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「生活保護の完全現物支給化」が絶対に実現しない理由

「生活保護を現物支給にするべき!」

という意見をネットではよく見かけるが、それは賢い意見とは言い難い。

彼らいわく、

「生活保護費で酒やたばこを買ったりパチンコをしてたりするのが許せない!ムカつく!」

という理由のようだが、感情が先行しているだけで「現物支給にすると何が起きるか?」「なぜ今は現金で支給されているのか?」という点に考えが至っていない。

政治や行政だって現物支給の検討くらいしたことがあるだろう。現”金”支給より現”物”支給の方が優れているのであれば、とっくに実現されているはずだ。生活保護法が制定されてから、一体どれだけの年月が経ったと思っているのだろう?(1946年公布・施行)

生活保護の現物支給が実現されていないのは、それなりの理由があるのだ。


生活保護が現”金”支給である理由

生活保護が現”金”支給である理由。それは、「最も効率的かつ柔軟に困窮者を支援できるから」だ。

想像してほしいのだが、生活保護を現”物”支給にしたら何が起こるだろうか?

生活保護受給者は全国に200万人超もいる。その中には高齢者もいれば乳幼児もいるし、小柄な女性もいれば大柄な男性もいる。アレルギーや持病や障害を持つ人もいる。

もしも食料も衣類も生活用品もすべて現物で支給するとなると、多種多様な事情を持つ受給者たち一人ひとりの必要カロリー、アレルギー、体のサイズなどに合った物品を支給する必要があるのだ。

食料なら保存や輸送にコストがかかるし、アレルギーのある人には個別に配慮して同等のカロリーや栄養を摂れる食料を手配しなくてはならない。衣類だっていちいちサイズを管理しなくてはならないし、肌が弱い人には素材の管理も必要だ。

どれだけ事務作業が増えるだろうか?
どれだけ業者への支払いが発生するだろうか?
どれだけ人件費をかけなくてはならないだろうか?

これだけでも生活保護の現物支給は不可能であると分かるだろう。

生活保護の現物支給は現金支給と比べて効率が悪く格段にコストがかかり、使われる税金の総額は遥かに多くなるのだ。

また、現金支給なら受給者の事情に合わせた柔軟な利用が可能になる。

若い人は再就職に向けた教材に使ってもいいし、シングルマザーは子育て用品に使ってもいい。高齢者で料理ができない体なら、自炊ではなく割引された弁当を買うという選択ができる。

もしも現物支給にすると、受給者一人ひとり異なる「必要なもの」をいちいち役所が審査し、許可してから用意しなくてはならない。この際に「地域や担当者ごとに判断が異なる」という混乱が起きるのは火を見るより明らかだ。

現金支給なら、このような煩雑な手続きやそれに伴う金銭的コストをかけることなく受給者一人ひとりが必要なものを買うことができ、結果として就労意欲が高い人が生活保護を抜けることにもつながるのだ。

懲罰性を強めると無敵の人が増えるだけ

ここまで読んで、「生活保護を受ける人間にそんな配慮はいらない!これまで通りの税金で可能な範囲で現物支給しろ!」という意見もあるだろうが、悪いこと言わないからやめた方がいいぞ?と伝えたい。

社会から粗雑に扱われた人間がどのようなアクションを起こすのか、僕たちはもう何度も見ているはずだ。あと何回手製の銃が使われたら学習するのだろう?

生活保護を現物支給にして最低限の食料と衣類などを提供するだけなら、確かに生活保護に使う税金を抑えられるかもしれない。しかし、そうやって抑えた税金なんかより遥かに大きな代償を社会は払うかもしれないということは理解しておいた方がいい。

「社会保障は弱者を守っている」という勘違いはそろそろやめるべきだ。

現物支給は受給者以外にも悪影響

生活保護を現物支給にすれば膨大な行政コストが発生し、生活保護に使われる税金の総額が多くなるのは既に説明した通りだ。それはもちろん、働いて納税している人たちの負担が増えることになる。

さらに言えば、各種業者の選定において賄賂のやりとりが発生したり、多重下請け構造で中抜きが蔓延ったりすることも想像に難くない。それは社会の健全な競争を阻害し、質の悪い商品を提供するブラック企業が蔓延ることになり、労働者の賃金が低下していくことに繋がる。

生活保護を現物支給にすることで、

・役所の事務作業が増え
・使われる税金も増え
・不正やブラック企業が蔓延り
・労働者の賃金が低下し
・受給者の社会復帰も難しくなる

これで一体誰が幸せになるのだろうか?

「生活保護は現物支給にするべき!」と主張する人たちが本当に望んでいるのはこんな未来ではないはずだ。

「私はこんなに苦労して働いてるのにムカつく!」という感情論で考えず、もう少し冷静に考えた方がいいのではないだろうか?

「政府は絶対に現物支給に踏み切らない」と断言できる理由

ここまでの内容は生活保護現物支給論への一般的な反論であるため、生活保護について多少調べてことがある人にとっては特に目新しい内容はなかっただろう。

そこで、ネットではあまり語られていないものの、政府が絶対に現物支給に踏み切らないと断言できる最大の理由を最後に紹介したい。

私はXにて「まともな大人がまともに思考すると”生活保護は現金支給の方が優れている”という結論に必ず達する」と繰り返し述べているが、それはまさにこの理由を根拠にしているのである。

なぜ政府は絶対に現物支給に踏み切らないと断言できるのか?

なぜネットでは頻繁に目にする現物支給論がまともな大人の世界ではほとんど話題にならないのか?

それは…

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