見出し画像

過去にいた英語インフルエンサーと情報リテラシーの重要性


本記事では、とある過去にいた英語インフルエンサーの紹介を通してネット上における情報リテラシーの重要性、英語インフルエンサーの在り方を再確認したい。

はじめに

今回紹介するのは英語インフルエンサーのけん氏。

https://twitter.com/k_eeeeeeeeeeen


けん氏は、2019年から2021年の3年近くTwitter(現X)にいたインフルエンサーで、英語力ゼロの状態から1年未満でケンブリッジ英検C1に合格した天才である。

SNS上でその英語力が明確に示される機会こそなかったが、インドで働き、バイリンガルを自称する程には英語には堪能であることが窺える。フォロワー数は現在2.1万人だが、2021/9/26の投稿を最後に失踪しており、現在他のSNSで活躍しているかなどについては不明である。発信内容としては、英語に関する図解や、英語学習に関する自己啓発的なものが中心であった。リプライも盛んに行っており、フォロワーとの交流は勿論のこと、その他議論にも積極的に参加していた。後に(或いは当時から)インフルエンサー構文として有名になる文言「何度も言う」「これは結構マジなんですが」「○○な人が多すぎる」「これは知らないとヤバい」などを多用していた。
本題とは逸れるが、2019年の大学時代からYouTubeチャンネルも開設していた。

ここから、当時話題になったけん氏の投稿を見ていきたい。

some=4, 5, 6

以下は2021/8/14の投稿。

これは数や割合を表す英語表現を具体的な数字に当てはめて図解化したものである。「暗記では一生英語を話せるようにはならない」と言いつつ、この画像の内容を暗記すべきという趣旨と思われる。
ツッコミ所としては、何故0を “nil”としているのか、何故someを“4, 5, 6”としているのか、“a couple of”は2とは限らないのではないかなど挙げ出すとキリがない。
分かりやすい所でsomeについて見てみると、someとは基本的に“all”の対義語、「全体」ではなく「一部」というのが第一義である。 例えば、A city has a population of about one million, some of whom are foreigners. (ある都市の人口は約100万人で、そのうち一部は外国人である)といった文章の場合、ここでいうsomeは4~6人を指している訳ではなく、恐らくは数百人から数万人を指していると考えるのが自然と思われる。即ち、このような具体的な数字ではなく割合を表す表現というのは、文脈によって意味する所を考えていく必要がある。
またfewを「ネガティブなイメージ」と説明するのは良いが、a fewを3, 4, 5とするのは不適切だ。a fewは確かに「少ない」ことを意味するが、それは3, 4, 5といった具体的な数で考えるべき事柄ではない。そもそも当然の話だが、数が多いか少ないかというのは、話者の主観による相対的な評価だ。例えば、本棚に本が5冊入っていたとして、それを「5冊しかない」と捉えるか、「5冊もある」と捉えるかは、話者の価値観や状況による。秀才な学生の自室の本棚に5冊あったら「(もっと沢山読書してそうだけど)5冊しかない」と描写するかもしれないし、勉強が嫌いな学生の本棚に5冊あったら「(読書なんてしなさそうなのに)5冊もある」と描写するかもしれない。そしてこれはmanyについても同様である。
nilについて言えば、こういった数表現の解説をするにあたっては全く相応しくないし、nilと敢えて書く必要性や意図も特に読み取れない。nilの用法としては、two nil(スポーツの得点2対0)や、practically nil(実質不可能)などの比較的限られた表現ばかりである。この図中に書くとしたら“no”、“none”などが無難だろう。
two dozensについては、dozenは数詞の前では通常単複同形の為、two dozenの方が一般的と思われる。
参考
https://twitter.com/HitomiKengo/status/1604623694243852288

この投稿については、多くの批判の声が寄せられた為、けん氏は対応に追われたが、訂正として、2日後以下のような補足説明を行った。

この訂正ではまるで、some以外には何も誤りが無いかのような印象を受ける。「この場合だと」と書いた意図も読み取れない。数に関する英語表現について一般化を試みた図解であるのに、まるで本図解も「多くの場合のうちの一つ」であるかのように語るのなら、そもそも図解化のコンセプトと矛盾する。出典も載せていないが、これは以下のサイトから引用したものと思われる。

以上、けん氏による数の英語表現の図解だったが、本図解をめぐって、けん氏はかなり強気に他のTwitterユーザーたちからの誤りの指摘に応じていたのだ。以下面白い部分を抜粋する。
以下は@TOEFLEnglish氏の引用リツイート。

これはけん氏の誤りをかなり遠回しに指摘したものであり、指摘自体も的を射ていたが、けん氏は以下のように返した。

ここでけん氏の言っている「リソース」とは、恐らく「ソース」のことだろう。そしてやり取りが続く。

確かにリソース(笑)を提示できないのに云々の部分は、けん氏の言うことにも一理あるが、けん氏の言う「私が提示したイメージが一般論として多かった」というのは、恐らくは気のせいである。
@TOEFLEnglish氏は最終的に参考文献を提示する。

しかし、けん氏は以下のように一蹴する。

なんと、情報のリソース(笑)の提示を求めたのはけん氏の方だったにも拘わらず、極めて理不尽な返答で返したのである。

このリプライの意図は後の投稿で分かるが、どうやら図解作成にあたってYahoo知恵袋をソースとしたことを確認されたことにご立腹だった模様。

とはいえ、これ以降、けん氏は図解を投稿する際はCambridge Dictionary、ハパ英会話、Quora、Yahoo知恵袋等の参考リンクを8割方添付するようになった。

