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「フクシマ聖火ランナーの取材報告会」から見えたマスメディアのプロパガンダ報道

 2021年3月25日、東京五輪の延期にともない昨年は中止となった聖火リレーが福島県からスタートしました。その様子をフリージャーナリスト・烏賀陽弘道さんは現地で撮影した写真やニュース映像をおりまぜながら「フクシマ聖火ランナーの取材報告会」でひとつひとつ丁寧に解説していました。

 この記事は、2021年5月1日に行ったその報告会の解説をまとめたものです。

 ひとりでも多くの方に「取材報告会」に興味をもっていただきたく、このレポート記事は全文公開となっています。有料部分には当日の解説動画のURLを公開しています。レポートをご覧になり、その内容に興味をもっていただけたらnoteの購入をお願いいたします。動画視聴費はオンライン講座・烏賀陽ゼミの参加費と同じ「5,000円」です。いただいた動画視聴費は必ず烏賀陽さんへお渡しします。

 この「取材報告会」をきっかけに、烏賀陽さんが毎月丁寧に解説しているオンライン講座の楽しさを一緒に体験してみませんか?


【子供をプロパガンダに巻き込む特別授業とは】

 日本政府と日本オリンピック委員会(JOC)は、東日本大震災と福島第一原発事故からの「日本の復興」を世界に印象づけるため、聖火リレーのスタート地点を福島県に指定しました。しかし、聖火リレーが全国を走り、大成功のうちに競技が終了したとしても、メルトダウンした3つの原子炉内部は1ミリも変化することはなく、ばらまかれた放射性物質は一粒も減ることがありません。福島第一原発事故の発生初日から10年間継続して現地取材を行うフリージャーナリスト・烏賀陽弘道さんはその事実を著書やnoteで読者に伝え続けています。

原発に関する烏賀陽弘道さんの著書(Amazonより)

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◇フクシマからの報告(noteより)


 2021年5月1日に行った「フクシマ聖火ランナーの取材報告会」には日本全国、そしてドイツからも参加者が集まりました。その中には福島県出身の参加者がいました。その方は福島県会津若松市の小学校で行われた「原子力発電を全肯定する特別授業」の実体験をnoteに記しています。


 烏賀陽さんは野辺さんに、この実体験について質問をしていました。その会話から福島県の学校教育の一環にプロパガンダが組み込まれていることがわかります。少し長いですが、そのときのおふたりの会話をお伝えします。

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烏賀陽 この中で福島県出身の方いらっしゃいます?ちょっと聞きたいんですけど中学とか高校で原発の安全を子供に教える授業ってありました?
野辺  ありました。
烏賀陽 それは中学で?
野辺  小学生の頃です。
烏賀陽 どんな授業なんですか、それは?
野辺  ちょっとブログ(note)にも書かせてもらったんですけど。放課後ひとつの教室に集められて2人ぐらい先生が入ってきたんですよ。5分ぐらいで終わっちゃったんですけど。原発の仕組みはよくわからないですけど、とにかく安全なんですよって発言したんですよ(笑)。
烏賀陽 仕組みがよくわからない?
野辺  そう。それを30人ずつそう言ってまわったんじゃないかなと思います。
烏賀陽 小学校何年生のとき?
野辺  たぶん5年生ぐらいのときですね。
烏賀陽 その2人の先生っていうのは東電の先生とか来るんですか?
野辺  ふつうに学校で(原発とは)関係ない授業を教えている算数とかの先生です。
烏賀陽 要するにその先生もよくわかってないわけね。わかってないけど安全ですというの?
野辺  そうです(笑)
烏賀陽 5分で終わっちゃうんだ。
野辺  そうなんです。また次の数十人を集めて同じことを言ったんじゃないかなと思います。
烏賀陽 それは福島県の小学校ではそういう授業が行われていると。ちなみに出身の小学校は原発の近くなんですか?
野辺  いや、会津若松なんでわりと遠いです。
烏賀陽 じゃあ全然反対側ですよね。ということは福島県全域でたぶんそういうことが行われているんだね。
野辺  そうですね。ほかのところは聞いたことないんですけど。
烏賀陽 ちなみに小学校時代というのは福島第一原発事故前ですよね、たぶん。
野辺  はい。そうです。
烏賀陽 わかりました。ということは子供の洗脳というといかんのですけど。子供の原発安全教育というのは教育委員会レベルでちゃんとやれっていうことになっているんでしょうね。きっとね。なかなかいやらしいですね。
野辺  そうですね。
烏賀陽 そういうことを教えられた子供は原発は安全だというふうに思うもんなんですか?
野辺  クラスメイトからは聞いたことはないですけど、私の親ですね。事故前まではずっと安全だと思っていたというふうに言ってましたね。
烏賀陽 今はさすがに考え方は変わったんですか?
野辺  そうですね。なんでこうなっちゃったんだろうっていうふうには言ってましたけどね。
烏賀陽 要するにだまされた感というか、裏切られた感があるんですね。だけどオリンピックにしても原発の安全性についても、日本政府は子供をプロパガンダに巻き込むってことをよくやりますよね。

