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TOC (制約条件の理論) の考え方を学ぶ

TOC (制約条件の理論) ってなに?

 TOC とは、お金を稼ぐという企業共通のゴールを達成するために、その達成を妨げる制約条件に注目し、改善を進めることで、企業業績に急速な改善をもたらそうとする経営哲学、あるいは経営理論のことです。

誰が、いつ提唱したの?

 イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラットが、1984年に出版した「ザ・ゴール」という書籍の中で理論を提唱したのが始まりです。

 同書はベストセラーとなり、続編である「ザ・ゴール2」や TOC の応用を説く「クリティカル・チェーン」などが出版され、TOC の理論は世界的に有名なものとなりました。

端的に言って、何が魅力の考え方なの?

 企業活動を発展、あるいは改善しようとするとしたら、まずは何から始めるべきでしょうか。コストカット?営業促進?マーケット・シェアの拡大?

 それらは、ある意味で正解でしょう。しかし企業活動においては、注目すべき大きな真理があります。それは、「ビジネス・プロセスによりもたらされるスループットは、プロセスの中に存在するボトルネック( 制約条件 ) の大きさに等しい」ということです。

 従って、「スループットを拡大( = 企業活動を発展、あるいは改善) したいのであれば、ボトルネックを改善しなければならない」という経営真理を発見し、そして理論として確立させたこと、これが TOC (制約条件の理論) の魅力です。

端的に言って、何に使えるの?

 TOC が初めて提唱された書籍「ザ・ゴール」では、ある機械工場がサンプルとして登場し、工場のような生産系ビジネスにおいて TOC が極めて有効であることを説明しています。

 また氏の他の書籍「クリティカル・チェーン」では、プロジェクト・マネジメントにおいても TOC を十分に取り入れることが可能であることを解説しています。

 従って、TOC は高い汎用性を持つビジネス・マネジメント理論であり、多くのビジネス場面、あるいはプロジェクトにおいて適用可能な考え方であると言えます。

制約条件( ボトルネック )って何?

 「アレックス。それがわかったら、今度は工場の中のリソースを二つに分けないといけない。ボトルネックと非ボトルネックだ」 私は、みんなにジョナの言うことをメモするよう小さな声で指示した。 「ボトルネックとは、その処理能力が、与えられている仕事量と同じか、それ以下のリソースのことだ。非ボトルネックは、逆に与えられている仕事量よりも処理能力が大きいリソースのことだ。わかるかね」
---- 「ザ・ゴール」

 さて、ここまで「制約条件」という言葉が度々登場していますが、では一体、制約条件とは何なのでしょうか。
 制約条件を理解するために、一つの例を考えてみましょう。

 あなたはとある工場の社長です。あなたの工場では大規模な工業資材を作成しています。資材を工作するためにあなたの工場では、原料を仕入れ、原料を加工し、組み立て販売するプロセスを行なっているとしましょう。

 さてここにおいて、この工場の生産力( スループット )は何によって規定されるでしょうか。仕入れの量?組み立て速度?あるいは販売力?

 いえ、この工場の生産力を規定するのはたった一つの事実です。それは、「もっとも能力の低い作業プロセス」です。

 考えてみてください。たとえ 100 の仕入れがあり、100 の販売力があったとしても、組み立て速度が 50 であれば、販売に到達できるのは 50 です。また仕入れ、加工、組み立てにおいて 200 の能力を持っていても、販売力が 20 であれば、販売できるのは 20 でしかありません。

 プロセスを経てスループットを生み出すシステムにおいてそのスループットの総量は、プロセス中の最も低い部署の能力によって規定されてしまいます。

 このようにプロセス中にあって、その全体のスループットを決定してしまうような最も低い能力プロセス、それを制約条件 (ボトルネック) と呼びます

どんな考え方なの?

 TOC では、自らのゴール (利益を最大化する、プロジェクトを成功させる、など )が明確にされていることを前提とした上で、以下のプロセスに乗っ取って全体最適化を進めることを提唱します。

1. 制約条件を見つける
2. 制約条件を徹底的に活用する
3. 他の全ての事象を制約条件に従属させる
4. 制約条件の能力を高める
5. 新たな制約条件を探す

( 1/5 )制約条件を見つける

 もし鎖の強度を高めたいのなら、まず何をしなければいけませんか。最初のステップは何だと思いますか」 ここまでの話を聴いていれば、たいていの人ならわかるはずだ。ジョニーは、最前列に腰かけている男性に、どうぞと身ぶりで答えを促した。「いちばん弱い輪を探す」 「そのとおりです」そう言うと、ジョニーはマーカーを手に取って説明を続けた。「第一のステップは『制約条件を見つける』です。
----「クリティカル・チェーン」

