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LTADまとめ⑤ 第3章:フィジカル・リテラシー

第3章 フィジカル・リテラシー

この章では10個のキーファクターの一つ、フィジカル・リテラシーについてその詳細が語られます。

フィジカル・リテラシーの定義

フィジカル・リテラシーの定義については様々な見解があるようですが、
この章では、ベットフォード大学のマーガレット・ホワイトヘッド博士
の提唱する以下の定義が紹介されています。


その定義とは
「フィジカルリテラシーとは、生涯を通じて、個人個人に適したレベルで身体活動を維持するための動機、自信、身体能力、理解、知識である」
というもの。

図:Whiteheadの研究に基づくフィジカル・リテラシーの構成要素
『LONG−TERM ATHLETE DEVELOPMENT』p35より引用(引用者訳)

調査によると、フィジカルリテラシーが発達していないと、多くの子供や若者が身体活動やスポーツから離れ、余暇にはより不活発で不健康な選択をするようになるそうです。

また、人生の後半に身体的に活動的になるためには、若い頃に活動の場で自信を持つことが必要です。大人になってからの自信は、多くの場合、子どもの頃に基本的な動作やスポーツのスキルを学んだことから生まれます。

中でも、様々な研究の結果から、質の高い学校体育の授業は、
身体活動レベルの向上、自己概念の改善、自己効力感の向上、運動能力の向上、
楽しみの増加、意欲の増加、高校卒業後の座りがちな行動の減少、女性における長期間の身体活動の増加につながることが証明されているとのこと。

このように、国民が活動的で健康であるためには、すべての子どもたちが、その後の人生の土台となる運動とスポーツのスキルを確実に身につける必要があります。
これが、フィジカル・リテラシーを身につけることが重要である理由です。

子どものフィジカル・リテラシーの発達

子どもたちがフィジカル・リテラシーを確実に身につけるためには、
4つの基本的なスポーツ環境における基本の動きとスキルを学ぶ必要があります。

①陸上で:ほとんどのスポーツ、ダンス、身体活動の基礎となる。
②水中で:すべての水中活動の基本となる。
③雪と氷の上で:スキーやスケートなどの冬期競技の基本となる。
④空中で:体操、飛び込みなどの空中活動の基礎となる。

フィジカル・リテラシーはLTADモデルの最初の3ステージ、
つまり生まれてから思春期の成長スパートの始まり(女子は約11歳、男子は約12歳)までの間に発達するものです。

すべての子どもたちの身体的リテラシーを高めるには、保護者、保育者、学校関係者、地域のレクリエーションリーダー、その他スポーツ・レクリエーション・教育システムに関わるすべての人の力を結集することが必要です。

図:子どものフィジカル・リテラシーの発達はみんなの責任
『LONG-TERM ATHLETE DEVELOPMENT』p.39より引用(引用者訳)

このフィジカル・リテラシーの発達期に忘れてはならないことは、
「子どもは単なる大人のミニチュアではない」ということです。

子どもたちの成熟度や学習速度には差がありますが、ほとんどの子どもたちが同じ順序で、同じ段階を経て、基本的な運動技能を習得していきます。

ほとんどすべての運動技能について、子どもたちは一連の発達段階を通過する必要があります。ある特定の運動技能を非常に短期間で習得する子どもはいますが、その習得段階をスキップして、次の運動技能を習得できる子どもはいません。

したがって、この時期のコーチや保護者、保育者の目標は、
子どもが学んでいる運動技能が次のバージョンに移行するのを助けることであり、大人が行うのと同じ運動技能を押しつけることではありません。

