小説の「雰囲気」を伝えることは大変難しい
ここのところnoteを書けていなかったので、これが2020年最初の投稿である。
今回書きたいのは、小説の雰囲気を伝えること。
これは技術論や抽象論ではなく、『読者に読んでもらう』ために必要なことだ。
小説の「雰囲気」とは?
小説の雰囲気というのは造語なので、最初に説明しておく。
ものすごく簡単に言ってしまえば、「ジャンル」のような物だ。
でも、『SF』『歴史物』『コメディ』のような分類ではなくもっともっと細かい分類だ。
『学園のような同年代のキャラがたくさんいる空間でイチャイチャするラブコメ』とか『設定がやたら細かく充実していて、設定資料集が別に売っているような、メカフェチが喜ぶSF作品』とか、このくらい細かいジャンルのことだ。
なので「雰囲気」とは「ものすごく細分化されたジャンル」だと思ってほしい。
「俺の各作品はノージャンル! どんな作品とも全く違う!」
と言い張る方も居るだろうし、その気持ちも分かるが、それでは読者はその作品を読めない。
それについて、次の章で書こう。
「雰囲気」が分からない作品は、読者が読み始めない
これが作者にとって、なによりも大事な点だ。
まず考えて頂きたいのだが、読者は馬鹿ではない。
読者は5分で笑えるものを読もうと思ってひたすら陰鬱なドキュメントを読んだりしないし、メカフェチ精神を満たしたくて純愛小説を読んだりしない。
読者はだいたい自分がどんな物が好きか無意識に把握している。
そして、自分の好きな物が書かれている作品を読むのだ。
その作品が自分が好きな物かそうでないかを判定するのが「雰囲気」だ。
読者の中には、好きな「雰囲気」(すごく細かいジャンル設定)のリストが蓄えられていて、そのリストに一致した雰囲気の作品だけを読みたいと思う。
そうでない作品は基本的に読みたくない。
ということで、作品は出来るだけ早く、その作品の「雰囲気」を読者に提示しないと行けない。
しかし、それができてない作品が山のようにあるのが現実だ。
そんな作品を読み始めた読者は混乱する。
そして、それを読み進めることはなく、だいたい最初で捨てる。
だって、時間は有限だ。
訳の分からない作品に手間をかけることなんてしたくない。
「雰囲気」がつかめない小説とは?
となると、作者にとって作品の「雰囲気」を読者に提示する方法が大事だ。
前提として、読者は初めて本を読むド素人ではなく、そこそこ本を読んできた人間だと仮定する。
実際、そういうものだ。
メジャーでもない作者の作品を読むような読者が、初心者な訳がない。
むしろ、熟練の読者しか我々またはあなたの作品を読むことはない。
その熟練の読者は、「雰囲気」を探りながら読み進める。
では、熟練の読者はどうやって「雰囲気」(細分化されたジャンル)を読み取るか。
まずは既存の知っているジャンルと比較する。
・巨大なロボットが戦っていれば、巨大ロボット物
・正義のヒーロー・ヒロインがグループを組んで戦っていれば、ヒーロー戦隊もの・魔法少女物
・転生していれば異世界転生物
異世界転生が初心者にも比較的書きやすいのは、ジャンルとしての知見がたまっているからだ。
執筆初心者はたいてい描写に不足がある。
全くのオリジナル作品であれば、その不足のせいで全く理解不能になってしまうだろう。
しかし、異世界転生はジャンルとしての知見が読者側にも共有されているので、「ギルド」「魔法」「モンスター」といった概念をうまく説明できなくても読者は理解できてしまう。
だいたいにおいて、こういうジャンル物は書きやすいし、読者の方も理解しやすい。
ところが、そのジャンルではかりきれない作品も出てくる。
すると、熟練の読者はジャンルではなく、「なにに焦点を当てた作品か」について探り出す。(無意識にやっているものなので、読者本人も気がついていないかもしれない)
例えばこんな感じだ。
・主人公の恋愛相手への思いが蕩々と書いてある。→ 「恋愛の心の動きを楽しむ」恋愛小説だろう
・(ジャンル判別できない独特の設定であるが)主人公がいかに勝つかを考えて戦いを繰り広げている → 「戦略で戦いに勝つことを楽しむ」バトルアクション小説だろう
・(ジャンル判別できない独特の設定であるが)主人公が勢いに任せて戦って、爽快に敵を倒す → 「難しいことは考えずに勝利感を味わって楽しむ」バトルアクション小説だろう
・訳が分からないが、変なことばかり起きる → 「おかしな出来事を笑って楽しむ」ギャグ・コメディ作品だろう
・蕩々とつらい出来事が起こるばかり → 「しみじみと人の身に起こるつらい出来事を味わう」文芸作品だろう
上記が一例だが、だいたい分かってもらえただろうか。
読者は無意識に「読者がなにを楽しむor味わうことを想定して作者は書いているのか?」と推理しているのだ。
作者が読者に味会わせようとしている物が、自分に会うのか、会わないのか、それを吟味している。
それが、物語の「雰囲気」を把握することだ。
ということはつまり、作者は読者に味わってほしい「おいしい味わい」「楽しい所」を最初に提示する必要がある。
それができていないのが、「雰囲気のつかめない作品」だ。
つまり、実は『「戦略で戦いに勝つことを楽しむ」バトルアクション小説』なのに、冒頭で主人公の日常生活を描いたとしよう。
まったく雰囲気が伝わっていない。
冒頭で力任せに戦っている場面を書いても駄目だ。
それでは、戦略で戦いに勝つ楽しさが見えてこない。
冒頭で「戦略で戦いに勝つ」というシーンを描くか、そういった展開になりそうな場面を描かないと行けない。
(例えば、戦力の差は絶望的だが、なんとかしても勝たなければならない場面を描き、そのとき、主人公が何か策を思いついたということを示す。そうすれば、「この後、戦略で勝つバトルが見れそうだ」と読者は期待する)
まとめ
ということで、作者は物語の雰囲気を冒頭で提示して、自分が狙っている読者をしっかりつかむ必要がある。
1,典型的なジャンル物であれば、そのジャンルであることが分かるシーンを冒頭に書く。
2、変則的な作品であれば、作者が読者に味会わせたい「味」または「楽しさ」を冒頭に描く。
(あるいは、その「味」「楽しさ」が現れるシーンが次に来るだろうと推測できるシーンを冒頭に置く。読者の推測能力はすごいので、それでも大丈夫だ)
作者によっては
「いやいや、俺の作品は一見何のジャンルか分からないところから、いきなりロボットが登場するから楽しいんだよ」
という人も居るかもしれない。
だが、その場合、ロボット好きの読者はその作品を読み始めない。
作者はつい読者に何も情報を与えずに「白紙の状態で読んでほしい」と願ってしまう。
なぜなら、知ってしまった後では楽しくないと考えるからだ。
だが、そんなことはない。
読者は「この作品は最初はなんのジャンルか分からないふりをしていて、そんで途中でいきなりロボットが出てくる作品なんだ」ということを事前情報で知りながらも、普通にその展開を楽しめるものなのだ。
なので、積極的にジャンルや読者に味会わせたい「楽しさ」「味」を説明してしまったほうがいい。
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