 TOC の概要を理解した貴方は、スループットを決定するのが制約条件であることは既に理解したはずです。とすれば私たちが先ずすべきなのは、プロセスにおける制約条件を発見することです。

 制約条件とは時として物理条件ですし、時として非物理的な条件です。機械の性能が悪い、あるいはメンバーの生産能力が低いなどが制約条件であればそれは物理条件と言えますし、会社の方針が生産を妨げている、あるいはプロジェクト全体の士気が低いのであればそれは非物理的条件と言えますよね。

 制約条件の性質は、制約条件を発見することとは直接の関係はありません。しかし、制約条件を改善するためには、制約条件の性質を知ることは重要です。物理的な条件であるならば、機械の追加、メンバーの交代などで済みますが、非物理的な条件ならばもっと別のアプローチを取る必要がありますからね。

 いずれであれ、改善を進める上ではまず制約条件を発見することが最初のステップになります。

( 2/5 )制約条件を徹底的に活用する

 「そのとおり。その考えから論理的に結論を出せば、どんな場合にも適用できる簡単なルールを導き出せる。つまり非ボトルネックの使用レベルは、それ自体の能力ではなく、他の制約条件によって決定される」
---- 「ザ・ゴール」

 あなたは工場のオーナーでしたよね。思い出してください。
 あなたは TOC の第 1 プロセスに従い、あなたの工場におけるボトルネックを発見しました。組み立て部署です。仕入れ、加工、販売の部署の作業能力を 100 とすると組み立て部署は 60 しか能力がないことが判明しました。

 組み立て部署をもっと観察してみましょう。彼らは確かに部署人員が少なく、物理的な制約性質を少なからず兼ね備えています。
 しかしもっとよく見てみると、彼らは常に忙しく働いている訳ではなさそうです。15 時には全員が一斉に休憩に入っていますし、組み立てるモノがなく作業を行えないアイドルタイムもそこそこの頻度で発生しています。

 繰り返しですが、あなたの工場のスループット(生産力)はこの組み立て部署によって規定されています。彼らが 60 の能力しか発揮できていない今、あなたの工場のスループットは 60 です。逆に言えば、彼らの能力を 65 にできれば、それだけであなたの工場のスループットは、65 になるのです。

 必要なことが見えましたね。あなたのすべきことは、組み立て部署の能力を引き上げることです

 人員を増やすのは直接的な解決方法でしょう。しかしその前にもできることがあります。

 例えば休憩時間です。会社のルールで全員が一斉に休憩を取ることになっているのでしょうけれども、その間、組み立て作業は完全にストップしています。それならば休憩を交代制にすれば、作業は効率的に進むことでしょう。

 また頻繁に発生するアイドルタイムは彼らの責任ではありません。彼らの前の工程、加工部署の責任です。加工部署にも色々事情があるとは思いますが、組み立て部署の手が空かないことを最優先にして優先順位を変更したらどうでしょう。組み立て部署の生産能力は間違いなく向上するはずです。

 このように、外部の協力により制約条件の能力を完全に引き出すように努力すること。それが、TOC における第 2 ステップです。

( 3/5 )他の全ての事象を制約条件に従属させる

 「そうです。それが第三のステップです」そう言いながら、ジョニーはボードにマーカーを走らせた。「ステップ3『他のすべてを制約条件に従属させる』。どうがんばっても、ボトルネックで一〇個以上加工できないのであれば、非ボトルネックでそれ以上やっても意味がありません。
---- 「クリティカル・チェーン」

 第 2 ステップの取り組みで、組み立て部署の生産能力は 70 に向上しました。おめでとうございます!

 さて、ここで他の部署の生産能力を思い出して見ましょう。仕入れ、加工、販売の部署はそれぞれ 100 の生産能力を持っています。彼らをどうしましょうか?

 結論から言えば、スループットはボトルネックの能力に等しいので、それ以外のプロセスで、非ボトルネックにおいて過剰な能力を持っていても役には立ちません。それどころかマイナスをも生み出すことがあります

 組み立てと比較して加工は 30 の余剰能力があります。この 30 の力で加工作業をどんどん進めていったらどうでしょうか。組み立て待ちの材料が山と積まれることになります。この山が小さいうちは問題ありません。しかし倉庫を 1 つも 2 つも圧迫するようになったらどうでしょう。保管費用がかかります。仕入れにしても、販売にしても、同じことが言えます。スループット以上の過剰な能力は、管理費をもたらします

