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緑肥について

「緑肥」というと農業をしている人間にとっては当たり前の言葉でありHPやECサイトの農園紹介文にも緑肥を活用していますとかポジティブなPRとしてこの言葉が使われることが多いと思います。私も緑肥は重要な農業技術の一つだと思っており活用しております。しかし、もしかすると消費者にとっては緑肥と言われても???かもしれませんし、使っているからなんなの??なんか自分らに関係あるの??と思うかもしれないので簡単に説明しながら、私が緑肥を使う理由について伝えていきたいと思います。

スーダングラスをフレイルモアで粉砕しています

緑肥とは?

田畑に作物以外の植物を意図的に植えて、成長した植物を土中にすき込み、肥料とすることを言います。

使われる種類として代表的なものとしては
マメ科 クローバー、ヘアリーベッチ
イネ科 ソルゴー、スーダングラス、ムギ類
その他 菜の花、マリーゴールド、ヒマワリ
などです。


マメ科 ヘアリーベッチ

なぜ緑肥を使うのか?

目的は農業者によってまちまちで目的によって使う植物も違いますが、狙いとしては

  • 土壌中に有機物を投入

  • 土壌病害虫の抑制

  • 土壌物理性の改善

  • 空気中の窒素を固定させる

  • 表土の流出の抑制

  • 生物多様性の維持


と言ったところでしょうか。
それぞれ説明していきましょう。

1:土壌中に有機物を供給する

緑肥作物にはイネ科のものを代表に作物が2mにまで大きく成長するものもあります。作物が大きくなるということはそれだけ有機物量が多くなるということです。植物は光合成をする際に二酸化炭素CO2を吸収し糖を合成します。その糖と根から吸収した窒素などでアミノ酸などのタンパク質を合成し植物体を形成していきます。要するに作物が大きくなり、それを土中にすき込むということは、それだけ空気中のCO2を土壌中に取り込むことに繋がります。世界中でCO2削減が叫ばれている中で、農業は緑肥技術によってCO2削減に貢献することができるのです。また土壌中にすき込まれた有機物は微生物のエサになります。有機物を分解するために様々な種類の微生物がとっては変わりながら土中で活動することで微生物の多様性が形作られます。有機物はゆっくり分解され、何年もの長い時間をかけて土壌中に栄養分を供給する働きをするのです。有機物は腐食という状態になり土を構成する一部になります。腐食があることで土はさまざまなミネラルを含む栄養分を保持することができ、農作物を育てるために理想的な状態となるのです。

ちなみに緑肥を使わなくても動物の糞尿を利用した堆肥を使えば土壌中に有機物を供給することはできます。堆肥も農業において大変重要なツールの一つです。

粉砕後の緑肥を好気的微生物に分解させるため浅くすき込みます

2:土壌病害虫の抑制

農作物によっては連作(毎年同じ作物を同じ場所で作ること)すると病気になってしまうことがあります。連作障害というやつです。原因はその作物を好きな病原微生物が土壌中に偏って増えてしまい、根から侵入して病気を引き起こすからです。一度連作障害が起こってしまうところまで土壌中の微生物バランスが崩れてしまうと、それを元に戻すためには長い年月が必要になります。これに対し化学的に対処する方法がありまして土壌消毒剤を使います。これは微生物界に原爆を落とすようなもので、有害微生物だけでなく多くの微生物を一斉に駆逐してしまいます。微生物は土壌中でさまざまなネットワークの中で様々な働きをしています。まだまだ人間が知らない世界です。人間が知っている働きの一つに前述の有機物分解などがあるわけです。微生物の中には土中の栄養素を農作物が吸収する手伝いをするものもあるのですが、こいつらもいなくなってしまうと農作物は栄養吸収の面で不利になってしまいます。結果的に農作物の味にも影響が出てきてしまうのです。だから土壌中の微生物多様性を維持しながら持続的に農業を行なっていくためには連作をしないということが基本になり、いろんな作物をローテーションしながら作る中で緑肥を使う場合があります。緑肥の中には病害微生物を抑制する働きを持つものや、害虫に対して有害物質を出すものもあります。なので狙った病害虫に対して抑制的に働く緑肥作物を選択して栽培体系の中に組み入れていくわけです。

3:土壌物理性の改善

緑肥を土壌中にすき込んで、それを有機物が分解して腐食化していくと、単純にいうと土がフカフカになります。緑肥の中には背丈が2m以上にもなるものもあり、それらの根は地中1m以上深くまで入ります。要するに根が土を深くまで耕す効果もあるのです。通常トラクターで耕せるのは20cm程度です。重機で畑に入っていると土中50cm〜1mくらいのところに硬盤層ができます。この層を深く根で貫くことで水が抜けるようになり、水はけも良くなるわけです。

4:空気中の窒素を固定させる

マメ科の緑肥は根に根粒菌を持っています。根粒菌とは空気中の窒素を固定しアンモニアを作り植物に供給する働きをしています。なのでマメ科緑肥を活用すると窒素肥料を使わなくても土壌中に窒素を供給することができるのです。

5:表土の流出の抑制

畑は表土が露出していると、風によって土が飛ばされたり、雨が降ると流されたりします。この時表面を植物が覆っていると、風雨による流出が防がれます。緑肥を作付けすることでこう言った効果もあるのです。何も作付けしていないのにトラクターで綺麗に耕運されて常に雑草が生えないように管理されている畑を見ます。農家の努力の賜物です。自分なら見栄えは悪くなりますがあえてトラクターを頻繁にかけず多少雑草を生やし、背丈の高い雑草がでないくらいで管理することで、トラクターの燃料を浮かせながら、表土の流出抑制や雑草による有機物補給を狙います。

6:生物多様性の維持

行政や農協の指導員は雑草が生えていると、害虫が寄ってくるから刈った方が良いと必ず言います。それは真実でしょう。ですが、雑草があるから益虫(害虫を食べる虫)もそこにいると思うのです。緑肥地帯があるとそこは一面の草っ原です。その中では様々な生物が生息します。そういった場所が畑の中にあることで、作物を作っている場所の生物多様性も保たれ、害虫だけが大量に存在することはなく、必ず益虫も存在し、拮抗が保たれると考えるのです。ちょっと緑肥から雑草の話にズレますが、例えば雑草が邪魔だからと除草剤を使うと、植生の多様性がまず無くなります。そうすると栽培している作物を好きな生物しか寄って来ないわけです。要するに小動物の多様性がなくなります。土中でも同様に雑草があれば、いろんな種類の根に集まる微生物たちがいたのに、栽培する作物の根を好きな微生物しか集まらなくなります。だから私は除草剤は使いませんし、雑草を作業の邪魔にならない限りは刈りません。雑草って自分の中ではすごい大事な存在なんです。

雑草のツユクサ 雨が降った後綺麗に咲きます

まとめ

緑肥にはこのように様々なメリットがあります。特に微生物を含めた生物多様性に関しては農作物の味に関わってきますし、減農薬栽培、有機栽培をしている私みたいな農家にとっては非常に重要な話です。消費者にとってそれがどう関係してくるかというと、一つは土壌消毒剤を毎年使っている農作物に比べると美味しいと思います。緑肥を使うことが減農薬と直接繋がるわけではないですが、緑肥を使いながら病害虫被害を減らそうと努力している農家はいますので、それが上手くいけば減農薬に繋がり、結果的に減農薬の農作物が消費者の口に入ると思います。そして社会的にはCO2削減に貢献しています。

緑肥を使ってるよーってアピールしている農家は暗にこんなことを言っているとご理解ください。





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