そのため、幼児を対象としたコーチは、自分の担当する子どもたちに紹介したい
スキルの学習段階をよく理解しておく必要があります。

アクティブ・スタートにおけるフィジカル・リテラシー

アクティブ・スタート期(乳児期~6歳)には、基本的な動きを覚え、
それを遊びの中でつなげていくことをフィジカル・リテラシーの目標とします。

この時期にフィジカル・リテラシーを身につけることで
・子供たちが活動することを楽しみ、効率的に動くことを学び、協調性とバランス
 を向上させることで、将来のスキル開発の成功の基礎を築くことができます。
・特にリズミカルな活動は、脳内の複数の経路に神経接続を作ることができます。
・脳機能、協調性、社会性、運動能力、自制心、リーダーシップ、想像力の発達を
 促進させることができます。
・子供が自信を持ち、前向きな自尊心を育むのに役立ちます。
・丈夫な骨と筋肉を作り、柔軟性を高め、良い姿勢を身につけ、
 体力を向上させ、適切な体重を維持し、ストレスを軽減し、
 良い睡眠習慣を身につけることができます。

この時期の運動は、常に子どもたちの一日の楽しい一部であるべきで、
やらされるものではありません。
安全な環境で活発に遊ばせることが、子どもたちが活動を続ける最善の方法です。

ファンダメンタルのフィジカル・リテラシー

ファンダメンタル期(男子6~9歳、女子6~8歳)では、すべての基本的な運動技能を習得し、総合的な運動能力を身につけることを目的としています。
この時期は、フィジカル・リテラシーを発達させるために重要な段階です。この時期に、多くの高度なスキルの基礎が築かれます。

この時期の子どもたちのスキルアップは、安全でチャレンジングな環境の中で、
構造化されていない遊びをすることが一番です。
地域のレクリエーション活動、学校、マイナースポーツのプログラムにおいて、
知識のある教師、指導者、コーチから質の高い指導を受けることが重要です。

この時期の技能開発は、よく構成され、積極的で楽しく、
ABC(敏捷性、バランス、協調性、スピード)
とリズム感を養うことに重点を置くべきです。
特に、手と足の巧みな動きは、この時期によく発達させることができます。
このタイミングを逃すと、後々、スピードが出なくなる可能性があります。

また、この時期は、陸上、水上、氷上、雪上など、さまざまなスポーツに参加するのに最適な時期でもあります。
筋力、持久力、柔軟性を養う必要がありますが、トレーニングではなく、ゲームや楽しいアクティビティを通じて行います。
周囲の動きを読む力や、試合中の的確な判断力を身につけることも、この時期に身につけるべき重要な能力です。

この時期の子どもたちは、一つのスポーツに特化してはいけません。
週に1、2回参加するスポーツがあっても、他のスポーツやアクティビティに少なくとも週に3回参加することが必要です。

この段階の子どもたちは、何が公正であるかということに強い感覚を持っているので、スポーツの簡単なルールと倫理を紹介する必要があります。
と同時に、基本的な戦術や意思決定を導入することができます。

Learn to Trainにおける身体的リテラシー

Learn to Train期(男子9~12歳、女子8~11歳、思春期の始まりで終了)では、スポーツの基礎的なスキルを習得することが目的です。

この時期は、協調運動や細かい運動制御の学習が加速されるため、スポーツ特有のスキルの発達にとって最も重要な段階です。また、学んだスキルを練習し、自分の上達を確認することを楽しむ時期でもあります。

Learn to Trainの段階は、後期専門スポーツに特化するには、まだ早すぎます。この段階では、多くの子どもたちが1つのスポーツを好むようになっていますが、運動能力を十分に発達させるためには、少なくとも2つのスポーツを行い、幅広い活動をする必要があります。競争は重要ですが、勝つことではなく、競争することを学ぶことに重点を置くべきです。長期的に最良の結果を得るためには、そのスポーツに費やす時間の70パーセントを練習に費やし、30パーセントだけを競技に費やすべきです。

柔軟性を鍛え、ゲームやリレーで持久力を養う大切な時期です。
また、あらゆる基本的な運動能力を開発・向上させ、スポーツ全般の技術を習得する時期でもあります。脳は成人に近い大きさと複雑さを持ち、非常に洗練されたスキルパフォーマンスを発揮することができるようになります。

晩熟傾向の子ども(同年代の選手より思春期を迎えるのが遅い子ども)は、Learn to Trainの段階が長く続くため、スキルの習得に関して有利になります。

この段階になると、子どもたちは自分が好きなスポーツ、自分が成功していると感じるスポーツについて、明確な考えを持つようになります。
このような考えは、奨励されるべきですが、少なくとも2つのスポーツをすることに重点を置くべきです。
年間を通して1つのスポーツに集中することはお勧めできません。

