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一番好きな映画はなんですか?

時間があるときに、ひとりでよく考えているのが『好きな映画ベスト10』と『好きな小説ベスト10』だ。子供の時から暇があると頭の中で好きな作品のリストを作って遊んでいる。

10作品に絞るのは難しく、難しいからこそ楽しい遊びだ。その時々にリストに上がる作品が変わることもあれば、ずっと上位に輝いている作品もある。
映画は十代に観た作品に記憶に残っているものが多く、小説は二十代から三十代にかけて読んだものに記憶に残っているものが多い。


先日、またラジオに出演させていただける機会があった。その時に「一番好きな映画はなんですか?」と聞かれることがあった。他の質問にアドリブで答えるのは難しかったのだけど、この質問だけはスラスラと答えることができた。

1番好きな映画を1本選ぶなら、私はシドニー・ルメット監督の『12人の怒れる男』を選ぶ。
アメリカの陪審員の物語で、スラム街出身の少年が殺人事件の容疑者として挙げられる。貧困層の少年ということで、12人の陪審員のうち11人はすぐに有罪と投票する。しかし12人目の陪審員だけは無罪に手を挙げる。彼が無罪に手を挙げたのは、少年の無罪を信じているのではない。議論せずには有罪か無罪か分からないから、一緒に検証し考えようではないか、そう提案するために手を挙げたのだ。ここから12人の陪審員たちの議論が始まる。

私はこの物語と登場人物たちが大好きだ。
無罪を主張するためではなく「分からない」ということを認めることができ、「分からない」からこそ話し合おうと提案する主人公。これこそ知性だと思う。他の11人に流されることなく自分の考えを主張できるところが素晴らしいし、偏見で判断を下すこともない。自身の無知を認められ、だからこそ考えようとする姿勢に感服する。


他の11人の主張にもギクリとするところがあるはずだ。
自分は労働者だから頭を使うことは他の人たちに任せているとか、スラム街の出身だから犯罪者だと信じ込んでいたり、早く家に帰りたいなんていう理由で多数派になびいたり。長いものには巻かれ、盲目になり、私利私欲に目が眩んで確かな判断をくだせないことは、誰にでも経験のあることだろう。
だからこそ、この作品の主人公に憧れるのだ。



中学生のとき初めてこの作品を観た時は「この映画を全世界の人が見れば地球はもっとよい場所になるはずだ!」と非常に感動したのを覚えている。
大人になってしまった今では、この映画を世界中の人たちが見るだけでは、世界が劇的に素晴らしい場所になるということはないかもしれないと思う。
だけどこの作品を観る前と観た後では、世界の見方や考え方が変わることは間違いないはずだ。映画や物語には”力”があって、それは人や社会を良い方向へと動かすことができる、と信じさせてくれる作品だ。

ラジオではここまでは語れなかったけれど、いつも好きな映画について考えていたお陰で、伝えたいことを上手にまとめて伝えることができたと思う。言いたいことをスラスラと述べるのは案外難しく、日頃から練習が必要なのだ。
好きな◯◯リストを作っていることが初めて現実に生かされた瞬間だった。



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