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私の旅路 part10

旅人のこころは、式神さまに見破られたことをきっかけに霧のかかった湖に沈んだ。自分の口から湧き上がる泡を眺めるように、下へと落ちていく感覚でいっぱいだ。

旅人は、言葉を失った。自分は、やはり違うのだと実感せざるを得ない。何を間違えた。どこの道を見逃した。と、辿ってきた記憶を逆さにしては悩み続けた。式神さまの言葉が正しいと決まったわけではないと、しがみつく思いで回想した。

お主がどんなに悩んで考えたところで運命は変わらぬ。それよか、ようやく運命に顔合わせができる準備が整ったのじゃ。それだけ、お主が大人になったという証なのではないか。まだ、生きぬ場所にしがみつき、お主を殺すか。お前が死にたいと願う先にあるのは「生き苦しい」と感じた世に、見放しただけじゃろ。

旅人の荒れた湖から、引き上げるかのように囁く式神さまの声。遠くとも旅人にまで届く、細く長い糸のような声。この声を掴めば、助かるのか。掴めば、今とは異なる世界を生きる。また、目を当てることができるのか。旅人のこころは、渦を巻いては離さない。

お主は頑張って「人」になろうと生きてきた。             お主は頑張って「普通」という枠にはまろうと自分を大きくしてきた。     お主は頑張って「車」のようなスピードで城を建てようとしてきた。       お主は頑張って「〇〇」をかがけて、周りと合わせて遅れないように生きてきた。だが、どれにもなれなかった。だから生き苦しかったのだ。

旅人は、混乱した頭でそれの何が悪いのだ。と叫びたい気持ちでいっぱいだった。自分がしてきたこと。自分が出来ないのは、まだまだだから。

ふとっ、気が付いた。まだとはなんだ。完成の先を誰が教えてくれるのだろう。旅人の周りにも教えてくれる人獣はいた。それではなぜ完成しないのだろう。誰が悪いわけではないのだろうが、完成の答えを知っている人獣たちはなんで口を開かんのだろうか。


お主にとって正解が大事らしいが、正解は名を呼ばれて振り返った瞬間に分かるものだ。今ではない。そして、正解に問わられるのではなく、何が特に自分が心地よいのかを養うのかが大事なのじゃ。お前は、あまりにもお主自信を見放ちすぎて、身体が悲鳴を挙げても気づかぬ愚か者だからいかんのだ。だから、一番大事にしなきゃいけない直観が消えてしまったのだ。

式神さまは、呆れたように旅人を湖から引き上げた。旅人は、現実に目を向けたくない一心で頑なに目をつぶって祈った。自分が自分を苦しめていた元凶だったことを。

ならば、何が必要なのか。何が自分を救うのか。何が....

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