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ESGトレンド予測2024



みなさんこんにちは、シェルパCEIOの中久保です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。2024年は年頭より能登半島地震をはじめ、心苦しい事故が度重なりました。犠牲となられた方々の御冥福をお祈りするとともに、困難な状況に遭われた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

さて、昨年の年初にESGトレンド予測2023を書いてみましたが、今年も絞りきれないほどの重要トピックの中から厳選した5つの注目トレンドをお届けしたいと思います。お茶タイムなどにお気軽にお読み頂けると嬉しいです🍵

1. ウォッシュへの対応

2023年には、米国の資産運用会社であるブラックロックCEO、ラリー・フィンク氏が「ESGという言葉をもう使うつもりはない」と発言するなど、ESGに関する様々な混乱が生じました。米国における反ESGの動きには政治的な理由も含まれていますが、これを無視することはできません。このような動きは総じて、ESGの取り組みを、言葉にとらわれず本質的なものとして進める必要があるということを意味しているのではないでしょうか。
たとえば、11月には日経が「ESG投資が初の減少」という見出しの記事を掲載しましたが、調査元の世界持続的投資連合(GSIA)は、これはグリーンウォッシュ対策のために調査方法を厳しくしたことが要因であると説明しました。つまり、ESG投資や活動の規模が縮小しているわけではなく、ESGと認められる基準について、より一層厳密な評価が行われていることを意味しています。ESGに関する取り組みはお休みしてよいわけではなく、むしろ積極的に進めていくべきです。
グリーンウォッシュは様々な類型に分けて整理されることが多く、懸念の種類に応じて多岐にわたる法規制も登場しています。EUのタクソノミー規則サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)、環境訴求指令などがありますね。
このようなウォッシュに対抗するトレンドはESG評価機関にも直撃しており、個人的には、ESG評価機関が評価基準をより厳格に設定する可能性があると考えています。企業のサステナビリティ担当者の方には困難な局面を意味するかもしれません(汗)。
一方、良いニュースもあります。昨年12月には金融庁が「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を公表しました。この公表の背景には、2021年11月にIOSCO(証券監督者国際機構)が発表した「ESG格付け及びデータ提供者」報告書などがあります。ESG評価機関への期待と要請が高まる中、各評価機関のメソドロジーの透明性が向上し、評価方法に関して公開される情報が増加すると予測されますので、企業にとっては開示・アンケート対応の一助となりそうです。
さらに、ESGに対して厳密な評価が求められるということは、ESGデータの信頼性も問われることを意味します。今後は、第三者保証などのメカニズムによりデータの信頼性を高め、それらを投資家をはじめとするステークホルダーに開示していくことが、より一層重要視されると考えられます。

2. 開示規制対応

本年は2023年に引き続き、様々な開示規制に関するニュースが飛び交いそうですね。規制は企業のESG取り組みを促す最も大きな要因の一つです。本記事について、本当はこちらのトレンドからスタートしようと思いましたが、いわゆるアルファベットスープ現象が顕著であり、最初にあると読者の皆様がゲンナリしてしまうことを懸念して2番目にしました(笑)。以下に注目の規制2つをピックアップします。

1月:EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の適用開始

CSRDは企業規模等の別により、段階的に適用開始時期を定めています。2024年はまずその第一弾として、現行の非財務情報開示指令(NFRD)対象企業(EU域内の大規模な上場企業がメイン)に適用が開始されます。EU域内に子会社がある日本企業については既に対策を始めているはずですね。ここから徐々に適用対象が広がり、2028年にはEU内売上高(EU域内において150Mユーロ超の連結売上)等に応じた域外適用も始まるため、その他の日本企業も早期の準備が必要です
例えば集計に時間を要する定量データは早めに集計の体制を構築することが必要と考えられます。特に人的資本などの社会指標については、日本の有価証券報告書で開示が求められている指標数とは比較にならないほどの潤沢なラインナップとなっております(笑)
CSRDで開示すべき具体的な内容は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に委任されています。例えば、ESRS S1では、自社の労働者に関する開示要件が定められています。こちらで要求されている指標には、「適切な」賃金が支払われている従業員の割合や、自社事業所内でのバリューチェーン労働者を含む労災死亡件数などが含まれます。自社においてESRSの定義に基づいた集計が行われているか、再確認が必要です。また、指標によっては集計の開始自体が必要な場合もあります。社会的な指標は、環境に比べてグローバルでの定義にバラつきが大きい分野ですので、業務プロセスの見直しによるデータ集計の効率化が望まれるでしょう。
また、将来予定されている保証の義務化を見据えると、単に指標を集計するだけでなく、内部統制を強化し、信頼のおけるデータ収集システムを構築しておくことが重要です(ESG情報開示支援クラウド、SmartESGについてはコチラ)。
最後に、ESRSについては、世界のESG開示ベースラインとなる国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準との整合も見込まれています。加えて、各種ESG評価機関もESRSの内容との整合性に意識を向け始めています。例えば、CDPは既にCSRDとの整合性担保に向けて欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)と協力関係を結んでいます。今後の動きに注目ですね。

