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『この世界の片隅に』クラウドファインディング


私がこうの史代さんのマンガを読んだのは、多分にミーハーなところがあったように思います。映画化前か後かは覚えていないのですけれど、『夕凪の街・桜の国』についてのレビューを読んだことがきっかけです。

まあ、評判が良かったのでそのままAmazonで買ったのですけれど、いま思えば「桜の国」が一緒に入っていたことが大変良かった。

『この世界の片隅に』が描かれたのは、恐らくこの作品のある程度の成功があったからだと思うのですけれど、私もしばらくしてのちに、こちらも読んで、ああ、通底している、と思ったのです。

通底しているというのは、「桜の国」が収載されて良かったとの感想に繋がっていて、「桜の国」と『この世界の片隅に』に共通の精神が感じられたのです。

実際は「夕凪の街」もそれを意識してはいたのかも知れません。しかし、悲劇の描かれ方が大変重く、そしてそれだから「桜の国」は描かれたのでしょう。

タイトルに書いたクラウドファインディング中のアニメーション映画『この世界の片隅に』(説明する必要がないくらい、申し訳ないけれど、予想外のヒットだと感じたのですけれど、ヒットしていますね。もちろん、観たい、観て貰いたいとは思っていました。制作のためのクラウドファインディングはもちろん終わっていて、現在受け付けているのは、海外展開に片渕監督を送り出すための費用募集だそうです)でも、その点に重点を置いて描いていましたし、アピールも為されています。「日常」です。

私は日本文化学専攻科で現代日本文学より戦争関連のものばかり読んでいましたが、(紆余曲折しつつ)結局、戦時文化・戦時生活を読み取ることを主眼とすることになり、(こころ折れて)中退してしまったので提出もしておらず、図書収載も為されていないのですが、『この世界の片隅に』からも資料を取ったことを覚えています(PCに残っていました!)。

ついつい創作系統は劇的にしたくなるものです。それはおおよそ商業的感覚によるものだと思うのですが、泣ける、感動する、ということはそれだけ人を動かすのでしょう。ですからお金を稼ぐにはたぶん、こうしたところを狙った方がよろしい。音楽は派手に打楽器を使って、大きく盛り上がるところを作り、得意なら泣けるソロなんかもありでしょう。文章ではだいたい売れたギャルゲーがやっている辺がやりやすいでしょう。海燕の元編集長の先生がやっていらっしゃった創作論では、内田百閒のところで「小説において感動を誘うには、病気・障害・死を使うのが手っ取り早い」というようなことをおっしゃっていました。もちろん百閒の怪奇小説が上手いというくだりで、皮肉めいてです。

と、先の段で書いてしまいましたが、小説だとホラー系統は難しいようです。ゲームのかまいたちの夜は名作だそうですが、サウンドノベル・ビジュアルノベルの体を取らなくてもやってこられた我孫子武丸さんの力あってでしょう。絵や音というのはそういうものが得意で、絵だったら突然大映しにする、音も静かに鳴らしておいた上でいきなり大音量、などはよくある手です(マンガのコマ割りで1ページ丸ごと使うようなのは同様の効果を狙ってでしょう)。両方使えばなおのことですから、世の映像作品でホラーが欠かせないのは、需要の他に、シナリオの力量が相対的に低くても見せられるものが作れることもあるのでしょう。

もちろん、それ以上にあらゆる媒体に病気や死は溢れているのでしょうね(ケータイ小説のヒットなどはこの辺ではないのかな? 実はあまり読んだことがありませんが、人づてに聞くに)

そうした中で、商業媒体で日常を描くのは勇気もいり、困難もあったでしょう。そして評価が得られ、多くが望み、映画もヒットした事実。これらは時代の選び方、検証の努力もあったでしょうが、少なくとも作者、そして今回では監督およびクリエーターの力量を多分に表しているはずです。

願わくば、またこのような違う作品が(中国映画に大衆浴場のおやじさんの日々を描いたものがあると記事になっていましたが、どうなんでしょう、観てみたい!)作られてほしいものです。

そして、良いものを、良いものをと日々研鑽するクリエイターの方々こそ、今回のクラウドファインディング、参加する価値が分かるのではないかと思いつ、筆を置きます(こりゃ、キーボードであった)。

https://www.makuake.com/project/konosekai2/


(初出時、毎日新聞社の配給写真をタイトルイメージにしておりましたが、ノートの主軸が戦時文化から外れたうえ、適切な段に画像追加ができなかったので、『この世界の片隅に』の原作単行本のキャプチャに直しました。なお、著作物ですし、いまからまたひと売れする作品でしょうから、画質は何重かしてフィルターもかけて低下させてあります。著作権は原作者こうの史代さん・双葉社にあります。)


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