 従って第 3 のプロセスでは、他の全ての事象を制約条件に従属させることを考えます。組み立て部署の 70 の生産能力に、周りが合わせるのです。

 ここで注意しなければいけないのは、全ての部署を 70 の能力に統一すれば良いという訳ではないということです。
 プロセス中では予期せぬ事態が必ず発生します。加工の機械が故障して、瞬間的に生産能力が 0 になることも往々にしてあるでしょう。販売員が全員風邪を引いてしまうこともあるでしょう。

 そうした時、全ての部署が 70 の能力に統一されていたら、ボトルネック以外の場所で新たなボトルネックが発生してしまいます。

 ですので、非ボトルネックは、ボトルネックに従属しながらも、ある程度ボトルネックより高い能力を持ち合わせることが必要です。そうすることで、非ボトルネックがボトルネックに転落することを予防するのです。 

( 4/5 )制約条件の能力を高める

 旧型の機械を持ち込んで、わざわざ効率の下がるような生産方法も取り入れた。
---- 「ザ・ゴール」

 第 3 のステップまでで、あなたは現在できうる限りの処置を工場に対して施しました。ですが、現在の設備でできるのはこれが精一杯です。そうなったら、いよいよボトルネックの能力を高めることも考えましょう

 単純なところで言えば、機械を新規に購入して追加する、プロジェクトのメンバーを交代、あるいは増員する、といった方法もあるでしょう。ですが全ての場合においてそう出来る訳ではないことは、私も分かっています。

 では、他の部署から人員を引っ張ってくるのはどうでしょう?また、既に使われていない旧式の機械を倉庫から引っ張り出すのはどうでしょう?

 彼らは組み立ての素人ですし、旧式の機械はその効率の低さから旧式の烙印を押されてしまった遺物です。ですが思い出してください。あなたの工場のスループットは、組み立て部署によって規定されているということを。多少非効率でも、多少他の部署の能力を低下させても、それで組み立て部署の能力が向上するのであればそれは有力な選択肢ではありませんか?

 たとえ旧時代的でも、たとえ非効率でも、制約条件の能力が改善されれば、全体の利益が向上するのです。それを念頭に置き、取るべき行動を考えましょう。

( 5/5 )新たな制約条件を探す

 彼が速く歩いたからといって、列全体のスピードを上げるのに役立っているのか。スループットを上げるのに役立っているのか。とんでもない。みんな自分の後ろの人より少しずつ速く歩いているが、列全体のスピードを上げるのに役立っている子は一人もいない。一番後ろではハービーが自分のペースでゆっくりと歩いている。結局は彼が列全体のスループットを決定しているのだ。
---- 「ザ・ゴール」

 素晴らしい手腕です!あなたの数々の施策により、組み立て部署の生産能力は 120 に向上しました!工場の生産能力は向上し、売り上げも格段に上がりました!

 では売り上げはどれだけ向上したでしょうか。元々組み立て部署の能力は 60 でしたから、差し引きで 60 の向上が見込まれるでしょうか?
 いえ、残念ながらそうではありません。最初と比較して向上率は 30 です。あなたの工場のスループットは、現在 90 です

 組み立て部署の能力は 120 に上がりました。彼はもはや制約条件ではありません。では他の部署に目を向けてみましょう。仕入れ、加工は、組み立て部署に合わせて能力を戻したので依然として 100 を保っています。販売は? 90 に下がっています。そうでした、一部の販売員を組み立て員に鞍替えさせたのでした。

 つまり、制約条件は更新されました今やボトルネックは、組み立て部署ではなく、販売部署です。彼らの能力が向上しない限り、工場でいくら製品を作っても、お金にはならないのです。

 制約条件にフォーカスして改善を行うと、制約条件は制約条件では無くなります。しかしボトルネックとは相対的な存在ですから、新たな制約条件がビジネスプロセス中に生まれることになります

 このように、制約条件を発見し、改善し、そして次の制約条件を発見し、改善するというサイクルを回し、ビジネスを改善していく。それが、TOC におけるビジネスサイクルです。

まとめ

TOC (制約条件の理論) とは、企業経営やプロジェクトなどにおけるアウトプット、あるいはスループットは、当該プロセスにおける制約条件( = 最も能力が低い部分 = ボトルネック) によって規定される、という事実を認識し、制約条件にフォーカスを当てた上で、全体を最適化、あるいは改善しようとする考え方である

・制約条件が存在する一連のプロセスにおいては、非制約条件である箇所の生産性、あるいは効率に関わらず、常に制約条件の生産性、あるいは効率により全体が規定される

全ての非制約条件は、制約条件に従属させなければいけない

選択と集中により、制約条件を改善する

制約条件は移り変わる。従って、改善はサイクルとして継続的に行われなければいけない

参考サイト

参考にした書籍 ( 実際に読んだもの )


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