【美談でまとめる聖火ランナーの報道記事】

 この取材報告会では、東京五輪の聖火ランナーが走った双葉町、大熊町、浪江町の様子を写真とニュース映像をおりまぜながら烏賀陽さんが解説しました。

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【福島県】聖火リレーハイライト映像 #みんなの聖火リレー

 12才の中学生・聖火ランナーの嶋田晃幸さんは、聖火リレー終了後「福島が復興したことを伝えたい」と発言しています。私はこの言葉に違和感を感じました。なぜなら震災発生時2才だった子供が、当時の記憶をたどりながらこんなことを本当に思うのだろうかと感じたからです。これは周囲の大人が「復興」をアピールするために嶋田さんの感想を利用したのではないかと私は思ってしまいます。

 そのように感じたことから、聖火ランナーの嶋田さんを他のマスメディアがどのように報道しているのかインターネットで調べてみました。すると妹の嶋田果奈さんが富岡駅前で手作りのうちわを持って応援していた、という記事を見つけました。

 その内容を確認していると、撮影者の名前に見覚えがあることに気付きました。この記事の撮影者の「川崎桂吾」記者は双葉町で行われた聖火リレーを取材している毎日新聞記者のひとりです。

 2011年3月11日に発生した原発事故により、双葉町には高濃度の放射性物質が飛び散り、甚大な汚染被害を受けました。そのため放射能汚染がひどく、現在もこの町には住民がひとりも戻っていません。

 毎日新聞の報道は双葉町に住民が帰還していないことを伝えています。しかし記事の主旨は郷土芸能の和太鼓演奏です。さらにこの報道写真には新築の駅舎が写っていますが、双葉駅から少し離れるだけでその場所には10年前の震災発生時から崩れたままの建物が残っています。その写真や動画がインターネットに公開されています。

↓ 毎日新聞の報道と同じ聖火ランナー。その背景には崩れたままの民家が写っている福島民報より引用

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↓ 双葉町・聖火ランナー出発前の式典。その背景には10年前に崩れたままの黒い屋根瓦が写っている(福島民報・動画配信より引用)

 聖火ランナーは走りながらこの光景を目にしていることを考えると、私は毎日新聞の報道の「和太鼓の音色で安心した」という記事は、ここにある現実のほんの一部分しか伝えていないのではないかと思います。そして聖火ランナーの取材に記者が3人も関わっているのに、なぜこの町の民家や商業施設の現状を伝えないのか、不思議で仕方がありません。この記事を報道した3人の記者はそれぞれ記者歴10年以上の中堅社員ばかりです。そのうちの1人はロンドン五輪の特派員、さらにもう1人はニューデリー特派員という海外特派員の経歴をもつ記者です。

 この3人の記者は、聖火リレーに参加することを悩み苦しんだ聖火ランナー・桜庭梨那さんの心を癒したのは地元の和太鼓演奏だったことを記事にしています。しかし住民が誰も戻ることができずに双葉町がゴーストタウンになっている現実がそこにあるなら、その記事はあまりに現実離れしているのではないでしょうか。もし郷土芸能の和太鼓の演奏について伝えるならば、震災から10年経過した郷土の双葉町が今はどうなっているのか。その現状も一緒に伝えることが本来の報道の役割なのではないでしょうか。


↓  写真5点は2021年3月 筆者本人が撮影

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↓  商品が散乱したままの地元のスーパー

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↓ 住居が潰れ屋根だけが残る民家

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↓  商店入り口の窓ガラスは割れ落ち、建物内部はあらゆるモノが散乱していた

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↓ 冒頭の写真 右奥に崩れたままの屋根瓦の建物(JA全農)が見える

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【善意の聖火ランナーの感想に込められている本当の意図とは】

