不眠症からロングスリーパーへ


人間の身体というものは、大体25歳くらいまでは、7、8時間の睡眠時間が必要とされ、その後、歳を取るにつれ、自然と6時間くらいに短くなるのが一般的な傾向らしい。
自分が若い時にそんなに寝る時間があったのか?
無い。私の場合、勉強で忙しかったわけではなく、学校の後に部活に出たり友達と遊んで帰ったり、好きなアーティストの深夜ラジオを聴く、趣味のギターを弾くなどしていたら、3時4時になってしまい、朝7時に起きるというパターンだった。

社会人になってからも、飲み会が多いため帰りが遅くなり、やはり早くても寝るのが2時。5時間寝られたらいい方だった。好奇心旺盛の若い時期というのは、睡眠は優先事項ではなかった。
当然、朝起きるのにも苦労する。昼間は睡魔と戦わなければならない。
それでも、その時期というのは出会いが多く友達が増えていくものだし、やることがたくさんあり、スケジュールもビッシリだ。2日連続でオールする日も多々あったが、正直睡眠なんかどうでも良かった。

10年ほど前に働き始めた会社で、私は当時の上司から精神的な攻撃を受けた。
その上司は、初めのうちはとても好意的で、何かにつけ私を個人的に飲みに誘ってきた。何度かは酒の席につきあったが、そのうち体の関係を求め出した。自分には恋人がいる、上司だろうとその申し出を受けられない、そういった言動はやめてほしいときっぱり断ると一転してパワハラ攻撃に遭った。
1番強い立場にいる上司であったため、そのことを相談する相手もいない。

厚労省は、パワハラを「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」と定義しているので、これに当てはまると思う。

何の理由もなく突然怒鳴り出したり、やってもいないことで言葉責めにあう。反撃もさせてくれない。嫌がらせはどんどんエスカレートし、「明日から始業の30分前に来て、掃除をするように。」などと言われたりもした。
周りは、誰も助けてくれなかった。
逆に上司のご機嫌をとるために、私に関して悪い情報を吹き込んだりしていたようだった。長いものに巻かれている人たちの中で、私はどんどん追い詰められていく。
私が一体何をしたというのか。何か仕事で失敗したとか、会社に迷惑をかけたというのなら責められても仕方がないが、本当に何もしていない。
何かしたとしたら、上司からの不適切な誘いを断ったことだけだ。

今思うと、そんな会社すぐに辞めてしまえばいいのに、なぜかその時の私は変なプライドが頭を擡げ、ここで負けたらただの負け犬、絶対に何かで挽回し、見返したいという気持ちの方が勝っていた。辞めずに、毎日上司からの嫌がらせに耐えた。

そんな日々が続くと、どんなに強い人間でも精神は崩壊してしまう。痩せの大食いと言われていた私が、食事も受けつけなくなり、36、35キロまで痩せてしまった。
元々太れない体質で、身長160cmで昔から体重は40キロ前後のため、初めて会う人には、細いけど大丈夫?と心配されていたが、さらに痩せたので、それに拍車がかかった。自分では人にどう見えているのかがわからないのだが、ハタから見ると病人にしか見えなかったようだ。

ランチの時間になると、いつも同じ時間にドトールに行きコーヒーしか頼まないので、店員さんにすっかり覚えられ、オーダーする前に「こんにちは。200円になります。」と先に言われ、ブレンドコーヒーが出てきた。

夜は全く眠れなくなり、ついには不眠症と診断され、病院で睡眠薬を処方してもらい、体調もますます悪化したため、やむなく自ら会社を退職した。会社都合ではなく自己都合。
あんな理不尽なことはない。

その後、体調が戻ってから入った会社の人たちが天使に思えた。ただ普通に会話をしてくれ、誰も怒らない。それだけで、ここは天国なのか、とさえ感じた。必死で覚えようとトイレも行かず仕事をしていたら、「そんな最初からコン詰めてやらなくてもいいですよ。休み休みね!」なんて優しいことを言われ、本気で泣きそうになった。普通ではないことを経験した後だったのでなおさらだ。
そういえば、前の会社では、相当酷い目に遭ったが私は意地でも涙を見せなかった。泣いたら負けと思っていた。

ただ、不眠症だけは治らなかったので、その後も睡眠薬は手放せなかった。試しに飲まないで寝てみると、やはり朝まで眠れない。
そういうわけで、私は睡眠薬と精神安定剤を未だに処方してもらっている。
眠れない日が続くとつらいので、量を減らすことも出来ずにいる。

睡眠薬なんか飲まないに越したことはない。
でも、身体が覚えてしまい抜け出せない。
ただ、そのおかげで私は現在、毎日7、8時間は寝ている。薬のせいもあるのかもしれないが、歳を重ねると睡眠時間が減るという一般的な説とは真逆をいっている。
毎日、何があろうとも23時には寝床に入る。たまに4、5時間しか寝られないと、昼間眠くて仕方がない。
休みの日には10時間、11時間寝ることもある。
誰かとチャットをしていても、寝る時間が近づくと「もう寝るから。」と強制的に会話を終わらせる。何よりも睡眠時間を優先させ、朝起きると今日は何時間寝たっけ?8時間寝たよね?と確認する癖がついた。

まさか不眠症を経て、自分がロングスリーパーのような人間になるとは思いもしなかった。
あんなことがなければ、無駄に起きている夜型人間のままだったのかはわからないが、眠れないつらさより、薬に頼ってでも、よく眠れる方が1日がつらくない。

その日あった嫌なことも、起きていればその時間分考えてしまうが、寝てしまえば忘れられるし、何よりこの10年、大きな病気にかかることもなく、ちょっとした風邪すらひかなくなった。

病院の先生というのは、いつなんどき私が病院に行っても病欠で休んでいることはまずない。患者の風邪が移ってもおかしくない環境にいるというのに、なぜそんなに完璧に健康を保てるのか、ある日先生に聞いてみた。
「うん。よく寝ることだね。」即答だった。
睡眠不足は万病の元、と言われるように、睡眠が1番の健康維持の秘訣らしい。

確かに、いくら若い時期でも、睡眠不足の時は肌が荒れたり、よく風邪をひいたり、免疫力が落ちて体調が悪くなることも多かった。

今は寝ることで心身の健康を保っている。
睡眠時間を削ってまでやることなどこの世に何もない、とまで思うほど寝ることが好きになった。
いつか、薬に頼らずに毎日8時間きっちり眠れるようになったら嬉しく思う。

今の職場はコンプラがきちんとしており、パワハラ相談室もあり、立場の弱い労働者が守られている。とても良い職場なので、それを利用している人はいないか、いても少ないと思う。でも、私が知らないだけで、もしかしたら他部署には、パワハラに遭っている人もいるのかもしれない。だけど、相談できる場があるのだから、元被害者的には安心だ。
私の場合、そんなに手厚く守られていなかったので、権力に負けてしまったが。

いろいろあったが、今ではもう、嫌なことがあったおかげで健康になれた、と思うことができているので、嫌な経験もどんな経験も無意味なことではないのだと思う。
だけど、もし皆さんが私のような経験をしたら、すぐに相談室に行ってくださいね。
社内で無理なら、「パワハラ相談窓口」で検索すれば、たくさんの情報が得られます。
そもそも相談室に頼らなくてはならないような職場は言うだけ言って、早めに去った方が良いと私は思います。


#不眠症 #睡眠 #ロングスリーパー

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