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すいれんの花

湘南乃風を聴くと、地元でバイトしてた頃のこと思い出す。お客さんも女の子も一緒になって盛り上がる曲はいくつかあって、その中の一つが湘南乃風だった。胸を張って「湘南です!」とは言いづらいけど、当該エリアの端くれだったこともあり、若い団体客なんかは特に「湘南乃風?それともEXILE?」という勢いで我先にデンモクに打ち込んでいた。うちの店カラオケ無料だったし。

店のカラオケで歌って、アフターで行くビックエコーでも歌う。みんな例によっておしぼりはぶんぶん振り回す。市外の学校に通っていて地元の付き合いがなかった私にとって、それが初めての地元体験だった。そこではノリとモテが重視されていたので、「仕事や学歴、将来の夢とかどうでもよくない?」という、留まっていても誰からも咎められない雰囲気がとても心地良かった。

お客さんと別れたら、最後は女の子たちだけで静かに家系ラーメンを食べて帰る。明日休みて〜って言いながら、今日の自分の働きをチャーシューと味玉トッピングに置き換えて、次の日もオープンから適当に出勤する。平和で間延びした毎日。

これ、本当に自分の記憶?って疑いたくなるくらい遠くにきたけれど、荒みきっていた当時の自分を癒してくれたのは、それぞれに困った境遇を抱えながら元気に笑ってる同僚たちだった。人生には、否定や肯定・応援のない適当な居場所が必要なときもある。

就職で地元を離れて、それから随分経ってから店の様子を見に帰ったら、当時のバイト先はフィリピンパブに変わっていた。ドコモのガラケーは真っ二つに折って解約しちゃったし、店の子たちが今どこで何をしているのかを知る術がない。だって誰ひとり、本名を知らない。

でも、湿度が高くなってくるとラジオやテレビが懐かしい曲を流すから、なんとなくみんなの面影を思い出してしまう。その曲が睡蓮花だから、笑い話として思い出すことができるのだと思う。

体調を崩して長いこと療養に徹していたけれど、おかげさまで回復してきたので、またマイペースに更新します。とるに足らないことしか書きません。

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