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Penthouse新曲「雨宿り」 メロディは長7度で深化する【作曲者による完全解説】

 皆さんお久しぶりです。Penthouseの浪岡です。
 おかげさまで近頃はラジオ、テレビ、雑誌等でインタビューを受けることも増えてきました。そういった場で時折質問を受けるのが「なんでそんなにいい曲ばっかり書けるんですか?」というやつ。もちろん社交辞令もあるでしょうけども、自分自身としても「よく毎回いい曲書いてるな〜」と思ってはいるので、質問には毎度鼻高々に答えております。

 こういった質問はPenthouseのリスナーの方からも時折寄せられます。折角ですし、とあるライブの出番前で時間もあるので、どうやって「雨宿り」という曲を書いたのか、どういう仕組みになっているのか、等々、自分用の備忘録的な側面も含めつらつらと書いていきたいと思います。

多少マニアックな内容もあるかもしれませんが、音楽理論に詳しくない方でも、より深く楽曲を楽しめるきっかけになるよう心がけて語っていきますので、よければお付き合いのほどよろしくお願いします。



作曲のきっかけと大まかな流れ

 私の作曲ルーティンとして、「20〜30分程度ギターで適当にコードを弾きながら鼻歌を歌っていいメロディが出るのを待つ」という作業があります。その過程で「雨宿り」のAメロを思いついたのが最初でした。めちゃくちゃいいメロディでキャッチーかつ雰囲気もあり、どうにかして曲にしようと思った覚えがあります。

 私は普段から先述のルーティンで曲のアイディアを溜め込んでいたので、その中でも特に気に入っていたサビ案をこのAメロと組み合わせることにしました。そのサビ案は4拍子だったので、それを3拍子に書き直して今の形になりました。二つのアイディアを繋げるにあたり、音域的にサビは短3度で転調させるというのもそこで決まりました。あとはAメロで夏の雨のイメージがまずあったので、曲全体を通じて雨を感じさせるアレンジにしたいなどといったこともその時点でぼんやり考えていたと思います。

そんな形で書き始めた「雨宿り」。ここからは頭から各パートごとに作曲のポイントを語って参ります。

1番Aメロ 曲中で最も繊細で重要なパート

いくらでも音楽をディグれる大サブスク時代、曲頭で「おっ」と思わせることが何より大事。飛ばされる前に心を掴むべく、Penthouseの曲は前奏なしの歌入りが非常に多いことはいまや言うまでもありません。今回もそれに倣い歌入りです。とはいえ単純に歌入りにしているだけではなく、やはりこのAメロには心を掴めるだけのパワーがあると感じます。歌のレコーディングも死ぬほど頑張りました。

メロディやバッキングは断片的で休符が多く、かつコードはおしゃれ目で、幻想的な始まりになっています。程なくしてギターのブリッジミュートした歯切れのいいフレーズが聞こえてきたかと思えば、ピアノの早いフレーズは夕立の降り始めを想像させたり、ドラムも時折ハッとさせるようなフィルを入れて、かなり劇チックな仕上がりかなと思います。夕立の蒸し暑さとか雨が降り始める様子をうまく表現できたのでめちゃくちゃお気に入りのパートです。

1番Aメロ コード進行


キーはin G#。コード進行は下記。
ⅣM7(9) | Ⅳm6(9) on Ⅶ♭ | Ⅲm7 | | Ⅱm7 | Ⅶ♭7(13) | Ⅴ on Ⅵ | Ⅵ
ⅣM7(9) | Ⅳm6(9) on Ⅶ♭ | Ⅲm7 | Ⅵ7(♭13) | Ⅱm7 | Ⅶ♭7(13) | Ⅴ on Ⅵ | Ⅵ

