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“教科書通り” にとらわれた “狭い考え方” にご注意

なんぼー:今日は、アドタイの『なぜ教科書通りのプランニングはうまくいかないのか』とのコラボで、僕の前職である電通に所属されていて、僕が電通で働いている頃一緒に仕事もしたことがあるの北村陽一郎さんと対話させていただくことになって。すごく光栄です。ありがとうございます。

北村さん:こちらこそありがとうございます。

<今日の「なんぼーさんとの対話」ゲスト>
北村 陽一郎(電通 ソリューション・デザイン局/統合プランニング・ディレクター)

1973年生まれ。東京大学教育学部卒、1996年電通入社。テレビ広告・スポーツ放送権業務などを経て、2012年より広告プランナー。自動車・食品・精密機器・金融・アプリなど幅広い広告主のプランニングに従事するかたわら、社内向けの少人数制プランニング塾「北村塾」を開講中。NPS=98.4、推奨度平均9.89点という圧倒的な人気を得る。

なんぼー:北村さんの連載を読んでいて面白く感じたことについて対話できればと思うんですけど、まず “ターゲットを狭くしすぎない” っていう話が面白かったですね。

北村さん:ありがとう!よく「ターゲットを決めましょう」という話になると、 “F1(20~34歳の女性)”で”情報感度が高く”て、”健康志向が高い” みたいにどんどん狭めていくと、「あれ、それって500万人しかいないじゃん?!」となりがちじゃないですか。

なんぼー:あるあるですね。ターゲットが広すぎると「考えられていないんじゃないか?」と思われるんじゃないかと恐れて、とにかく絞ってしまう。でも、実際絞りすぎると「そんな人どれだけいるの?」ってなるという。

北村さん:実は、商品を考える際には、 “間口(=1年で1個以上購入した人がどれくらいの割合でいるか)” と “奥行(=1個以上購入者1人あたりが1年間でかけた金額)” を考えないといけないと思っていて。

なんぼー: “間口”と “奥行” をかけ合わせると売上になりますね。

北村さん:そうそう。例えば、お酒を一晩に10缶飲むという人はいるけど、袋麺を一晩に10袋食べるという人はほぼいない。お腹がいっぱいになっちゃうからね。だから袋麺はお酒よりも “奥行きが小さい”。

なんぼー:面白いですね。

北村さん:そういう一人あたりの奥行が小さい商品を考える時、ターゲットまで絞ってしまうと売上が伸びにくくなる構造を作ってしまう可能性があるんだよね。

なんぼー:僕も新商品開発を手伝うことがよくあるんですが、新商品を出す時には、ターゲットを絞った商品の方が話題になりやすくもてはやされるので、ターゲットを狭く考えがちですよね。絞ったほうが効率的なのは否定しませんし。

だけど一方で、あまりに市場を絞った商品を扱うスタートアップがマーケットが狭すぎて市場の限界が早く来てしまう話も聞きます。話題性を狙おうとして、新たなプロダクトを開発する際に “ターゲットが狭すぎる” “市場が狭すぎる” ことを過大評価しすぎてはダメだなと思うことがしばしばありますね。

北村さん:なるほどね。

なんぼー:ペルソナの事例でよく話されますが、その点『Soup Stock Tokyo』はものすごく上手だなと思っていて。

北村さん:ターゲットは女性だと思われがちだけど、そうでもないよね。

なんぼー:そうなんです。どこにも “女性向け” だなんて書いてないし、ご飯大盛りもできれば内装もフェミニンにしていない。パーパスが「世の中の体温をあげる」なので、ターゲットを考えるとしたら、機能的に言えば “スープを欲する人” 、情緒的に言うと “ホッとしたい人” だと思うんですけど。

北村さん:年齢や性別じゃないんだね。

なんぼー:そうなんです。ペルソナを細く設定していそうに見えて、実にユニバーサルなつくりかたをしていて。離乳食無料提供も男女ともに関係あるメリットですし。だからこそ、あれだけ絞った商材でも生き残っているんだろうなと思います。

北村さん:例えばターゲットを女性と設定していたとしても、その人達に限定せず広く別のターゲットも設定して「女性じゃない人が行っても大丈夫だ」と思われるようにしておくと、やらなくていいことをやらずに済むんじゃないかと思います。

