第38話『剣闘士の夢』

 問いそのものの性質にもよりますが、誰にどの様に問うても答えが得られない時、人はどうするべきでしょうか。
 更に、答えを求めて彷徨うのか、あるいは、問うことをやめて、様々なものを省みるのか。
 やがてローマに帰順することになった、ガリアのある部族の族長が、奴隷に記録させた一族の記録が残っています。
 族長は、あまりにも長く一族の骨肉の争いが続く事を憂えていました。
 ある日、族長は、人の居ない闘技場で、小さな人形を命懸けて奪い合う剣闘士の姿を見たそうです。
 呪術師はそれを、人生の中での大切な瞬間に見る幻だと族長に伝えましたが、それは良い兆しとも悪い兆しとも言えず、ただ何かを決めねばならないことだけは確かだと明言しました。
 なんの助けにもならない呪術師の見立てに、当初は落胆していた族長ですが、なにかを決める。その決めること自体を正しく選ぶことは、辛うじてできたのではないかと語っています。
 この一族の記録は、長い間ローマ人による嘘だろうと言われていましたが、後に、本物だということが確認されました。

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