(ディグリーネームで書いてます。よっぽどの天才じゃない限り作曲するならこれで読めた方が体系的な理解のために良いと思います。いつかその辺りの解説記事or動画も出したい。)
 ※ディグリーネームとは、キーがCの時にCをⅠ、DをⅡ、EをⅢといった具合に番号を振って表現したコードの表記です。今回はキーがG#なので、ⅣはD♭になります。例えばⅣM7(9)は「D♭メジャー7thアド9th」です。

 コード進行自体はそんなに変わったことはしていないです。Ⅳ Ⅳm Ⅲm Ⅵは手っ取り早くおしゃれな感じが出ることでお馴染みの進行ですが、前半はそれにちょいちょい音足したりしてるだけの進行です。後半もⅡm Ⅲ Ⅵmの手っ取り早くおしゃれな感じが出ることでお馴染みの進行②をもとに、Ⅲを裏コード(Ⅶ♭7)に置き換えてます。Ⅲ7系のままだと少しクサすぎてしまうところを、こっちに置き換えると少し冷たい感じになってGoodです

1番Aメロのメロディ

頭の「クチナ」の345(In Cならミファソ)のメロディはこのAメロに6回登場しています。私は良いメロディの必要条件は覚えやすいことだと思っていて、そして覚えるためには反復が必要になります。つまり、繰り返しはいいメロディを作る上で重要なポイントになるわけです(逆に繰り返しすぎても予想できすぎてしまって面白みが無いわけですが、、)。このAメロではこの345を主軸にして間で遊ぶような構成です。遊ぶにもある程度ルールはあって、冒頭「クチナシの」の「チナ」と「シの」は音程こそ違いますが符割は一緒だったりします。

また、「夕立に濡れた頬」の「に」は、メジャースケールから外れた音を当ててます(In Cの時黒鍵にあたる音)。これはⅢやⅣm系のコードトーンになっていて、日本人はみんな好きです。個人的にはかなり味が濃い音なので、使いすぎに気をつけています。

そして1Aといえば、実は前後半で大きくメロディが違う箇所があります。「夕立に濡れた頬は」と「ぬくもりに跳ねた恋のしぶきに」はコード進行は同じですが大きくメロディを変えています。全体として統一感のあるメロディに一箇所変化を持たせることでうまく裏切れているんじゃないかと思ってます。実はメロディ案を考えているときにこの2通りのメロディを思いついてどちらも捨てがたかったので前後半で使い分けたという経緯もあります。

Aメロのメロディは2回しともG(in G#における長7度)で終わっています。コードはⅤ on Ⅵ 。この表現は曲中でよく出てきています。冷たく、オシャレで、少し裏切られた感じのするこの音が、この曲を特徴付けていると思います。歌詞の煮え切らなさともリンクするところだと思います。

1番Bメロで雰囲気を変える

1番Bメロのコード
Ⅱm7 | Ⅱm7 on Ⅴ | Ⅲm7 | Ⅵ7(♭13) | Ⅱm7 | Ⅲm7 | Ⅳm7 | Ⅳm7 on Ⅶ♭

Aメロから少しトーンを変えて、ちょっとだけ明るい雰囲気になっているとおもいます。Ⅳm6(9)やⅦ♭7(13)などの濁ったコードが減って素直な響きになっているのが要因です。
メロディの入りも1345のかなり明るさを感じる並びをチョイスしています。Bメロのメロディもこの「ゆく」「まま」「身を」は符割を合わせているため覚えやすい感じがあるかと思います。

後半はサビの短三度転調に向けて、コードを上昇させています。このⅣm7が転調の鍵になっていて、これがinBの時のⅡm7に見立てられているわけです(続くⅣm7 on Ⅶ♭はin BではⅡm on Ⅴ)。メロディは「(あ)めの仕業と」で165 165と繰り返し、「言い聞かせて」ではそのままの流れでコードトーンを拾いながら降下していきます。ここでもやはり符割を合わせて繰り返しています。

