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【小説】捨てられ公爵夫人は、平穏な生活をお望みのようです(著:カレヤタミエ)」 〜 心惹かれるヒューマンドラマ

僕はカクヨムやなろうで商業化された作品以外のものをよく探すのですが、週間ランキングなどで好みっぽい作品をタイトルから想像して選んでいた時にたまたま出会ったのが本作「捨てられ公爵夫人は、平穏な生活をお望みのようです」。

タイトルから想像したのは、追放後のスローライフがメインのお気楽な異世界転生もの。スローライフが丁寧に描かれている作品は好きなので、テンプレな感じの作品じゃなきゃいいな、くらいの軽い気持ちで読み始めたのがそもそもの過ちでした。まず、ストーリーは以下のとおり。

「君に伝えておくことがある。私は君を妻として愛するつもりはない」
結婚式が終わった早々、夫になったばかりのアレクシスにそう告げられたメルフィーナ。

アレクシスから開拓中の貧しい土地をもぎ取り、公爵邸を後にしたメルフィーナの共はアレクシスのつけた監視役の護衛騎士、セドリックと無口な侍女のマリーのみだった。

結婚直前に前世の記憶を取り戻したメルフィーナは、ここが前世で雑学系乙女ゲームと揶揄された「ハートの国のマリア」の世界であり、自分がアレクシスルートの悪役、メルフィーナ・フォン・オルドランドであると気づいてしまう。

家族とは不仲、結婚相手には愛する気も子供を作る気もないと言われたメルフィーナは、何もかも馬鹿馬鹿しくなった。

実家も婚家も、もう知らない! あんな男のために悪役になって修道院送りになるのもまっぴらご免よ!

不遇に育ち不遇な結婚をしてしまったメルフィーナは、家族も夫も関係なく勝手に幸せになろうと決意するのだった。

なろう掲載サイトより引用

ゲームの中の世界に転生した主人公メルフィーナは、貧しい開拓地に赴き、そこで領地経営を始めます。前世の記憶を頼りに様々な施策を打つ彼女の生き様は、タイトルや作品紹介の印象よりもずっと丁寧に描かれていて、想像の十倍くらい骨太のストーリーでした。

話数を重ねる毎に、この作品への印象は想像したものから大きく変わっていくのですが、作品の本質をおおむね理解したのが22話のあたり。メルフィーナと護衛騎士セドリック、侍女マリー、この三人の関係性が確定した頃です。

『あぁ、これはヒューマンドラマなんだ』なと。

メルフィーナの行動の源泉は前世の記憶で、その記憶にあるチートな発想を現実のものとし、開拓地を発展させ、人々の生活を豊かにしていきます。

しかし最も印象に残るのは、その過程における人と人との対話。特に理屈と感情の天秤が傾く様には、強く心を惹かれました。

もちろん対話だけでなく、領地経営の進め方や料理に関する描き方も本作のポイントだと思うし、開拓地に赴くきっかけとなった夫アレクシスとの複雑な関係も見所で、今後どのようになるのか目が離せません。

そして、ゲームの中の世界ということで、本来あるべきストーリーへの強制力がどのように働くのか、という点にも注目。

読み始めた頃の印象は完全に払拭されましたが、これほど読み応えのある作品ならばお試しの軽い気持ちではなく、もっと深読みしながら読めばよかったと後悔していています。

以上のように、内容としてはライトノベルというより文芸よりのハイファンタジーなのでしょう。読み応え十分の本作の今後にとても期待しています。

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