幼年期の終わり

フィジカル・リテラシーの発達の最後の段階となるLearn to Trainの段階は、
思春期の始まりと、その後の急激な成長で終わりを告げます。

思春期の始まりを追跡する簡単な方法がいくつかあり、その一つに成長速度の測定があります。

6歳頃から思春期を迎えるまでの間、子どもは通常1年に約5cmずつ、かなり安定した速度で成長します。
1年間の身長の増加がこれ以上になり始めたら、思春期が間もなくやってきます。
8歳頃から3ヶ月ごとに身長を記録し、プロットすることで、より正確な情報を得ることができます。

一般に、成長速度には性差や個人差があります。
つまり、早熟傾向な子ども、平均的な子ども、晩熟傾向の子どもがいるのです。

晩熟傾向の子どもたち

フィジカル・リテラシーは、思春期の成長スパートが始まる前に身につける必要があります。

このことは、晩熟傾向の子どもたちに、いくつかの利点をもたらします。
それは、Learn to Train期にいる期間が長いため、
早熟傾向な子どもや平均的な成長の子供と比較して、
その間にスキルの発達と動作のスピードを磨くことができるのです。

男性の場合、晩熟傾向であるとにはメリットとデメリットの両方があります。
メリットは、技術を磨き、巧緻性を身につける期間が長くなることです。
一方、デメリットは、周りが急速に大きく、強く、速くなる中、不利な身体でスポーツをしなければならないことです。

多くのスポーツでは、このような体格と筋力の増加は、大きな身体的優位性を与え、身体的に未熟なプレーヤーはチーム選抜の際に見落とされる傾向にあります。
その結果、競争に勝つことができず、脱落してしまうのです。

もし、晩熟型の選手が思春期の成長期を過ぎるまでスポーツを続けていれば、Learn to Trainの段階で費やした時間は報われるはずですが、その前に、そのスポーツをやめてしまうことは残念なことです。

子どもの適切な能力開発

すべての子どもたちが、フィジカル・リテラシーを十分に発達させるためには、
学校教育が関与していなければなりません。
カナダでは、学校と体育・健康教育の分野におけるカナダの主要な専門組織であるPhysical and Health Education Canadaをはじめ、多くの大学や体育協会がこの課題に取り組んでいるそうです。

しかし、すべての子どもたちがフィジカル・リテラシーを身につける機会を得ることは困難なことです。実際には、民族や文化、生育環境の違いにより様々な課題があります。

そのような不利な立場にある子どもたちが確実にフィジカル・リテラシーを身につけるという課題が達成されるためには、保護者が、学校、幼稚園、保育園、スポーツ団体にフィジカル・リテラシーを優先するよう要求する必要があります。

これは、スポーツプログラムが、スポーツ中心ではなく、子どもの発達を中心としたプログラムに変わることを意味します。

スポーツに特化したスキルではなく、フィジカル・リテラシーを身につけようという動きは、多くのスポーツプログラムで取り入れられています。
具体的には、以下のような内容です。
・ウォームアップ、ドリル、クールダウンに様々な基本的動作を取り入れる。
・スポーツの基本的なスキルを、種目やポジションに関係なく教える。
・子どもが幅広いスポーツに触れることができるようにし、
 早期に1つのスポーツに特化しすぎないようにする。
・他の類似したスポーツと提携し、幅広い経験を提供する。

概要

フィジカル・リテラシーとは、様々な基本的な人間の動き、基本的な動作スキル、基礎的なスポーツの技術を身につけることで、人々が生涯にわたって身体活動に従事し、健康を増進することができるようにするためのツールを提供することです。

