見出し画像

反体制小説 龍の勢い

 二年に一度の割合で、とある町に人が集まる。昼から夜まで打ち上げ花火を楽しみ、普段はのどかな田舎町が、その日は地元の人も含めて、大勢の人でにぎわいを見せる。
 トモキという小学五年生が、七段ギヤの自転車に乗って颯爽と小学校前に現れた。少し遅れて、同級生のマンパチ達が姿を見せた。
 今日は十人ほど集まる予定だが、黙って待っていてもつまらないので、缶蹴りを始めるかとトモキが言った。
 拾ってきた空き缶を片手に、トモキ達は近くの神社に向かった。トモキ達のクラスでは、缶蹴りが流行っていて、学校の授業が終わると、神社に集まって騒いで遊んでいた。
 とりあえず、自分が鬼になる、と言ったトモキから、他の子供達は離れて散った。
 トモキが缶を立てて、あたりに気を配っていると、カズオミ達が顔を見せた。
「何で、待ち合わせ場所の小学校前に、お前らがいねえんだよ。探したぞ」
 そう言われたトモキは、
「悪い悪い。缶蹴りをやりたくてさ」
 と答えた。
 カズオミ達も参加した。トモキとジャンケンをして、トモキが負けた。引き続き、トモキが鬼である。カズオミ達は走って隠れた。
 トモキは缶蹴りのために、オモチャのガンを忍ばせていた。ガンを構えて、缶を蹴りに飛び出してきそうな草むらや民家の路地、樹木の裏などに撃ち込んだ。しばらく様子を伺っていたマンパチが走ってきて缶を蹴ろうとしたが失敗した。
 トモキはマンパチにガンを見せびらかして、
「今日は、道具を持ってきたから、これを使いたかったんだ」
 と勝ち誇った表情で言った。
 その後もタマを撃って、上手く勝負を展開させた。缶蹴りが終わる頃には、空も暗くなっていた。花火が空に打ち上がり、露天がにぎわいを見せる。トモキ達は小学校の校庭に向かった。そしてどこからかボールを持ち出して、サッカーを始めた。
 暗がりの中でおこなうサッカーは、トモキ達にとって面白かった。結局は、誰も祭りに関心がなかった。
「おい、そろそろ帰ろうぜ」
 誰かがそう言って、皆んなが家に帰ろうとした時に、いきなり現れた学校の先生達が、子供達の前に立ちはだかった。
 能面のような表情で先生は、
「お前ら!!誰に許可取って夜中にグラウンドでサッカーやってるんだ!!」
 と、子供達を問いつめた。
「何故、俺達に許可を取らないのか?!ふざけろ、この野郎!!ここは、お前らのグラウンドではなく、学校の敷地だぞ!!」
「…………」
「この夜中に、祭りの日とはいえ、騒がしいから、サッカーをやめろ!!いいか、わかったな!!」
「…………」
「分かってるのか?分かってねえだろ!!何とか言ったらどうだ!おい!!お前ら!!」
「…………」
 子供達は、全員が下を向き、黙っていた。
「先生達は別にサッカーをするなと言ってるわけじゃないぞ。やりたかったら許可を取れ!!この真っ暗なグラウンドで、ボールが見えないと思うから、照明を点けてやってもいいんだぞ、許可さえ取れば!!それを、お前らは何なんだ勝手に!!」
「……………」
「馬鹿野郎!!お前らは馬鹿野郎だ!世の中にはルールってものがあるんだよ!!それを覚えろ!!小学五年生といったら、もう大人だぞ!!許可を取れ!!」
 子供達は、それぞれが小声で「………ハイ………」
「すみません」とつぶやいた。
「それと、もう一つ言いたいのは、神社のあたりで缶蹴りやってるけど、あのへんでタバコ吸ったりしてるって噂がある!!真実だったら大変だぞ!!どうなんだ?」
「………」
「小学生でタバコなど吸うんじゃねえ!!神社にたむろする奴らといえば、お前らだ!!吸ってるのか!!」
「…………」
「答えろ!!何故、答えられないんだ?!お前らが犯人だと決めつけちゃいないが、本当は犯人だろ?!早く答えろよ!」
「違います」
 トモキが言い返した。
「違う?そうか?だとすれば、誰がタバコを吸ってたんだろうな?トモキは知ってるのか?」
「………」
「知らないのか」
「…………」
「カズオミは、見たことがあるか?神社でタバコ吸ってる奴らを」
「知りません」
 先生達は、怒りに満ちた目で、頭から湯気を出して子供達を問いつめた。しかし、これといった情報は得られなかった。
「お前らは、本当に知らないのか?!」
「………」
「何とか言え!!先生達は疑ってるわけじゃないぞ!知らないのなら、知らないと全員で言え!!」
 子供達は、口々に「知りません」「見てません」と答えた。
「そうか!!先生達はお前らを信じよう。今日、言われたことを、しっかりと覚えておくように。これで解散だ!」
 子供達は、グラウンドに背を向けてそれぞれ家路を急いだ。
 しかし、トモキとカズオミは納得のいかない顔で、先生達の悪口を学校の入口で喋っていた。
「ふざけやがって!夜中にサッカーの何が悪いんだ?頭に来る!復讐しないか?」
 トモキが提案した。「面白そうだな。復讐しようか。先生達のクルマを、パンクさせちゃおうよ」とカズオミが言って、二人は気分が盛り上がり、駐車場に向かった。
 カズオミが錆びた包丁をドブ川の近くで発見して、「使えるだろ?」とトモキに見せびらかした。そして、先生達の車が並ぶ駐車場で、次々とタイヤを刺して、空気を抜いた。トモキは油性マジックペンを校舎から持ち出して、車のボディに落書きを始めた。カズオミにもマジックペンを渡して、ドラえもんの似顔絵や同級生の電話番号などの落書きで、ボディを汚し続けた。
 トモキはボンネットの上に足を乗せて、立ちあがって周りを見渡した。ズボンとパンツを脱いでクソをし始めたのをカズオミは見て驚き、
「おい、トモキ!!何やってるんだ!!」
 と声をかけた。
「ここでクソをしてやろう」
「やめとけ!それはまずいぞ」
「大丈夫!!しかし、クソが出ねえな」
 トモキは踏ん張って、クソをひり出そうとケツに力をこめた。妙に固いクソだったのか、ケツから出す時に、「痛てえ」と声を漏らした。
「昨日、唐揚げ食いすぎたから、腹が変になってる」と言いながら、太いクソを車の上で出してしまった。
「ハッハッハ!!ざまあ見ろ、先生達!この車はウンコ車だ!!ハッハッハー!!」
 笑ってトモキは降りようとしたが、自分のクソを踏んで足を滑らせて派手に転んで、地面に
叩きつけられて、カズオミは笑った。
「ハハハハハ!!知らねえぞ俺は。そろそろ先生達来るぞ。俺は逃げる」
「おい、ちょっと待てよ」
 カズオミを追って立ち去ろうとした時、ふと振り返り、あわれな車達の惨状が目に入った。
 後から先生達は、何を思うのだろう。
 トモキは、大声で笑った。
 

 
 

この記事が参加している募集

スキしてみて

ふるさとを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?