1番サビ シンプルで覚えやすく、時に予想を裏切るメロディ

ⅣM7 | | Ⅲm7 | Ⅵm7 | Ⅱm7 | Ⅱm7 on Ⅴ | ⅠM7 | Ⅰ7
ⅣM7 | | Ⅲm7 | Ⅵ7(13♭) | Ⅱm7 | Ⅱm7 on Ⅴ | Ⅴ on Ⅵ | Ⅵ

ここからIn Bに転調しています。

コード進行自体はめちゃくちゃシンプル。Ⅳからツーファイブを挟みつつ降下していくだけです。ポイントはAメロでも登場したⅤ on Ⅵ | Ⅵの部分。メロディもⅥmにおける9th(=Bメジャースケールの7度の音)を再度登場させ、Aメロの伏線を回収、曲全体に統一感を持たせています。

メロディは「あなたを」の1715のメロディを主軸にやはり繰り返し。かりそめの恋と知りながらの部分は崩しながらも「りそ」「恋」のところは冒頭の「あな」と同じ符割で、かつ3度下でハモるメロディにしているので、統一感が損なわれないようにできたかなと思います。

曲作り全般に言えることですが、やはりサビ頭でここまでの最高音を持ってくるアレンジは気持ちがいいですね。今回もその原則に従っています。さらにいえば、個人的にはサビの中盤もしくは終盤でさらに最高音を更新するような流れを作ると、リスナーの期待を超えた感動を生みやすいんじゃないかなと思っています。雨宿りでは「聞きたくないの」のところがそれにあたります。

また、サビのメロディ作りの隠れた重要ポイントとして、「一箇所だけ違和感のあるフレーズを入れる」ことを意識しています。キャッチーで覚えやすいメロディだけだと馴染みが良すぎて流れてしまいがちですが、一つ違和感があるとそこで聞き止まる感じがあると思います。例えば恋標では「胸にしまったら深呼吸する」だし、恋に落ちたらでは「いつか君と」で符割を崩したり。雨宿りではお察しの通り「雨宿りが終わるまで」がそれにあたります。さらにまほさんと途中で交代して歌い分けることでその効果を強めています。

間奏 

 かてぃんのセンスがふんだんに感じられる。最初に1番までのデモを作った際、かてぃんがピアノを入れてくれたときについてきたアドリブと思われる後奏が良すぎてそのまま採用しました。

2番Aメロに使うには勿体ないほどいいメロディ

 コード進行は最後がⅥM7になる以外は恐らく1Aと同じです。
 Penthouseお馴染みの2Aで別のメロディを歌うシリーズ。かてぃんフィーチャーの間奏がⅥM7(G#M7)で終わるので、勘のいい方は「あ、転調するかな」と思うかもしれませんが、メロディの音域の都合でin Bのままにしました。「りてた傘を」と「返すからと」は実音こそ異なりますが、音の上下の並びや符割を合わせているので、とてもキャッチーに聞こえると思います。ここでキャッチーにいった分、「改札越し待ち合わせて」のメロディはジャジーで遊び心のある感じでも成り立っているかと思います。後半はまほさんに歌ってもらう想定でメロディを高めに変えて飽きが来ないように工夫しています。終盤「ても」、「時は」も繰り返しですね。休符を入れて印象づけながら、最後にⅥM7に擬終止し次から転調します。

2番Bメロ まさかのここで転調


 ここからin G#に戻ってます。やってることは1Bと同じですが、入りのメロディが1345と、G#のコードトーン1,3,5を拾っているのでリスナーが転調について来やすいという効果もあるかもしれません。

