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野外地質調査から学んだこと

大学で地質系の学科に入り、地質図を作るような道を選択すると、フィールドでの地質調査が必須となります。

私もその道を選んだので、4年生に進級するための「進級論文 (進論)」も卒業するための卒論も一人で山に入って地質調査をおこないました。

また、先輩の卒論フィールドに連れて行ってもらい、お手伝いをしながら勉強させてもらう機会もありました。

それ以外にも、大学では様々な地域でテーマを設定して自主的に研究を行うグループがいくつかあって、学生だけではなく、大学の教員や、学校の先生などと一緒に地質調査をおこなう機会が沢山ありました。

そして、就職した後も研修の一環で野外地質調査をおこないました。

それらを通じて、地質調査のノウハウだけではなく、地質調査中の危険や、その危険の回避の仕方など、自分で体験したり、先輩たちの経験談を聞いたりしながら学んでいきます。

幸い、私自身は地質調査中にそれほど危険に遭遇したことはありませんが、ちょっとしたニアミスを起こしたり、先輩たちの壮絶な経験を聞かされたりして、それなりに地質調査の危険性については認識してきました。

地域にもよりますが、地質調査中に出合って怖い生き物はやっぱりクマだそうです。私は直接出会ったことはありませんが、熊の爪痕が残った木の幹を見たり、子熊と思われる猫のような鳴き声を近くで聞いたりしたことはあります。

子熊がいるときは近くに母熊がいて、出会うと大変危険だと聞かされていたので、子熊らしき鳴き声を聞いたときは、緊張しながら急いでその場を離れました。

先輩の中にはばったりクマと対面してしまい、思わず振り返って来た道を走りだしたものの、足を絡めてばったり倒れ、「もうだめだ」と後ろを振り返ると、クマも反対方向に一目散に走って逃げていた、ということもあったそうです。

クマに出合った時に、いきなり背中を見せて走って逃げるようなことはしない方が良いと聞きますが、先輩の話では、びっくりしてそれどころではなかったとのことでした。その時はクマも逃げてくれて幸いでした。

先輩の話では、山で出会う集団のサルは、ある意味、クマ以上に怖いとのことでした。その先輩の話では、集団のサルに遠巻きにされて、しばらく一緒についてきたそうで、いつか襲われるのではないかと生きた心地がしなかったそうです。

私は沢の入り口でマムシを見かけるだけでも、その日、その沢の調査に行く気を失うほど臆病でしたので、それでもよく毎日一人で地質調査をやっていたなと今さらながら思います。

スズメバチも怖いです。藪などを必死に漕いでいて、気がつかないでハチの巣に近づいてしまうこともあるようです。進論の時にスズメバチに襲われた同級生もいました。

地質調査中の危険と言えば、いきものばかりではありません。雨の後の急激な出水や増水など、いわゆる「鉄砲水」も危険です。わたしも調査中、沢の水が急に濁り、みるみる増水する様子を見たことがあります。

鉄砲水の危険性はよく話に聞いていたので、沢の水が濁り始めたら、すぐに沢から離れ、高いところに避難するようにしていました。

先輩の中には、沢近くでテントをはっていたところ、突然沢の上流から一気に濁流が壁のように流れてくるのが見え、間一髪で沢岸の斜面かけ登り、その下を濁流が流れていった経験をした人もいたようです。テントなど流されてしまったそうです。

春先の雪の残る山で、雪崩の音を聴きながらの地質調査もヒヤヒヤしていました。上流でドドーンと雪崩の音が聞こえたら沢筋から離れ、少し高いところに移動します。すると上流から雪の塊が沢筋に沿って転がってくることもありました。春先、暖かくなってくると雪解けや降雨で、積もった雪と地面の間の摩擦が減り、全層雪崩が発生することがよくあります。豪雪地帯の5月ごろの調査では、そんな危険もありました。


今年は新潟県でもかなり人家の近くまでクマが出てきていると聞きます。地質調査で心構えはできていたとしても、やはりクマは怖いし、人間にとって、場合によってクマはとても危険な生き物です。まずは地域の人々の安全を優先していただきたいです。

自然に影響を受けながら、自然に影響を与えながら、私たちは自然とどこかで折り合いをつけて生活を持続させていくことが必要なのだと思います。


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