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野菜とミネラル

自分は美味しい野菜を作るためにはミネラルは重要だと思っています。
ミネラルそのものが野菜の味に影響を与えるかはわかりません。もしかするとミネラルが水の味に影響を与えるように、野菜の味に直接影響しているのかもしれません。ワインでも科学的にはミネラルは味に影響していないと言われているようですが、石灰質土壌だからとか海沿いの産地だからとかで、味をミネラリーと表現しますし、実際味わいもそう感じます。

ミネラルの直接的な味への影響はともかく、農産物の美味しさ、味を決める要素の一つに作物の健全性というものがあります。

ミネラルは農産物が健全に生育するために必要不可欠な栄養分です。ミネラル不足の作物は生理障害が起こり、光合成ができなかったり、病気になったり、害虫にやられやすくなったりします。人間も必須元素が必要で、不足すると何らかの障害が起こったり病気になったりしますよね。人間も植物も同じです。

もっともっと美味しい野菜作りの高みを目指したいですし、少しでも農薬を減らすためには植物生理を知って、農薬が必要ない状態をキープする必要がありますので、改めて農産物に対するミネラルの働きについて勉強してまとめてみました。自分が興味ある部分を中心に勉強してますので情報網羅はしておりません。抜け漏れあるとは思いますがご容赦ください。


ミネラルの働きと作物の健康  著者 渡辺和彦

今回勉強させてもらったのはこちらの本です
この本を中心に色々調べたことを羅列していきます。


必須多量元素

N:窒素

早速ミネラルじゃないです(笑)
でも植物を育てる時にこれは切っても切れない栄養素なので最初に書いときます。

葉緑素や核酸の構成元素
Nが過多になるとCu、Si吸収が減少し、細胞壁の構成成分であるフェノール化合物、リグニンが低下します。結果的に細胞が弱くなるので病害虫に弱くなります。

リービッヒの最小律、ドベネックの桶というものが存在しますが(植物の生長速度や収量は、必要とされる栄養素のうち、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されるとする説)N,P,Kが存在しないとCa,Mg,Sは吸収されないし、逆にCa,Mg,Sが存在しないと、N,P,Kも吸収されないそうです。



P:リン

核酸、酵素の構成元素
P過剰で病害出やすい上、Mg、Zn、Fe欠乏起こします。
初期生育時にPがあると生育が良くなり必要ですが、欠乏状態になったとしても、根は伸長し土壌固定されているリン酸を溶かして吸収しようとする機能があるそうです。



K:カリウム

糖の転流の役割。Kが根の肥料と言われるのはKがあることで光合成で得た糖を根に送り根が成長するから。でも別に根だけがKの働きで成長するわけではないですけどね。

人体では体液の濃度調整、神経伝達、酵素反応に使われます。日本人は塩分(Na)摂取量が多いからNa排泄のためにKが必要だけど、摂取量は基準値より低いようです。

植物ではK欠乏でアミノ酸転流が阻害されるため、葉に溜まったアミノ酸に害虫が寄ってくるとのこと。よく土壌分析で Ca :Mg :K=5:2:1が良いとか言われますが、それよりもNとの比率が重要なようです。N :K =1 :1.2〜1.5くらいが良いとのこと。土壌に多い時は減肥すれば良いですが、足りない場合はKがある分しかNを有効利用できません。Mg過多でKの吸収抑制が起こります。逆にK過多によるMg吸収抑制はあまり問題にならないのだそうです。


Mg:マグネシウム

葉緑素の構成元素でK同様に転流の働きもあるようです。人体では摂取により虚血性心疾患が減少したり、海外では糖尿病リスク減少の報告もあるとのこと。植物で光合成のために重要なことは十分認識してましたが、人間でも大切な元素であることも思い知りました。


Ca :カルシウム

細胞壁のペクチンの安定性を高める役割があり、根の促進にも影響があります。細胞壁を強固にすることで病害虫抑制効果があるようです。大豆など作物によっては収量増加効果もあります。大変重要な役割を果たす成分ですが移動しづらいため欠乏症を起こすケースが多々あります。欠乏原因としては①N過多による吸収抑制、②土の乾燥により根から吸収できない(葉からの水分の蒸散とともに根から吸収される)、③高温による不溶化。なので夏場の高温乾燥時期には葉面散布で補給してやるのが良いですね。


S:硫黄

タンパク質の主要成分。基本日本の土壌にはあるとのことなのであまり気にかけたことがなかったのですが、多量要素で結構必要な成分とのことです。動物性堆肥を使っていれば自然に補給されるらしいですが、硫安ではなく尿素などの単肥でNを補給続けている畑では欠乏するとのこと。




