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変化する夢

人は、眠っている間に夢を見る。正夢や逆夢など、予知夢と呼ばれているものを覚えていることがある、という人もいるだろう。しかし一般的に、見た夢を覚えていることは少ない。夢にうなされたことを覚えていても、夢の内容の多くは忘れられている。

心理学者C.G.ユングによると、夢に表れているものは、無意識の領域に閉じ込められた内容が投影されているという。それは、象徴的であり、言葉には言い換えができないものが多いイメージだとされている。そして、心理療法での夢分析においては、1回の夢だけで判断するのではなく複数の夢を取り上げ、その夢の流れをシリーズとして考えることが必要だといわれている。

学生時代に、夢分析の実習があった。自分の見た夢を目覚めた瞬間に記録し、夢に潜んでいる流れと、自分の体験を照らし合わせて分析するのだ。
私の場合は、何度も同じ夢を見ることもあれば、1日のうちに3つの夢を見たこともあった。1日に複数の夢を見ている時は、映画の同時上映のように、全く関連のないストーリーが展開される。出会ったことのない人物や、思いもつかなかった場所が次々と出てくるので、ドラマ以上のドラマを見ている気分になる。

夢を記録している時点では、筋書きのない不思議なドラマの1つである。私の中から出てきたイメージにも関わらず、夢は私とは関係のないストーリーと感じている。どこかふわふわと浮かんでいるような、つかみどころのないファンタジーのようだ。しかし、記録を重ねていくうちに、ある夢と別の夢の共通項を見つけることがある。その共通項から、かすかに見える暗喩のようなものを読み取れた時、浮いていたイメージと自分の体験がつながり、「あ、わかった」と腑に落ちる。その瞬間私の夢は、筋書きのないドラマから、私の体験に変化する。


週刊キャプロア出版3号「フィクション」に掲載
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