フィジカル・リテラシーを確実に身につけ、体格、才能、スキル、そして意欲があれば、一流のアスリートになるための流れであるLTADの次の段階へ進むことができます。

※ここまでの文章は『LONG–TERM ATLETE DEVELOPMENT』p.33-47の内容を引用し、まとめたものになります。

まとめ

今回の章はフィジカル・リテラシーの詳細について説明したものでした。

中学校の部活にLTADを応用するための視点としては
①1つのスポーツに特化しすぎない視点を持つ。
②晩熟傾向の生徒にこそ技術をしっかり教える。
③保健体育の授業と連携する。
ことなどが考えられると思います。

①1つのスポーツに特化しすぎない視点を持つ。

まず、「①1つのスポーツに特化しすぎない視点を持つ。」
という観点ですが、これは非常に難しいですね(笑)

そもそも、生徒はバスケットボールがやりたくてバスケ部に入ります。
野球をやりたい子は野球部へ、サッカーをやりたい子はサッカー部へ入ります。

放課後、バスケットボールがやりたくて体育館に来た生徒に対し、
「今日はバレーをやろう!」「今日はプールで泳ごう!」
なんてことがコーチとして言えますか?ということです。

生徒も、顧問(教員)も大事な時間を使って体育館に訪れます。
その大切な時間を使って、バスケットボール以外の種目をやることの意義を
生徒も顧問(教師)も共有できなければ、時間の無駄遣いに終わります。

この「特化しすぎない」ための哲学や方法論は
次章「スペシャラゼーション」において深く考えていきたいと思います。

②晩熟傾向の子どもにこそ技術をしっかりと教える。

次に、「②晩熟傾向の生徒にこそ技術をしっかり教える。」
という観点については、非常に大切な観点だと考えています。

我々、指導者はややもすると、発達の早い子や、理解・習得の早い子に
重点的に声をかけ、指導を行いがちです。
しかし、この章で提示されたように晩熟傾向の子供にはメリットとデメリットがあります。

メリットは「技術を磨き、巧緻性を身につける期間が長くなること」です。
だからこそ、晩熟傾向の子どもたちには丁寧な技術指導と
ABC(敏捷性、バランス、協調性、スピード)とリズム感のトレーニングに重点をおくべきではないでしょうか?

一方、デメリットは、「周りが急速に大きく、強く、速くなる中、不利な身体でスポーツをしなければならないこと」です。
これはグルーピングや試合方法によってある程度は軽減できる可能性があります。

また、このデメリットこそが後々になってメリットになる可能性も秘めています。
特にバスケットボールで言えば、身体的に不利な状況での技術やメンタリティーを磨く機会につながる可能性です。

中学1年生で140㎝台だった子どもが、
170-180㎝台の同世代の子どもの中でプレーした経験が、
将来、身長が190㎝台になったときに、
210-230㎝台の相手と戦う際の経験として生きる…という考え方です。

ただ、そのような中ではケガのリスクについては非常に高まる可能性があります。
ここは、指導者として、しっかりと考えていく必要がある内容だと思います。

③保健体育の授業と連携する。

最後に「③保健体育の授業と連携する。」という観点です。

日本における子どものフィジカル・リテラシー向上は、
学校体育に依存するところが大きいと思います。
特に、小中学校の体育における、指導の内容・あり方は、
その後の子どものフィジカル・リテラシーに大きな影響力を及ぼします。

小中学校の学習指導要領はよく出来ていて、低学年、中学年、高学年、中学1・2年生、中学3年生と子どもたちの発達を考慮し、2年刻みでその目標が設定してあります。

特に、小学校低学年では体つくり運動を通して、多様な動きをつくる運動遊びを学習することとなっており、この内容はまさにフィジカル・リテラシーの向上につながる内容と言えます。

また、中学1・2年では多くの種目を経験させることが目的となっており、
専門以外の運動経験ができる良い機会になります。

しかしながら、現場の中学校保健体育の授業では、授業規律を重視するあまり、活動の時間が十分に確保されていない授業や、教師の得意な種目のみが長時間取り扱われるなどの課題も散見されます。

保健体育科の教師がフィジカルリ・テラシーの向上や早期特化の弊害を理解し、
授業に取り組む必要があると考えます。

以上、3点を本章での学びを部活動に応用する視点とし、今後の部活動運営及び教科指導に取り組みたいと考えています。

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