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日系もしのぎを削るインドネシアの外食産業

東南アジア最大、世界でも第4位を誇る人口を持つインドネシア。
地場はもちろん、日系やその他外資の外食も多数進出し、しのぎを削っています。
インドネシアは年々所得が上がっており、世界的な日本食ブームの後押しもあって、外食産業は非常に大きなポテンシャルを持っています。
私がインドネシアに在住しているこの11年間でも、日系含めた多くの外資が参入し、地場企業も業態を進化させ、日本人の我々からみてもかなり選択肢が豊富になったと思います。
その一方で進出しても苦戦し、撤退する日本の外食企業もありました。

今回の記事ではインドネシアに進出した日系外食産業が今現地ではどうなっているか、ここ10年位の勝ち負けはどうだったか等、私の体験や肌感覚を中心に書いていこうと思います。

どんな業態が生き残っているのか?

まず前提として、今回の記事では多店舗展開を前提としたチェーン系の外食業態(皆さんも良く名前を聞く)にフォーカスします。
1〜2店舗で商売する個人経営に近い業態では、戦略も状況も異なるからです。

全ては網羅しませんが、現在インドネシアに進出している外食チェーンの業態は以下の様な状況です。


丸亀製麺、吉野家、牛角、ペッパーランチ、カレーハウスCoCo壱番屋、大戸屋、一風堂、スガキヤ、元気寿司、モスバーガー、築地銀だこ…等。
また日系のダイニングイノベーションという会社が東南アジア向けブランドとして展開する、しゃぶしゃぶのしゃぶ里、焼肉のKINTANなどもあります。
この中でも特にインドネシア人に支持され、誰の目から見ても流行っているなと思う業態は、丸亀製麺、吉野家、牛角、またしゃぶ里辺りです。


なぜこれらの業態がインドネシアで成功しているのか(広い層に支持されているのか)?
進出後からの変化や、実際自分でこれらの店舗を利用してきて感じる所だと、第一に徹底的にローカライズしている点があると思います。
言い換えると、下手に日本の味、品質、業態、メニューを押し付けていないという事です。
もうちょっと分解すると、以下の要素があります。

  • 味を徹底的にインドネシア人の舌に合うように調整している(逆に日本人は微妙?と思う事も多い)

  • メインメニューも、日本オリジナルより現地風にアレンジしたラインナップの方が圧倒的に多い

  • サイドメニューにも、ローカルフードが多彩に取り入れられている(日本では見たことない様なものも)

  • そしてメニューの選択肢がとても多い(セットメニュー含めて)

  • ファミリーや友達と大人数で来店する前提の店舗作りである(吉野家や大戸屋であっても)

  • 一方で、日本発ブランドであるという事はきちんと打ち出している

他にもたくさんの要素はあると思いますが、肌感でも見えるところはざっくりこんな感じです。

これらの要素をさらに深掘りしていくと?

やはりまず一番大きいのは、インドネシア人の嗜好に合った味やメニューを徹底できるかどうか、という点だと思います。
敗退していった日系チェーンも見ていると、ここでどれだけ余計なプライドを捨ててローカライズできるかが、勝負の分かれ目だと分析しています。

例えば我々に馴染みの深い吉野家は、「牛丼オリジナル」というメニューで日本のベーシックな牛丼は残しているものの、それ以外では甘辛ダレの「焼き肉丼」、「照り焼きチキン丼」など、日本では見かけないラインナップです。
サイドメニューにはインドネシア人の大好きな揚げ物が充実しています。

Yoshinoya Indonesiaの公式サイトより

ちなみに吉野家がインドネシアに進出した当初、「オリジナル牛丼」のつゆの味は日本とぼぼ同じだなと感じました(お米の炊き具合は別として)。
ただある時を境に、オリジナルであっても味がかなり変わった気がします。
インドネシア人に作らせている間に味が変わったのか、もしくはインドネシア人の舌に合わせてあえて変えたのか?
牛丼の頭はセントラルキッチンで製造しているでしょうから、おそらく後者なのではと思います。


