こじらせた男と賛同者の声【ショートショート】

ネット上で自尊心をこじらせた男がいた。他人の人気が妬ましく、ひがんだ気持ちを所構わずSNSに吐き出していた。

ある日のこと、いつもの様に特定の個人を攻撃するかの様な発信をしていたところ、不意に一人の賛同者が現れた。男は驚いた。はじめは何かの間違いかと思ったが、不思議とその日からその男の発信には賞賛の声が並べられるようになった。どんなに汚い毒づいた言葉であってもそれは温かく受け止められた。

さらに時が経つと賛同者と賞賛の声がどんどん増えていった。男は気分を良くした。社会に認められた様な気持ちになった。

10年の月日が過ぎ去った。
誹謗中傷、不平不満を男は吐き続けた。

発信する毎に何万という賛同の声が返ってくる日々。男はその道で有名人になっていた。

ある日のこと、男にとあるパーティの誘いがやってきた。それはいつも目にする賛同者からの誘いだった。男を囲んでパーティを催したいと云う。場所を見て驚く。300人は裕に入る会場だった。男は浮き足立った。その日が待ち遠しく男は心からパーティを楽しみにしていた。

一週間過ぎ、一月経って、ようやくその日が訪れた。

男は会場に向う。

しかし不思議なことに当日パーティに向かった男を待っていたのは無人のパーティ会場だった。男はいぶかしんだ。300人分の料理が並ぶビュッフェ式のパーティ。代金は既に支払われているとのことだったが男は結局一人で過ごす羽目になった。

男は半ば自暴自棄になりこの状況をSNSにアップしてやろうと会場の様子をスマホのカメラにおさめた。するとどうだろう。スマホの画像データには会場を埋め尽くすほどの人だかりが写っていた。

男は震える指先でSNSに発信した。すると沢山のコメントが画像付きで返ってきた。そこには人で溢れたパーティ会場の画像が添付されていた。戦慄することにそこには男の姿も写っていた。嬉しそうな顔が写っている。男はわけが分からなくなった。ついに気がふれてしまったかと思った。

当日の男のSNSには賞賛と感謝の声が溢れた。それは傍目には充実した空間の様に見えた。

現実には無人のパーティだったのに、、

SNS上には男をたたえる声が残っていたのだった。

次の日から男は誹謗中傷や不平不満、陰口を口にすることは無くなった。するとあれほど居たネットの賛同者は綺麗に誰もいなくなった。
脚光を浴びたかのような昂揚感はもう男の心には訪れない。

でも男は一つ幸せになった。
虚構の賛同者の代わりに、ほんの少し友達ができたのだ。
男は晩年その友達とたまに集まって一緒に食事などをして日々を過ごした。その場には会話としての声と人の顔があった。

#同じテーマで小説を書こう #声

ここのコメントを目にしてくれてるってことは最後まで読んでくれたってことですよね、きっと。 とっても嬉しいし ありがたいことだなー