必須微量元素

Fe :鉄

葉緑素の生成。呼吸によるミトコンドリアのエネルギー生成に関与。
土壌がアルカリ性に傾くと吸収できなくなります。


Mn :マンガン

葉緑素生成、ビタミンC合成、脂質代謝の役割。脂質はリグニンの生成に必要でリグニンは細胞壁の強固さに関わるため耐病性に影響を与える。アルカリ土壌や堆肥過剰投入畑(マンガン酸化菌により不溶化されるらしい)では欠乏。転流しづらいので葉面散布では根に届かないため、根のリグニンが低下する。そのため根の耐病性を高めるためには土壌施肥が必要。


Zn :亜鉛

植物ホルモン生成。人では結合組織の役割。


B:ホウ素

炭水化物、タンパク質の代謝、細胞壁の構成、細根の発生に関与。
アルカリ性で吸収阻害。欠乏で新梢の障害。


Cu :銅

葉緑素の形成、リグニン合成酵素の生成。
有機物が多いと土に吸着されて吸収できない。ボルドー液の散布で供給されるとのことです。自分は有機JASで認められているボルドー液(成分は硫酸銅)を化学農薬の代わりに殺菌剤として使用しますので、特に施肥を意識しなくても供給されているようです。一方でボルドー液の使用は有機JASで認められていると言っても、土壌に銅が蓄積されると、土壌微生物にも影響を与えるようです。

土壌残留重金属類が土壌微生物に及ぼす影響についてhttps://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/to-noken/DB/DATA/025/025-117.pdf

東北農業研究1979

こちらの文献では土壌中の銅濃度200ppm=200mg/Lで、糸状菌、放線菌は減少しませんが土壌細菌数には減少が認めれていました。ヨーロッパのBIOのCu使用量上限は600g/年・10a、ビオディナミ(バイオダイナミクス)の使用量上限は半分の300g/年・10aです。ちなみにうちの使用量は200g/年・10aでした。これはざっと計算すると2mg/Lに相当します。単年で見ると僅かな量に見えますが、長年蓄積すると微生物への影響も年々大きくなるので、ボルドー液といえど使用量を減らす努力が必要なのだと考えさせられました。


Mo:モリブデン

窒素同化、ビタミンC生成、酵素合成に必要。pH5.5以下では吸収されにくい。
人間ではアルデヒドデヒドロゲナーゼの生成に関わっており、アルコール代謝のアセトアルデヒドの分解に影響します。お酒を飲む際のおつまみに枝豆がよくありますが、枝豆はMo,Mgが多いので理にかなっているようです。でもMoの摂り過ぎは尿酸値をあげるらしいので、食べ過ぎもダメですね。



有用元素

Si:ケイ素

抗菌物質の生成に関与するので、微生物病害に対する抵抗性を高めるために必要となります。人では骨形成に関係するらしいです。


有機栽培におけるミネラル補給

作物を栽培し収穫を続けていくと、どんどん土壌中のミネラルは失われていきます。要するに土が痩せていく状態です。有機栽培、特に自然栽培をしている方は、無施肥だったり動物性肥料を使わなかったりします。ミネラルはどこからか勝手に流れてきてくれるものではないですし、植物よりも動物の方がミネラルを多く持っていますので動物性肥料を使わないということはどのようにミネラル補充を考えているのか、常日頃から疑問に思っていました。そこで何人かの有機農家に見解を伺ってみました。答えとしてはイネ科の緑肥を使うことで、直根が1m以上まで伸びる。その深さの地中からミネラルを吸い上げてイネ科植物は育つので、それを粉砕して肥料にしてやるとのことでした。他には雑草堆肥を作る際にその中で多くの昆虫が生活し、死骸が一緒に分解され、それがミネラル分となると教えてくれた方もいました。どちらもなるほどと腑に落ちる回答でした。有機農業を深く考えている人はすごいです。

まとめ

美味しい野菜の前提となる植物の健全性。要するに病気に罹りづらい植物体を作ることにミネラルは大きく関わっています。病気に罹りづらいと言うことは、農薬も減らせると言うことで消費者の安心安全、環境負荷、作業者負荷の低減にも繋がります。人間が健康に生きていく上で必要なミネラルは、植物にとっても同様に重要と言うことがわかりましたし、逆に摂り過ぎ、与え過ぎはよくないと言うことも理解できました。植物が欲する量を吸収できる状態に環境を整えてあげることが、人間が関わる農業にできることかと思います。



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