもの」

新には、堂々と”マザーコーナー”(ランドリーコーナー)があります。

 高齢者施設のランドリーコーナーは扉で閉ざされていたり、はたまた奥のほうに位置していたり。いちいちコイン式だったりって、あるあるですよね。そうじゃなくて 

 ランドリーコーナー(マザーコーナー)、物干し竿があるということ。
 そこに”在る”から”おばあちゃんが洗たくものを干す光景”が生まれる。
 すなわち日常リハビリになる。

「在るだけで成立するもの」。
持っている可能性を引き出すハードという視点。

 

木陰があり、ベンチがあれば、誰にだって散歩するのにもってこいの場所になる

  「門扉があるわけではないので、近所のパーキンソン病のおじいちゃんが犬を連れて新の内部を散歩している日常がありました」(横木さん)
 それはおじいちゃんにとっての日課でもある。横木さんたちにとってはおじいちゃんは“見守り”すべき存在。
 入所ではないし、在宅ケアでもないけれど。
 横木さんは言います。
 「入所か在宅か。いまって二択の状態じゃないですか。グレーな場所が欲しいですよね」 
 

明るすぎない / 自然の光

居室スペース

 自然の光が入れば、煌々とした電気はいりません。病院や施設は、よく白い(電気の)光が選ばれていますよね。
 「認知症の人はその明るさに落ち着かないと思うんです。だから新では蛍光灯は使っていないんですよ。でもね、みなさんのご自宅は案外暗い場所が多くないですか?」(横木さん) 

吹き抜け


2階部分(上)2階から1階を眺められる(下)

 この吹き抜けは印象的だったのを覚えています。
 「吹き抜けでつながるんです。1階、2階と分けないことで“行ってらっしゃい”とか言えるじゃないですか。何をしているか上からもわかる。気配が感じられる」(横木さん)

キッズスペース

 新では、子連れ出勤が可能となっています。子どもが遊べるスペースもあります。託児所は設けていないといいます。というのは、託児所となると保健所管轄となり保育士を雇用しなければならないなど、制約が出てくるためだそう。なるほど!

子どもの高さに合わせたキッチンが併設されている

 自由に子どもが過ごすことができるということは、お年寄りが子守をしてくれたり、料理を教えたり、可能性が広がるということ。
 「”わくわくサマーキャンプ”という、施設に子どもたちが泊まるというイベントがあるんですけど、すぐに定員いっぱいになるほど人気の企画です」(横木さん)

コミュニケーションツール


 黒板が前面にある理由。
 「コミュニケーションを生むためのモノになるから」
 利用者さんが歌った俳句が書かれていたり。
 するとスタッフがそれを見て「〇〇さん、この俳句は…」と話をするきっかけになる。
 横木さんは言います。
 「スタッフが利用者とコミュニケーションをとりやすくなるんです。
だから、利用者が写った写真やつくった作品などはバンバン掲示すべきなんです」

手すりよりも…

手すりは…ない?

 あるんだけど、分からないようにつくったんですよ。
 だってね、誰にとってのベストな手すりの高さって難しいじゃないですか。背丈や歩き方もみな違うのに。だったら、その人に合った歩行介助具があればいいんです。その人専用の道具にこだわればいい。
 
 水分を取ってほしいと思っているのに、ポットが近くにないなんておかしいですよね。
 危ないからポットを置かないってね。
 危険な人がいるのなら、事故が起きないよう、私たちプロがいるんです。
 リスクヘッジのためのプロなんです。

構想2年。


やりたい介護が明確だったから、ここまでできた。
ハードにそれを落とした。
ソフトあってのこのハード。
 
新に学ぶことは、めちゃくちゃ多い。

ハッとさせられる視点ばかりですよね。

で、それってつまり、

介護のグラデーション化。


 「新」という畑を耕すうちに、いろんなつながりが生まれました。介護というものをいくら磨いても引き出しはひとつ。介護に関係ない人とつながることで引き出しが増えていく。いろんな可能性が生まれるんです。

小さな熱狂

 「介護3.0」がいい!
 でも…勤め先は真逆の捉え方をしている施設です!
 横木さん、どうすればいいですか?

 って思う人、多いですよね!!

 横木さんは、こうアドバイスしてくれます。

 ケアをするという行為は1対1で行うものですよね。
 
 ちょっとこの動画を見て欲しいんです。
 (「TED」で調べると出てきます) 

 小さな熱狂を起こすんです。
 あなたが言っている業務すら、業務と捉えているだけ。
 リスクと呼ばれるものは、シグナル。
 なんのシグナル?なにを訴えてる?
 目の前のひとりを変えていく。
 その人と同じ窓を見れるかどうか。

………………

 この講座のアテンドを務められたのが、大阪で介護事業を行っている金児さん。金児さんと横木さんが、この日の帰路で配信されたラジオが最高でした!!
 迷ったら、悩んだら、このラジオを聞けばいい。何度でも。

 私自身はいま「介護1.0」をしている施設(あえて言っちゃいます)で介護士をしています。
 介護の実践はまだ半年の新人です!
(介護・福祉施設への取材は10年以上しているのだけれど)
 ハードのつくりがマズい(完全なる縦型導線。病院みたい)こともあって、食介、オムツ交換、移動、入浴介助、だけで一日が淡々と過ぎていってます。
 お年寄りが元気になる、ってことはありません。

 まぁまぁ大きな法人だし、”業務化”に慣れきってしまった組織風土が「介護3.0」へシフトするのは険しい道です。
 だけど、業務化された一日の流れのなかでも、ひとりのお年寄りの居室に入り、オムツ交換なり、何かをするわけであって。

 「目の前のお年寄りの声を聴く」ことはできるから、
 考えてます!
 何を感じているんだろう。
 何を訴えているんだろうって。

 私ができることを増やしていく。
 技術もそう。
 まだまだヘタっぴ。右往左往しながら身につけていくしかない。

 横木さんから教わった「介護3.0」。
 袂に置いて。

 だって、「笑顔」見たいもん。「笑顔」増えてほしいもん。

 暮らしのライフセーバー講座、これからも行われます。
 四国の人はホント参加しないともったいない!!
 私もまた、参加する予定です!

 直近は8月5日、26日(土)
 瀬戸内・暮らしの大学 で検索を。

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