2番サビ


 これまた1サビとやってることは同じですが、まほさんとの歌い回し分けの順番を逆にして少し変化をつけています。

Dメロ リクエストから生まれた最大の盛り上がり


 タイアップの打ち合わせで、「ツインボーカル2人の絡みが欲しい」という依頼があり考案したパート。まほさんをメインに据えてパワーをフルで出しながら、浪岡もメインっぽい調子でハモれる塩梅を目指ました。中盤の盛り上がりを一段階アップさせる大サビとも言えるような箇所ですね。コード進行はAメロとほぼ一緒だったと思います。
 まほさんのギリギリいける音域を攻めつつ、自分も張れる音域でハモると言うことでハモリは5度を基調にしました。途中で浪岡は符割からも外れて別のメロディを歌うことで盛り上がってる感じを演出しています。ドラムパターンもこれまでと変わってるのもポイント。

ギターソロ ワルツにおけるギターソロの難しさ


 ワルツだし普通にピアノソロになるかなと思っていましたが、浪岡がデモで入れたフレーズのウケがよく、そのまま採用されました。実際こういう曲でいいギターソロを考えるのは難しかったですが、これまで曲中で印象的に使ってきたメジャースケール7度の音をここでも上手く拾いながらジャジーかつキャッチーに仕上げました。途中で2番Bメロのメロディが入っていたりと、統一感を損なわないようにしています。バンドで合わせた時は、このパートのテンション感を共有するのに苦労した記憶があります。Dメロで上がり切ったテンションを落としきらず、かつ次に来る3Bに向けてクールダウンできる、100段階でいうと63くらいを行く演奏が上手く録れてよかったです。
 最後に2Aと同じくⅥM7で解決し転調します。

3B 一工夫加えた半音転調

Penthouseには珍しく、ラスサビ前にBメロがありかつ2倍の長さ。Bメロパートはメロディも上手くできていたし、2回しする場合のアイディアも好きだったのでここで供養しました。後半でまほさんに受け渡して、「忘れるから」で盛り上がりのきっかけを作りつつ、上昇パートに入ります。

Ⅱm7 Ⅲm7 Ⅳm7 Ⅳm7onⅦ♭

ここまではこれまでのBメロと同じですが、ここで半音上に転調します。in CのⅡm(Dm)に対してin BのⅦ♭(A)が5度の関係にあるのでわりかしスムーズに聴こえるかと思います。そこからin Cで同じ進行を繰り返しラスサビに行きます。ここのハモリのメロディもオシャレなので要注目です。

ラスサビ

 曲中最大の盛り上がり。ブレイクも入れて、メロディも少しずつ変えています。「この頬を濡らす」はこの曲の中で一番かっこいいパートですね。崩したメロディにバンドも合わせるようなアレンジにしました。サビ後半はJPOPお馴染みのⅣ♯7-5からの降下進行。最後に先述した特徴的なメロディをモチーフにしながら繰り返しています。最後に向かっていく歌い分けは、入れ替わりが頻繁になっていって最後にハモるのが一番イケてるなと思っています。

3番Aメロ 天才的展開


 最後に最初に印象的だったAメロをボーカルを変えて歌うのがこの曲の美味しさです。伴奏もピアノのみで、前半のようなおかずは控え、まるで雨が上がったかのような雰囲気のするパート。これまでのAメロでは、最後は必ずⅥm7(9) oimit3の煮え切らない感じでしたが、最後の最後でCに着地し、なんとなく希望の見えるエンドになっています。この展開は本当に天才的だな〜と思いながら作ったのを覚えています。

総括


 いかがでしたでしょうか。自分が曲作りを始めた時、アーティストが実際にどういうことを考えて曲を作っているかが分かる記事みたいなものがなく困ったことがあったので、そういった方の一助になればと思い書いてみました。しかしまあ分かりづらさは否めませんね。。。
 曲について言えば、実はこの曲は私が仕事をやめて音楽一本に絞った後初めてアレンジした曲です。それまではバンドで集まって2〜3時間スタジオに篭ってアレンジを詰めていました。やはり自分で細部までこだわる時間が取れることは幸せですね。今後もアレンジに凝った曲を少しずつ出していけると思うので、楽しみにしていていただけると幸いです。ではまた。


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