うどん業態でトップに君臨している丸亀製麺も、インドネシアではかなりメニューの様相が異なります。

Marugame UDON Indonesia 公式サイトより

日本もトッピングは充実していますが、こちらもインドネシア人が好みそうなラインナップとなっています。
サイドメニューも、インドネシア人が大好きな揚げ物が充実しています。
私の大好きな釜玉うどんやいなり寿司は当初あったものの、いつからか見なくなってしまいました。
ちなみに店舗での注文の流れは日本と同じで、うどんを選ぶ→サイドメニューを自分で取る→レジでお会計、の流れです。
この形式はインドネシアでも受け入れられ易い様ですが、「たくさんの選択肢を自分の目で見て選べる」というのがインドネシア人の嗜好にマッチしているのではと推測しています。
※後述しますが、インドネシア人はビュッフェが大好き。トラディショナルな食堂も、並んでいるおかずを見ながら自分で選ぶ形式が多い。

尚、インドネシア人は大人数で食事をする事も多いため、これらの業態は大体がファミレス形式の店舗作りをしています。

食べ放題はビュッフェ形式が成功する?

インドネシア人はとにかくビュッフェ形式が大好きです。

日本ではプロ向け食材小売店として有名な肉のハナマサは、しゃぶしゃぶ・焼肉レストラン業態としてかなり早くからインドネシアに進出しています。
以下はハナマサインドネシアの公式サイトです。

食べ放題コースが人気ですが、追加を店員に注文するのではなく、自分で取りに行くビュッフェ形式です。
お肉だけでなく、様々なサイドメニューや練り物のタネ、デザートが店内にずらっと並んでいます。
料理はいわゆる日本のしゃぶしゃぶというよりはタイスキに近いですが、インドネシアではこのビュッフェ形式というのが当たる様です。
冒頭に紹介した日系のしゃぶ里、焼肉のKINTANもこの形式を採用して、インドネシア人のお客で賑わっています。

私も時々、インドネシア人の社員とこういったお店に行くのですが、実に楽しそうに食べ物を選んでいます。
我々日本人の庶民感覚だと、肉の食べ放題ならとにかくまずは肉を食え、となりがちですが、彼・彼女らはご飯もの、麺、揚げ物など肉以外のメニューをたくさん選んできます。
肉の食べ放題なら肉に執着、ではなく、多彩なメニューを選ぶ楽しみ、仲間との時間を存分に堪能している気がします。

尚、インドネシアは約9割がイスラム教徒であるため、お酒を飲まない、豚肉を食べない前提でも、業態やメニューを考える必要があります。
長くなるので、この辺はまた別の機会に書いてみたいと思います。

それでも、日本ブランドという事は強い

こういう状況を見てくると、インドネシアでは日本のレストランでは無くなってしまうと思うかも知れませんが、それでも日本ブランドというのはまだ強いです。
日系には全く関係の無い地場でも、寿司やラーメンの業態が増えています。
店内のポップやメニューでは、辿々しい日本語で日本食ブランドをアピールしています。
私が初めてインドネシアに来た十数年前と比べると、日本ブランドの存在感は薄くなってきていると感じますが、それでも日本食は美味しい、ヘルシーというイメージがまだ強いのだと思います。

日系がインドネシアの様な新興国に進出する場合は、まずはある程度の富裕層をターゲットに、という事になる事が多いですが、最近は日系の業態、または日本をコンセプトとした地場業態には若者でも賑わっています。
所得が上がってきた事もありますが、インドネシア人は給料日になると、「そんなにお金を使っちゃう?」と心配になる程財布の紐が緩くなるので、綺麗な人口ピラミッドを描くインドネシアでは相当なマーケットポテンシャルがあると思います。

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