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夜行の船旅 ②女木島・男木島(香川県高松市)

 それぞれ女木島(めぎじま)、男木島(おぎじま)と読む。人口は両方とも150人前後。一部の芸術ファンと歴史マニアには知られているがそれ以外は知られていない。
二つとも毎年開かれる瀬戸内国際芸術祭の会場で、シーズンともなれば島で屋外展示されている作品を見に特定の芸術ファンがどっと押し寄せる。また女木島は歴史に関心のあるひとなら知っているが、桃太郎に出てくる「鬼ヶ島」なことだ。桃太郎伝説は愛知県にもあり昭和4年(1929年)にサル、イヌ、キジの出身地や鬼ヶ島の場所が地域振興のために設定されたが、その1年後、岡山県と香川県で半年の時差はあったがほぼ同時に桃太郎の舞台として名乗りをあげる動きが出た。
香川県は小学校の教員だった橋口仙太郎が周辺の島々を巻き込んで鬼ケ島であることを一つ一つ立証して、女木島自体も鬼(つまり海賊)の拠点だった遺構を持っていたため、正当性を持つことは他に一歩先んじた。
 わたしも鬼ケ島なことは知らなかった。昨年の瀬戸内国際芸術祭に行こうとして自宅でバスの時間まで本を読んだら寝込んでしまいアウト。いつかリベンジを、と改めてしらべたら鬼ケ島だった。
 大阪・神戸から高松まで、フェリー往復なら3800円、バス往復なら8000円。早く初日から歩き始めたかったので行きはバス、ただし帰りもバスにすると神戸発の終電に間に合わないのでフェリーに。「夜行の船旅」だ。
 瀬戸内国際芸術祭のシーズンは終わっていたがそれでもフェリーには20人の乗客がのっていた。最初に女木島に着く。自由時間は3時間、島を一周しても2時間程度なので、間に合わないことはまずないだろう。
問題なのは島の中腹にある「鬼の洞窟」。日射病を避ける意味でバスに。ワイルドな格好をしたスタイル抜群の女子高生が乗り込んできてバスの乗客がみな「おっ」と思ったが、そばにいる肥満体の母親に向かって一言。「なあなあ、鬼ってほんとうにおるん?」。周りの男性全員が前につんのめっていた。
洞窟には何も考えずに入る。バスの中で友達になったらしい男子大学生が展示物を見ずにそれぞれの大学の自慢話で火花を散らしている。人との比較なんか時間の無駄なのに。若いなあ。
宝物を積み上げていたという宝物の部屋、鬼(海賊)立ちが会議をしたという会議の部屋、その先を行くと誘拐してきた女性や子どもをとじ込めた部屋。リアルな人形が鉄格子に閉じ込められて、また実際そこで多くが亡くなったというので仏壇と花束が置いてある。「本当にこんなことをやったのか」。洞窟から出るときに桃太郎と鬼がニッカニカで、握手をしている人形が置いてあった。
「桃太郎、おまえは甘いな」と人形に向かってつぶやいた。
(2023年8月1日記)

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