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新一万円札

今回の部員日記は経済学部一年中田絢也が担当させていただきます。みなさん、今年の7月3日に何が起こるか知っていますか?…正解は、日本に新しい紙幣が導入されます。いよいよあと四ヶ月後には一万円の代名詞が「諭吉」から新しい人物に変わるのです。その人物とは、みなさん知っての通り渋沢栄一です。今回は、実は高校時代に渋沢栄一の研究をしていた私が彼の思想について簡単に紹介していきたいと思います。

道徳経済合一説

栄一は1916年に『論語と算盤』を著して、道徳経済合一説を説きました。倫理と利益の両立を掲げ、経済を発展させ、利益を独占するのではなく、国全体を豊かにするために、富は全体で共有するものとして社会に還元することと説いたのです。栄一は1873年に官僚を辞するときも、我が身を持って道徳経済合説を実現させ、事業の規範尺度として世間から罵られる商工業者を減らそうと決意しています。また、道徳経済合一主義を実行することで日本に根強く残る「官尊民卑」の打破を目指しました。この『論語と算盤』という本は、現在でも多くの起業家や経営者に愛読されており、論語=道徳・算盤=経済として、現在にも通じる道徳と経済の考え方を学ぶことができます。ぜひ読んでみることをお勧めします。

忠恕


 忠恕は『論語』の「夫子之道、忠恕而已矣」というフレーズからくる、何事に対しても、真心を尽くし、思いやりを持たなければならないという考えで、栄一の生涯を貫いた思想であると言われています。渋沢栄一が慕われる理由の一つとなりました。「此忠恕と云ふことを一口に説明すれば、真心を以て尽す、思やりをなすと云ふことで、之れが完全に行はれゝば、君には忠、親には孝、夫婦相和し、朋友に信を尽す等、所謂五倫五常の道の総てを総括りにすることが出来る、即ち私の唯今申した義務を尽すと云ふことは、此忠恕の道に外ならぬのであります、極めて卑近な例で申せば道を歩くにしても、先づ他人に譲ると云ふ心がなくてはならぬ、若しお互に譲らなければ正面衝突をせねばならぬと同様」この文は、1929年、東京養育院巣鴨分院で語られた訓話で松平定信の月命日である毎月13日を養育院の出勤日としていた栄一は、この年の9月13日に院外委託児童と藪入会に出席しました。その場で養育院から世間に出て働く子供達へ、質実剛健なる気風を装い、真面目な活動に従事することを伝えました。

合本主義


合本主義とは、公益を追求するために最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方です。栄一は商工業を盛んにする上で小資本を集めて規模の大きな事業を行う必要があり、その経営は個人の利益に左右されてはいけないと考えていました。そして、多くの人の力を集め、合本主義で様々な事業を開拓した。栄一が合本主義を重視した理由は、「官尊民卑」の打破に欠かせないと考えたからです。1867年にヨーロッパ各地をしたとき、事業が合本組織で非常に発展していることと、官民の接触する様子がとても親密であったことに驚きました。そして、合本組織で商工業が発達すれば自然商工業者の地位が上がって、官民の間が接近してくるであろうと考えました。日本社会をヨーロッパのような工業社会にするには国民自身が国家社会を変化させるのは「民」だという意識を持たすことが重要と捉えました。そのため、人々の才能や知見を発揮する仕組みを導入しなければならないと考え、それを合本組織に見出しました。ただし、栄一が構想した合本主義はあくまで欧米型と違い、「官尊民卑」の打破をするために独自の解釈が加わっていました。そこでは、株式会社は公共的なものであり、特定個人のものではないと位置付けられていました。「官」に対して「民」の力を蓄えて底上げするために、「民間パブリック」を支えるモラルを重視して、同時に近代教育を授かった人々によって担われることを強調して行動しました。民間パブリックには新旧のいろいろな階層が結集する必要があったため、モラルの説明には旧来から伝わる『論語』を用いました。

まとめ

このように見てみると、道徳経済合一説や忠恕などから渋沢栄一は主に論語に基づいた思想を持っていることがわかります。文明開花の波が押し寄せた明治時代においても『論語』はよく読まれる書物でありました。現実主義者である栄一と現実的にどうするかが書かれている『論語』は親和性が高いのです。また栄一は、「人は国際社会の助けによって自らを律し、安全に生存することができるので、もし国際社会がなければ誰も満足にこの世を立つことは不可能である。これを思えば、富の数を増やせば増やすほど社会の助力を借りている訳だからこの恩恵に報いるために救済事業をもってすることは、むしろ当然の義務でできる限り社会のために助力するべきである。」と説いていました。当時は「怠け者を助ける必要はない」という人が少なくなかったのですが、栄一は貧しいゆえに養育院で福祉を受けている者について「その多くは自業自得の輩である。しかしながら、彼らを自業自得の者として同情を持って臨まないのは甚だよろしくない。仁愛の念に富んで接していくべきだ」と述べています。栄一は国全体を富ませることを目的としてビジネスをしていました。その目的のために道徳の大切さを説いて教育や社会事業に力を入れることができたのです。

ちょっと難しい話をしてしまいましたが、経済学部に在籍している私にとって、また今の日本にとって、彼の思想はとても重要だと思います。「諭吉」から「栄一」に変化したことでこれからの大学生活がどう変化していくのかが楽しみです。拙い文章でしたが、ご一読ありがとうございました。


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