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ことだま

本当に叶えたいことは、絶対人に言っちゃだめ。


「本当に叶えたいことは、絶対人に言っちゃダメ。潰されちゃうから」
ナナシノユキサンは、そう言われて育った。

最近は、引き寄せの法則や、言霊なんて言って、「やりたいこと、欲しいものは、どんどん言葉に出して言いなさい」と言われる。たくさん本も出て、成功者たちも、口々にそう話していて、でも、ナナシノユキサンには混乱する言葉だった。

勇気を出して「私は、役者になりたいんです」と話したことがある。まるで、その告白で、夢が叶うか否かが決まるか、というぐらいうんと勇気を出してそう言った。
その人は「君より、うんとかわいい子もすごい子もうじゃうじゃいるし、無理だと思うよー」と言った。言いつけを破った代償は重かった。

「無理だと思うよー」。その日から、ナナシノユキサンは、真実みたいな顔をしたその言葉に捕らわれてしまった。捕らわれて、時間を無駄にした。本当は、真実でもなんでもなかったのに。

ナナシノユキサンに、教えを破らせたその人は、有名で偉大なおばあちゃんの孫で、偉そうで、自由そうで、でも、別に何者でもなかった。その人の言葉は絶対だと思うほど尊敬していたわけでも、ナナシノユキサンのためを思って本音を言ってくれると思える信頼関係があったわけでもなかった。ナナシノユキサンのこと、たいして知っているわけでもなかった。

「人に言えないぐらいじゃ、たいして本気でなりたいわけじゃないんじゃない?本気なら話してごらんよ」と、半ば挑発されて、試されたみたいで、今言うべきなのだ、という気持ちになってしまった。長いこと教えを守って、誰にも潰されないように大切にしてきたのに。そして聞かされていた通り、潰されたのだ。一撃で。

だからといって、別にその人が特別悪者ってわけではない。いい年した大人が、真摯な気持ちで向き合う気もなく、興味本位に、挑発までして若い人の夢を聞き出したことに関しては、「あいつ、マジで大した人間じゃない」と言えるぐらいには悪い。でも、今になって分かるのは、そんな人はうじゃうじゃいるってことだ。大した人間じゃない人は、もう本当にうじゃうじゃいる。

それより問題は、運悪くも、ナナシノユキサンにとって、その一回が大切過ぎたこと。長い間守ってきた教えを破ってまで言った。そのことが、大した意味のない言葉に、真実みたいな顔をさせてしまった。

本当に手にいれたいものは、どんどん言葉に出していこう

「本当に手に入れたいものは、言葉に出してどんどん言っていこう」。ナナシノユキサンは今、それこそ本当と思っている。

でも、あの頃のナナシノユキサンや、話すことが怖いなと思っている人に知って欲しいのは、話すのは、相手に判断してもらうためではない、ってこと。そうではなくて、サポートしてくれるかもしれない人に、たくさんたくさん出会うため。要は、母数を増やしていこう、という話だ。

どの世界で大成功しているどの人を見ても、嫌いという人はいるし、将来オスカーを受賞する大スターを前にしても、隠された輝きを全然キャッチできず「全然ダメ」と思ってオーディションを落とす業界のプロがいるぐらいだから、「僕は見る目がある」と思っている普通の人はうじゃうじゃいる。

もし、ナナシノユキサンが、怖がらないで、たくさん言葉にしていたら、応援してくれる人と同じくらいたくさんの、そんな人に会ってきていただろう。「あ、応援してくれる人に出会いたいのでー。すみません、人、間違えましたー。」と、思えるぐらいには、タフになっていたはずだし、そんな人の一言で、大切なものは潰れなかったはずだ。

「かわいい子には旅をさせよ」じゃないけれど、"絶対に叶えたいこと"だって、色々なところへ出してみて、否定もされて、応援もされて、新しい意見を聞いたり、褒められたりしてみればいいのかもしれない。隠して大事に大事にしすぎてシュークリームみたいに一撃で潰されることもなくて、もしかしたら、ダイアモンドみたいに、何言われたって輝く固い強いものになっていくのかもしれない。

サポートしてくれる人の母数を増やす、というのは、別に、そこへ行くまでの道を用意してくれる人に出会うため、ということじゃない。(まぁ、母数が増えれば、運がよければ、中にはそんな人も出てくるかもしれないけれど)
あなたがそこへ行く日を楽しみにしてくれる人に出会って、真摯に意見をくれる人に出会って、切磋琢磨する人に出会うと、心のなかに応援団がいて、頑張れるのだ。"私にはやっぱり無理なのかも"とかいう、結局は誰にも分からないことをぐずぐず悩む、という無駄な時間が減るのだ。無理なことは実際にあるだろうけれど、それまでの時間を"自分には無理かも"とクヨクヨして使う代わりに、信じてできるところまでやってみるのだ。

もちろん、絶対に叶えたいこと、をナナシノユキサンが叶えられなかったのは、その人の一言だけのせいじゃないけれど、周りのいろんな力をうまく使って、心をタフにしていかないとな、この社会。

と、そんなことを考えたナナシノユキサンでした。



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