けん氏失踪直前サロン

冒頭でも述べた通り、けん氏は2021年9月からその姿を眩ますのだが、失踪直前にけん氏が行ってた投稿を見ていく。

そして本オンラインサロンの概要、仕事内容がこちら。

https://twitter.com/k_eeeeeeeeeeen/status/1428643093960560641

応募資格と報酬がこちら。

https://twitter.com/k_eeeeeeeeeeen/status/1428643093960560641

当時この界隈を見ていた筆者の印象としては、本投稿が炎上してけん氏失踪に至ったものと考えているが、真相は不明である。この投稿によると、けん氏はオンライン英語サロンを創設しようとしていたらしい。
「TOEIC900以上」が2つ書いてあるのはさて置き、この募集のツッコミ所としては、やはり賃金の異常な安さだろう。この募集内容は時給換算で、時給75円前後ということになる。これは業界、地域問わず、日本の労働基準法の最低賃金額よりも遥かに低い値段設定である。月10時間の間違いではないか(それでも超安いが)とさえ思ってしまう。従ってこの案件は、最早ボランティアである。勿論ボランティアでもやりたい人はいるかもしれない。が、語学スキルというのは、その人が時間、お金、労力をかけて培ってきた専門技術だ。C1レベルの語学力なら尚更だろう。これならば、初めからボランティアとして募集した方が(推奨はできないが)まだ印象が良かったかもしれない。

この値段設定について、けん氏はこのように述べている。

特に意味を理解しがたいのは「私自身C1レベルに到達している身として、片手間でできる、英語を使って誰かの役に立てるならこの価格でも“私は”いいなと思いました」の部分だろう。「英語を使って誰かの役に立てる」はまだ分かるかもしれないが、だからといって、専門技術が必要な週10時間、即ち月40時間の労働を「片手間」と呼び、率先してやりたいと思う人が果たしてそう多くいるのだろうか。せめて週に1度、週末などにまとめてならアリかもしれないが。もしくは「完全オンライン」であることで値段を大幅に下げているのか、この値段設定の意図は不明である。素人意見ではあるが、募集人数が2~3人ならもう少し羽振りよくしても良かったのではないかと思うが……。けん氏曰く、この募集でも応募者はいたとの事だが、現在このサロンがどうなっているかは一切不明である。

けん氏の投稿と酷似したウェブページの存在発覚

以下はけん氏による2020年の投稿と、『アメリカ人が選んだ英会話フレーズ』を比較したもの(当時けん氏は「けんや 評価される英語力」という名前で活動していた)。けん氏の投稿と酷似したウェブページが発見されていた。

紹介している英語フレーズは同じだが、解説の日本語部分の文章は違うため、偶然似た可能性は捨てきれない。因みにこの投稿者は、『アメリカ人が選んだ英会話フレーズ』の作成者に連絡を取っていたらしく、以下のようなメッセージを受け取ったという。

この騒動を皮切りに、けん氏は自身のプロフィール、アイコン、名前を一新することとなる。名前変更の順序としては、「けんや 評価される英語力」→「けん 評価される英語力」→「けん 英語図解」→「けん」と思われる。因みに、けん氏が名前から「評価される英語力」を取り去った理由としては、以下のツイートが「評価される英語力」という名前と真っ向から矛盾していた事が関係していると思われる。

おわりに

今回紹介したけん氏はフォロワー数2万人で、他インフルエンサーとの交流も厚く、一見信頼できるように見えるが、少なくとも一定の知識のある人間が見れば、実際の投稿内容の質は取り立てて良い訳ではなく、情報のソースを明示していない事も多い典型的な英語インフルエンサーだった。彼のサロンがスタートしたのかさえ不明であるので、彼のビジネスによって何らかのトラブルがあった可能性については判断の仕様がないが、如何に画期的で分かりやすい図解であっても、文法書などの一次ソースにあたること、リテラシーを高めることが重要であると理解する上では大変良い教材かもしれない。
また、けん氏は現在いる典型的な英語インフルエンサーの一例である。けん氏ほど議論にやたら強気な英語インフルエンサーは筆者の知る限りではいないが、それは裏を返せば、英語インフルエンサーの商業活動がより巧妙化してきたことを示しているかもしれない。けん氏の場合、まだ若く(2020年12月時点で24歳、2019年10月時点で大学生)、商業的なノウハウが確立していなかった可能性がある。
ここ2年間だけでも、英語情報商材屋のノウハウが確立してきていると筆者は感じているが、英語コーチとしての年齢層については、実はそれほど変化がない。むしろ、4年制大学を卒業してすぐに英語コーチの自営業を開始したコーチもおり、若年化の傾向すらある。将来的には、高校在学中にTOEICなどで高得点を取り、高校卒業後すぐに英語コーチを目指す若者も出てくるかもしれない。これはあくまで筆者の見解であるが、自営業はある程度社会人経験を積んで、企業でも個人でも対処できる経験とスキルを身につけた人間が、働きやすさや個人的事情を優先して選ぶべきものだ。高卒や大卒でありながら成功の可能性が不確かな英語コーチや情報商材屋を始めることは自由だが、仮に失敗すればその期間の努力は無に帰す可能性もあることを理解しておくべきであり、現在英語コーチをしている人物も、安易に他人に勧めることは避けるべきだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?