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絶対値

まだ暑い京都で、半袖を当たり前のように着る今年の10月は曖昧すぎる。そんな中、買った方がはやいキムチを、わざわざ自分の手で一から漬けている。一週間かけて育てながら食べ尽くして、それを繰り返す。やらなくていいことを、わざわざ一からやる癖は年々ひどくなる。これが歳をとるということかもしれないし、そうだといいなんて呑気なことを、たまに考えている。

ハロウィンの化かし化かされには興味がなかったけれど、お化け屋敷が好きだった。怖さがないというよりは、不意打ちのそれが好きだ。予想できない事態ほど好奇心を煽られるものはなく、結果恐怖が待っていても、その絶対値にしか目がいかない。驚いて、こわくて泣いてしまったとしても。してやられた、と結局笑ってしまう。ゼロ基準からどれだけ離れるかが体験の価値であり、プラマイは関係ない。自分の平静よりずっと離れたなにかに心が動いてしまうのは、そういう所以だと思う。まあ、ただの天邪鬼といえばそれまでだな。


26。やっと、いったんすべてが揃った気でいる。トランプのカードも赤と黒合わせて26枚ずつ。これで手札は揃った。未だに世界には誘惑が多く、退屈とは程遠いけれど。まだしばらく、ミーハーなのは変わらないまま、重複させるカードを選んでいくのだと思う。

絶対値ばかりに目がくらむと、迷子になると聞いた。でもわたしの平静は確実に自分の中に揺るがずあるし、取り戻すための手段がいくつもある。増え続けるレコード、韋編三絶するほどの数冊の本、毎週リセットされるキムチ。ここだよ、と教えてくれる手段がいくつかあれば救われる。


誰かの幸せに寄り添える可能性のある手法を、いくつか持っている大人になれているといい。大事なひとを守るために、学び続ける必要があるのだと悟った日から、好奇心に嘘はつかず、いろんなところに手をつけながらも広く軸はぶらさないまま、できることを少しずつ増やしている。


ウイルスはまだ何かを消していっているけれど、昔見た夢よりずっと、これがいいと言える今があるよ。だから、今年もミーハーでいなよ。ガチャ外れたって結局笑えてしまって、楽しんでしまうから、どうせ。

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読んでくださってありがとうございます。今日もあたらしい物語を探しに行きます。