なんぼー:ターゲットを絞るのはいいとして、その他を排他するのがよくないのかもしれないですね。ハイブランドならわからないでもないですが、基本的にはブランドらしさが人を排他してはいけない。

北村さん:そういうことですね。

なんぼー:ブランドらしさ自体が柔軟に変わっていくべき、という話もされていましたよね。

北村さん: “ブランド連想” が自然に増えていくことを拒絶しないって話だね。

なんぼー:記事の中では森永製菓の『inゼリー』の話をされていました。

北村さん:森永製菓の『inゼリー』は元々 “スポーツする際の栄養補給” “忙しい朝の朝食がわり” という2つのイメージで成長してきたんだけど、実はそれ以外にも “体調不良時の栄養補給” “受験応援アイテム” “母校への差し入れ” みたいなブランド連想が消費者の中で育っていたんだよね。

なんぼー:僕も『inゼリー』には体調不良のときに飲むイメージがありますね。

北村さん:こういう、自然にブランド連想が育っている時に、「いや、想定していたブランドイメージと違う!」と切り捨ててしまわずに、消費者が醸成したトレンドを取り込んでいくべきだという話をしていて。

なんぼー:そのとおりですね。

北村さん:『inゼリー』も、コロナ禍で “忙しい朝の朝食がわり” “スポーツ時の栄養補給”で購入されることも少なくなってしまっていたんだけど、以前から育てていた2つの柱以外の飲用シーンを掘り起こすことで、早期に売上を回復できたんだよね。

なんぼー:その話でいうと、消費者のトレンドを上手く取り込んでいるのが日清食品さんかなと思いますね。

北村さん:上手だよね〜!

なんぼー:例えば合体シリーズ。世の中のネタとして「カップヌードルは混ぜるとうまい」と言われていたことに乗っかって販売されました。消費者から勝手に生まれてくる連想を活用して、話題にするのがうまいなと。

北村さん:日清食品のカップヌードルも、どんどんイメージが変わっていっているブランドかもしれないね。

なんぼー:まさに。昔は “手軽で美味しいけれどジャンキー” だったのが、今は完全栄養食としてカップヌードルを楽しむための商品も販売されていて、イメージが真逆になってきている気がします。ブランド連想を活用して、ブランドを拡張していますよね。

北村さん:「ブランドを拡張する」という言葉、いいですね。

なんぼー:AからBというよりは、A+Bといった感じですね。

北村さん:元々のイメージを変容しているんじゃなくて、拡張している。元々と関連していなかったり、真反対であったりするけれど「それも私です」と言えるような。

なんぼー:テーマは “狭く考えすぎない” かもしれません。 “人が覚えやすいのはブランドではなくカテゴリー” というのも、考える範囲を広げているなと。

北村さん:そうだね。軽くどういうことか説明すると、マーケティングで活用される “ファネル” の考え方だと、まずはブランドの名前を認知して、そのあとモノの特徴を知るというふうに考えるけど、実は概念を先に覚えるほうが頭に入りやすい可能性もあるなと。

例えば、「◯◯ビール」というブランド名がわからなくても、「餃子やお好み焼きを食べるときにぴったりのガツンとした飲みごたえでなおかつ糖質ゼロのビール」というカテゴリーを認識していれば、購入される可能性はあると思うんだよね。

なんぼー:よくわかります。もちろん、サービス自体が素晴らしかったことが前提なのですが、僕もメルカリにいるときには、『メルカリ』のマーケではなく、フリマアプリのマーケをやっていると考えていました。当時は、フリマアプリ自体が認知されていなかったので。

北村さん:なるほど。確かに「自分のサービスだけに人を集めたい!」と狭く考えるのではなく、広くカテゴリ自体をマーケティングしていたということですね。

なんぼー:自分たちのサービスだけに都合よく人を集めるって、そんなにうまくいかないですよね。だから “フリマアプリ” あとは “CtoC”——つまり個人でもモノを売れるし新品じゃないものを誰かから買っても良い、という認識を広めようとしていたと思います。

北村さん:いいね。木としてではなく、森として成長するような。

なんぼー:これも “教科書通り” やって小さく難しく考えるのではなく、実際に個別に事例を考えて、より大きくシンプルに考えようとしたケースですね。

北村さん:まさに。フレームワークや理論といった “教科書” にとらわれずに、個別に課題を見つめて解決策を考えるのは大事だよね。

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