3月:日本版ISSBであるSSBJ草案の公表

上述のISSBが定めたIFRS S1やS2基準は、世界のサステナビリティ開示基準のベースラインを統一する試みです。現在、日本版のS1・S2基準の開発がサステナビリティ基準委員会(SSBJ)によって進められています。このSSBJが定める基準は将来的に有価証券報告書での法定開示にもつながる基準ですので、日本の上場企業全社が注視する必要があります。
SSBJはISSBの文書をベースとして開発される予定ですが、本基準を日本に適用するにあたって必要な論点をいくつか検討しています(日本の制度や実情などに鑑みて、追加や修正が必要な事項や、ISSBに提案すべき事項など)。例えば直近の第28回SSBJにおいては日本版S2基準における温室効果ガス排出目標などについて詳細な議論が行われました。

3. ESGデューデリジェンス

デューデリジェンス(以下DD)という言葉は人権DDなどの文脈で聞いたことがある・実施されている企業が多く、すっかりトレンドになっていますね。DDの基本は事業活動から生じる負の影響を特定し、その防止・軽減・是正を実施することです。日本の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」においても実施が要請されています(2023年にはDD実施作業シートを含む実務参照資料も発表されました)。
今年はこのDDに関して、EUの企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)の正式採択が予定されています(時期未定)。昨年の12月14日にEU理事会と欧州議会が本指令の内容について暫定的な合意を発表しました。
今回採択予定のCSDDDではDDの範囲として人権および環境双方が対象であること、また、サプライチェーンを含むバリューチェーン全体を対象範囲であることなどが特徴です。双方を同時にDDすることが必要であるため、例えば土壌汚染リスクが特定された場合、環境リスクとして評価するだけでなく、地域住民への健康等に影響がないか、人権の観点からも評価が必要ということを意味します。
CSDDDは、日本企業についてもEU内における売上高の閾値などの要件を満たす場合には適用対象となるので、準備が必要です(直近12月のプレスリリースにおいては、EU内で150Mユーロ以上の売り上げがある企業に限定されています)。域外企業には指令発効から3年の猶予期間が求められる予定ですが、DDの実施には深い調査が必要であることから、早めの対応を検討することが望ましいです。ちなみに本指令では、年間売上高5%を上限とする制裁金も導入される予定となっています。
また、本指令の適用対象とならない企業についても、適用企業のバリューチェーンに入っている場合にはDDの対象となります、したがって、取引先からのESGに関するリスクについて確認される可能性が高く、実質的にDD対応が求められる可能性があるでしょう。

4. 自然資本/生物多様性

こちらは昨年のトレンド記事にも取り上げたトピックです。2023年9月には、ついに(お待ちかねの)自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)最終提言のV1.0が公開されました。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の自然版とも呼ばれていますね。
これに沿ってキリンをはじめとした企業による開示が進んでいます。また、投資家コミュニティからはGPIFがS&Pグローバルのデータを用いてTNFDに関連したポートフォリオ評価を発表しました。今年は日本政府もネイチャーポジティブ経済移行戦略(仮称)を策定予定ですので、より多くのアクターが自然資本/生物多様性の取り組みを進めることになると思われます(ネイチャーポジティブは2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」によれば、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させる」ことであると表現されています)。
2024年、ネイチャーポジティブの取り組み推進に対する期待が高まっています。しかし、この分野では気候変動に比べて、より広範な自然に関する複合的な知識が求められていると感じます。さらに、自然資本の依存や影響を測定・分析するためには、土地利用や生態系の状態を示す指標など、さまざまなデータが必要です。これらのデータの入手には課題が多いため、早めの準備が必要と考えられます。

5. 社会指標(人的資本・人権など)

2023年8月に投資家グループがISSBに対し、人的資本と人権の基準を優先して検討するように求めたことからも、投資家からの本トピックへの注目度が高いことがみてとれます。
中でも2023年は日本において人的資本が大注目された1年でしたね。人的資本は岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の中核となっており、3月には有価証券報告書における人的資本開示が義務化されました。
上記にあげたCSRDにおいても様々な人的資本関連の開示が求められますが、単に開示を行うだけでは実質的な取り組みになりません。「人的資本」という名の通り、人材を投資対象と捉えて、企業の価値を高めることにつなげる必要があります。そのためには人材版伊藤レポートでも強調されていた通り、経営戦略と人材戦略を連動させることが必要です。2024年も引き続き、こうしたトピックが議論されそうですね。2022年5月に発表された人材版伊藤レポート2.0には従業員エンゲージメント向上やKPIに基づいた目標管理などに関するや具体的な事例集も含まれているので、ぜひ参考にしてみてください。
また、2024年上期にはTCFDやTNFDの社会版とも表すことができる、不平等・社会関連財務開示タスクフォース(TISFD)が発足する予定です。今後は人権などの社会面に関しても影響、依存、リスクおよび機会に基づいた開示が求められるようになることが予想されます。ますます目が離せないですね。

おわりに

長文を読んでいただき、ありがとうございました。その他にもESGと企業価値の関係など、とても重要なトピックが多いですが、どうやら1記事ではカバーしきれないようです・・・(「⾮財務情報を企業価値として評価する取り組み事例集」のダウンロードはコチラ)。
上記のような多くのトレンドに翻弄されず、本質的な取り組みを行なった上で効果的な情報開示を行い、さらに企業価値の向上を目指すことが必要です。そのためにはテクノロジーを活用し、ESGデータを管理・活用することがが必須となる時代に突入したと思います。
引き続きESG界隈では対応事項が多い1年になりそうですが、皆様どうか健康に気をつけて、サステナブルに過ごしましょう!引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

シェルパ提供:企業価値を向上するESG情報開示支援クラウド、SmartESGについてはコチラ


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