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愛に恋に

●かなり昔に書いたお話しです。


京子は急いでいた。前日の飲み会で羽目を外し過ぎたことを今、後悔していた。二日酔いの頭を抱えながらなんとか走る。そして最寄りの南阿佐ヶ谷駅の階段を降りていた。その時だった。『ドン』男性とぶつかった。京子も転倒している。「ごめんなさい!」と京子が謝ると『パシャ』と男が写真を撮った、良くみると首からカメラを下げている。男は『証拠』と笑いながら言った。そしてそのまま去ってしまった。京子は飛んだ金曜日だと肩を落とした。まだ頭が痛い。駅の自販機で水を買った、冷たくて美味しい。歩き始めるとヒールが折れてることに気づいた。どこまどもツイていない。

虎ノ門の駅構内にある、靴の修理屋の客に京子はなっていた。ぼーっと修理の作業を見ていた。ふと、反対通路を見るとさっきぶつかった男が歩いていた。京子は大声で呼び止めた。男とふたりで修理屋の丸い椅子に座って話しをした。男はカメラマンで撮った写真を出版社に売り込みしてるとか。京子は「儲かるの?」といった表情だ。靴の修理が終わると男が清算してしまった。京子は「あっ!」と言って、代わりにバックから名刺を男に渡した。『黒木京子さんね~』男は名刺を見ながら言った。「長谷川京子の京子!」京子が言うと『長谷川京子はそんなに酒臭くないよ、きっと』と男が言う。京子は「とにかくカメラが壊れてたら弁償するから!」と言って男と別れた。男は壊れてないよな?って表情でカメラの試し撮りをしてる。気がついたら靴の修理屋のオヤジを撮っていた。オヤジは迷惑そうだった。



それから数日後、男は出版社の人間と酒を交わしていた。3つ離れたテーブルでどっかで聞き覚えのある声がした。ガハハと大きな声で笑っている。京子だった。

男は見つからないように手で顔を隠しながら酒を飲んでいたが、その不自然さから逆に京子にバレてしまった。

京子は口を開けて「あーっ!」という顔をしている。男のツレの人間がトイレに立った時に京子が話しかけてきた。

「なんでいるのよ?」『こっちのセリフだよ』トイレに立った人間が帰ってくると、京子は自分の席に戻った。

先にカメラマンたちのグループがお店を後にした。京子のグループの誰かが『終電ヤバい!』と言って帰ってしまった。京子はまたベロンベロンだ。ひとりになった京子はなんとかタクシーを拾おうとしてるが、千鳥足だ。

その時『京子さん』『長谷川京子さん』と声がした。カメラマンだった。京子はカメラマンにもたれ掛かる。

カメラマンはタクシーを拾うと自弁の家のルートをドライバーに告げた。


カメラマンの家に着いた頃は深夜2時。カメラマンはパソコンで写真の加工をしている。30分置きにベランダでタバコを吸いにいく。ソファーで寝ていた京子が目を覚ました。「ここどこ?」『俺ん家だよ』「私になんかした??」『なんもしてません』カメラマンは笑って言った、『この写真どう?』カメラマンが見せたのは紫陽花の画像だった。「なんも感じない」京子は嘘をつけないのだ。

『じゃあこれは?』とカメラマンが見せたのは初めてぶつかった時の京子の写真だった。「ちょっとー!」京子は本当に嫌そうだ。カメラマンが言った『俺、あんたに感謝してるんだ』「感謝?」『そう、俺のカメラ心配してくれたでしょ?俺カメラ諦めかけてたから』京子は真剣に聞いてる。『俺、もう一度カメラ頑張ってみようかな。って思ったわけよ』「いいじゃん」京子は微笑みながら言った。「私をモデルにに使ってもいいよ!」「いいよ」「それよりいい加減名前なんて言うの?」

『大嶌徹』「歳は?」『35.。そっちは?』「…29歳」

『これからだろ』「ちょっとどうゆう意味よ!」

ふたりの夜は続いた。


翌日休みの京子は昼過ぎに徹の家を出た。なんとなく暗い気持ちになった。徹ともう会うことがないんだろうな、と思っていた。カメラも壊れてないし、そう偶然に外で会うこともきっとない。でも徹といるとなんだか気が休まる感じがして不思議に思えた。しかしこの日は春の光が目を指していた。この気だるい空気の中、京子は家に帰った。家に着くとソファーに避になり「大嶌徹か…」とひとり呟いた。すると携帯が鳴った。知らない番号からだ。出てみると徹だった。『あのさ、誕生日いつ?』「5月12日だけど…」それを言うと『ありがとう』と言って電話は切れた。


京子は真面目に働いていた。そして相変わらず飲み会ばかり開いていた。この日、金曜日でどこのお店も混んでいる。気がつけば徹と偶然会った居酒屋に来ていた。

はしゃいではいるけれど、ふと、徹が座っていた席に目が行く。違う人が座っているのに。


京子の誕生日の日は仲のよい友人たちと、韓国料理を食べていた。女子だけのパーティーはみんな声がデカイ。

その中でもいちばん京子がデカイ。宴は23時まで続いた。この日はほろ酔い気分だった。しばらく歩いてからタクシーを拾おうと思っていた。夜道を歩いていると携帯が鳴った。徹からだった。『誕生日おめでとう。このめでたい日に、ニュースがあるんだ』

「なに?」

『俺の写真が賞を獲ったよ!』

「すごいじゃん!どんな写真?」

『今画像送るよ』

届いた画像は京子が初めて徹の家に泊まった時の寝顔だった

「なによこれー!」

『モデルやってもいいって言ってたからさ!』


「もう最低な誕生日」と笑う京子であった。




        終わり

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