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中国の肉煮込み「鹵(ルー)」って何だ?

中国料理にも内臓肉(ホルモン)を使った料理がたくさんある。アメ横や中華街に行くと、日本にはないホルモン料理に出会う。屋台風の店では、煮込まれたホルモンがずらりと並び、難しい漢字で料理名が書かれている。

読めない漢字ばかりだが、気になるのが「鹵」という文字。この文字は、内臓煮込みの名前でよく見かける。今回は、謎の文字「鹵」がつくホルモン料理に迫ってみよう。


横浜中華街 同發本館のモツ盛合わせ『鹵味』

「鹵」との出会いは、横浜中華街にある「同發本館」の『鹵味』だった。字は読めなかったが、その見た目で、ホルモン料理だとすぐわかった。

『鹵味』は、“ルーメイ”、“ルーウェイ” と読む。
皿に盛られているのは、ハチノス(牛第二胃)・コブクロ(豚子宮)・豚耳の3種類。店自慢の秘伝のタレで煮込まれている。

優しい味付けの内臓は、臭みやクセは一切なく、内臓の旨みがしっかりあってウマイ。コブクロはシャキシャキ、ハチノスと豚耳はコラーゲンがねっとり。居酒屋のもつ煮とはまた違う、新たな味わいとの出会いだった。

秘伝のタレ「鹵水(ロースイ)」

この内臓を煮込んでいるタレは「鹵水(ロースイ、ルースイ)」と呼ばれる。謎の文字「鹵」がつくタレだ。「鹵水」で煮込んでいるから『鹵味』という料理名なのだろうか。

鹵水(ロースイ)とは、様々な香辛料と紹興酒、醤油などを煮込んで仕上げた同發秘伝の特製漬けタレです。

中華菜館 同發 商品一覧 より

公式サイトの説明を見ると「豚子袋の鹵水漬け」「豚耳の鹵水漬け」のように「漬け」と書かれている。煮込むというより、煮込んで下処理した内臓肉を「タレに漬けて味付けする」ようなつくり方だろうか?

メニューの英語名では「Marinated」をつけて表記される。煮込みではなく「漬け」と呼ぶところが少し気になる。調理法に、この優しい味付けになる秘密がありそうだ。

「鹵(ルー)」は、「煮込む」という意味

「鹵味」の「鹵」は、“ルー” と読み、「煮込む」という意味がある。「ルー」は、2500年前より続く、中国の伝統的な調理法なのだとか。

「鹵味」とは、台湾屋台のアレ!

「鹵味」を調べていると、台湾の屋台グルメ「滷味(ルーウェイ)」であることがわかった。台湾の場合は、繁体字で「滷」と書くようだ。

「鹵」も「滷」も、同じ「ルー」

台湾の屋台では、茶色くなるまで煮込まれたアヒルの首肉や頭、内臓肉、豚足などが、山積みになって店先に並んでいる。それが「滷味ルーウェイ」だ。

ここ数年、東京・上野の「アメ横」でも、このタイプの屋台が急激に増えている。それで「ルー」という文字を、よく見るようになったのだ。

「平成福順 アメ横店」にて

「歯類」って何だよ!?
と、見間違う人がいてもおかしくない。
「歯」ではなくて「鹵(ルー)」なのです。念のため。

日常に潜む「鹵(ルー)」

よく行く弁当屋さんでも「ルー」を扱っていた。
これは『鹵豚足』だ。

東京都荒川区 ジョイフル三ノ輪商店街
「とくとく弁当 ニハマル」にて

実はこの豚足、何年も前から売られているが、最近おかずをガチの商品名で並べるようになり「ルーシリーズ」であることが判明したのだ。

あまじょっぱいタレで、じっくりと煮込まれている。ルーといっても、中国香辛料がバリバリ効いているわけでもなく、日本人好みの味付けだ。

身近にあった豚足煮込みが、実は「ルー」だったとは。もっとどこかに、ルーが潜んでいるかもしれない!

ルーローハンも「鹵(ルー)」

さらに「ルー」を深掘りしていくと、衝撃の事実が判明した。なんと、ルーローハンの “ルー” もルーだったのだ。

日本でもおなじみの「ルーローハン」は「魯肉飯」と表記されるが、本来の名前は「滷肉飯」だ。

「滷」は「鹵」に由来し、「醤油や香辛料を煮込んだスープ。またはそのスープで作った食べ物」を意味するが、漢字が複雑などの理由で同音の「魯肉飯」表記も用いられる。

Wikipedia「滷肉飯」より

滷肉飯ルーローハンの歴史には、こんな話もある。

貧しかった農民が貴重な豚肉を家族均等に食べられるように、豚肉を細かく刻んで煮込み、ご飯にかけたのが始まりだとされる。

Wikipedia「滷肉飯」より

「貧しかった農民が、貴重な肉を工夫して食べる」ってこれ、ホルモン料理発祥の話によくあるやつ! ホルモンを感じすぎて、深く愛してしまいそう。

ホルモン文化のニューカマー「鹵(ルー)」を楽しもう!

日本のホルモン界に加わりつつある「鹵(ルー)」という料理。ガチ中華ブームも相まって「見たことある!」という人もいるだろう。

ここ数年のアメ横を見ても、滷味ルーウェイを並べる屋台が急増し、昔とは違う雰囲気になっている。東京オリンピック2020で外国人観光客向けに増えていったのか。それともコロナ禍のチャンスを活かして進出した海外勢の影響か。いずれにせよ、異国のホルモン文化が仲間入りしつつあることには違いない。

日本のホルモン文化は、他国から流れてきた部分が大きい食文化だ。まさにいま、その歴史に別のホルモン文化が加わろうとしている。

ルー」がつく名前の料理を見かけたときは、ちょっと気にしてみてほしい。

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