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夏の君に想いを馳せて

うかうかしているうちに夏の足音が聞こえてきた。世はゴールデンウィーク、私のアルバイト先ではかき氷がで始める頃だ。人々は新幹線に乗り地方に里帰り、または家族で飛行機に乗ってリゾート地に少しのバカンス。テレビでは高速道路の渋滞予測が飛び交い、空港でのインタビューではスーツケースに乗っかった子供が「グアムにいくの」と楽しそうに答え父親に頭を撫でられていた。

全て去年までの話だ。今年のゴールデンウィークはちっともゴールデンなんかじゃない。みな息を潜め家に潜り神経を尖らせながら外に出る。それでも季節は巡り、桜の咲いていた木々は溌剌と若葉を滾らせている。太陽はより一層輝き窓の外を見れば眩しさを感じた。私はここ4~5日外に出ていない。昼頃目覚め、ブランチを済ませるとちょっぴりゲームに勤しみ、ゆっくりする。夕食を家族と食べたら風呂、就寝。最近は疲れることもないので夜中まで元気で夜中3時まで起きていることもある。

そんな生活をどうにか正常に戻すため今日こそはと8時にアラームをかけた。(一般的に遅いかもしれないが昼頃目覚めるよりはずっとマシだと思って欲しい。)  明日は散歩をしようと決めた。たまの運動だ。 意気込みのおかげで、1度目のアラームできっかり目覚めた。朝食を済ませ顔を洗う。今日はちゃんとする日だ。

まずはカラコン(元アイドルが手がける透明感の出るもの)を入れた。次に安いがバシャバシャ使える化粧水を肌に染み込ませ、乳液で包み込む。少し置いてから日焼け止めとポール アンド ジョーの下地を伸ばす。リキッドファンデーションを筆で塗り、イニスフリーのパウダーをはたく。アイシャドウで控えめなグラデーションを作って締め色で眉毛を簡単に書く。どうせ誰にも見られないし。まつ毛をビューラーで引っ張りあげ、マスカラを塗る。重たい一重を持ち上げられるように力強く、それでいていかにもナチュラルに見えるように繊細に。淡くチークを忍ばせ、最近ハマっているくすみピンクのリップを塗る。上出来である。髪の毛をストレートアイロンに通し、オイルでまとめる。前髪はより丁寧に。緩くカールをかけ、ベタついて見えないように束感をだす。クローゼットの前に立ち、今年になってからまだ着ていなかったワンピースを手に取った。

マスクをして買ったばかりのワイヤレスイヤホンを付け、お気に入りのパンプスを履く。7月ならサンダルにするがまだギリギリ4月なので今日は遠慮した。ドアを開けると昨日までの私が知らない明るい世界に繋がっていた。暑そう、と少し尻込みしたが準備したのが勿体ない。今日はちゃんとする日なのだ。

最寄り駅が見えた時、ふとこのワンピースの事を考えた。去年の夏の暑い日、大好きなあの人に会いに行った服だった。ウキウキして電車に乗り、夏の日差しをものともせずあの人に会いに行った、あの服だ。そういえば今日、メイクをしている時も頭の片隅であの人のことを考えていた気がする。あ〜ぁ、会いたいなぁ。

去年の夏、かっこよかったあなたは今、何をしていますか。お元気ですか。きっと今年の夏もかっこいいんでしょうね。会える機会はなくなってしまうのでしょうけど、きっと。

マスクの下でべ、と舌を出してみた。だんだん近づく夏に向かって。会えなくても負けない。辛くなんかないわって。