藤原伊織さん『テロリストのパラソル』再読了したときの感想【ナナンカエッセイ時代再掲】

(昔にやっていたエッセイブログ「ナナンカエッセイ」の記事を引っ張り出して再掲してます。文章はその当時のままです。)

「エンタメいいよー」
 そう恩師に勧められ、エンターテイメントを読むようになって、今こんな文章を書く奴になったわけだけれども、その中で外せない作品の一つに、藤原伊織さんの『テロリストのパラソル』がある。
 最初に読んだ時には、ホットドックがやけに美味そうで、ハードボイルドな世界にどっぷり浸かっていた。
 数年ぶりに再読すると、ホットドックのシーンばかり印象に残っていたため、他の部分をだいぶん忘れていたことに気が付いた。
 全体的に簡素な文体で書かれているのが、いかにもハードボイルドな世界を表わしていて、非常に良い。
 再読したときに印象に残ったのは、新聞やメディアの裏の話だった。
 知っている人もいるかと思うけれど、藤原伊織さんはもともと電通の部長である。良くも悪くも「ギョーカイ」のことを知り尽くしているのだろう。情報の開示の程度、テレビの取材の土足で入る感じ、週刊誌の部署のコネなど、ただ調べただけではあそこまで書けない。
 しかもそれが推理する上でのキーとなっている。伏線にもなっている。この辺の上手さに舌を巻く。
どうやら直木賞での選評では、最後の怒涛のラッシュが一部選考委員に不評だったらしいが、「ミステリーやねんからそうなるやろ」と、ミステリーを書けないにも関わらず言いたい。
 あと、中島らもさんの『今夜、すべてのバーで』との共通点というか、らもさんと伊織さんの共通点が作中に描写されていることに気が付いた。
 知っての通り、二人ともアル中である。愛される破滅型である。
 らもさんの『今夜、すべてのバーで』で、
「『教養』のない人間には酒を飲むことくらいしか残されていない。『教養』とは学歴のことではなく、『一人で時間をつぶせる技術』のことでもある」という一文がある。
 一方、『テロリストのパラソル』では、
「ウイスキーを飲みはじめた。私の趣味は豊かとはいいがたい。時間をすごす方法をこれしか知らない」とある。
 もし大学院生のときにここに気付いていれば、時間研究だけでなくアルコール中毒の研究もしていたかもしれない。というより、周りから「アル中ちゃいます?」と言われ続けていた側として、よくわかるのだ。時間の潰し方は非常に難しい。
 更に、文章力の高さにも納得がいった。割とひらがなを使うのだ。それが自然と・するりと流れ込んできて、カチカチにならない。
 まあ、いまさら伊織さんの文章力に対してどうこう言う必要はないけれど、再読すると気付くことはいっぱいある。
 その他にも色々あるが、ネタバレはしたくないので、ここらへんで筆をおく。


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