 東京五輪の延期にともない昨年中止された聖火リレー。2021年は当初予定していたコースを変更して聖火リレーを実施した自治体があります。そのひとつが浪江町です。この町には、東北電力が原子力発電所の予定地として買収し「浪江・小高原子力発電所」という名前で2008年に運転が始まる予定だった場所があります。しかし住民の反対で工事は遅れ、2011年に発生した福島第一原発事故により東北電力は建設計画の中止を表明しました。

  原子力発電所の計画予定地だった場所には、現在新たな工業団地として「福島ロボットテストフィールド」と「福島水素エネルギー研究フィールド」が建ち並んでいます。そのうちのひとつ「水素工場」の水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の開所式で(2020年3月7日)当時の安倍晋三総理は以下の演説を行っています。少し長いですが、そのときの言葉を引用します。これは「復興を後押し」するのではなく「福島の被災・復興とオリンピックに便乗して国策を宣伝する」という意味なのではないでしょうか。

 再生可能エネルギーから水素を生み出す、世界最大の施設がいよいよ稼働します。ここで製造されるCO2を全く排出しないクリーンな水素は、年間200トン。現在国内で走っている、全ての燃料電池自動車が一年間に使う水素の半分以上を、ここだけで賄うことが可能となります。原発事故で大きな被害を受けた福島から、未来の水素社会に向けた新しいページが、今、正に開かれようとしています。福島新エネ社会構想が大きく動き出します。
 今月26日には、ここ福島から、2020年聖火リレーがスタートします。その火を灯すのは、この場所で生まれた水素です。さらに、オリンピック・パラリンピックの大会期間中、街の中でも、自動車やバスが水素で走り、選手村では、水素を活用した電気が利用されます。
 2020年、更にはその先の未来に向かって、水素社会を一気に実現していく。福島水素エネルギー研究フィールドは、その世界最大のイノベーションの拠点となるはずです。

(首相官邸ホームページより引用)

 この翌年に行われた聖火リレーの走者の感想に、安倍晋三の発言をまるでアピールするかのようなコメントがありました。

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復興へ 被災地・福島で聖火リレー初日・TBS NEWSより引用

 国策の水素エネルギーを称賛するようなこの感想と、1年前の安倍晋三の発言。その両者の言葉を並べてみると、この聖火ランナーは当時の安倍総理の発言をもとに前もって用意されていたコメントをみずからの感想のように言ったのではないか。私はそう考えてしまいます。それはつまり、善意で走った聖火ランナーに日本政府が「日本の復興」と「新エネルギーの国策」をさりげなく言わせて、世界に発信しようとしているのではないでしょうか。


【筆者から読者へお願いしたいこと】

 最後までレポートをご覧いただきありがとうございます。私は今から2年前に初めてひとりで原発事故の被災地を訪れました。そこには崩れたままの民家や廃墟と化した商業施設があらゆるところに残っています。いざその現状を目の前にすると、日常からはあまりにもかけ離れた現実に直面するため精神的にすごく消耗します。そのため現場で感じたことをどのような言葉で表現したらいいのだろう…と戸惑うばかりで結局何も書けないことがよくあります。

 しかしフリージャーナリストの烏賀陽弘道さんは、ひとりで現地を訪れ、現場の状況や被災者の思いを記事にして読者に報告することを原発事故発生当初から続けています。それは今も現地取材を続けている報道記者が少ないことを考えると、本当に偉大なことだと思います。私は烏賀陽さんが伝える記事からそのように感じているため、自分なりのかたちで何か応援できないかなと考えていました。その結果、完成したものが今回のレポート記事です。

 これより下には2021年5月1日に行った「フクシマ聖火ランナーの取材報告会」の限定動画のリンクを公開しています。もし今回のレポート記事に興味をもっていただけたら記事の購入をお願いいたします。いただいた動画視聴費は必ず烏賀陽さんへお渡しします。

 10年間フクシマの現地取材を続けている烏賀陽さんの活動がこれからも続いていくように。そしてこの「取材報告会」がひとりでも多くの方に届くことを私は願っています。


◇注 本稿は烏賀陽弘道さんが執筆した「国の狙いは福島を利用した「新エネルギー」の宣伝だ!」(集英社新書プラス)に依拠した分部が多数あります。2020年に予定していた大熊町と浪江町の聖火リレーのコースを自転車で走り被災地の現状を伝えています。こちらもぜひご覧ください。


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