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アラブの「戦友」

私が初めてUAEに本格的に赴任した1996年以来、UAEに赴任していた約20年間、ほとんど同じ部署や近くの部署で働き、苦労を共にしてきたUAE人の友人がいます。

彼は私と同じように掌が汗っかきで、挨拶で普通に握手をする習慣のあるアラブで、珍しく人との握手を躊躇する心情を共感しあえる仲でした。

彼は私より少し年が若かったのですが、私の上司となり、相談に乗ってもらったり、私にいろいろ相談してくれたり、意見を戦わせたり、また、時には他の日本人の同僚や私の出向元である日本企業に対して忌憚ない意見や苦情、忠告を聞かせてくれました。しかし、その発言の根底には、いつも、私たち日本人に対する友情や親しみが感じられました。

彼は長い間日本とのジョイントプロジェクトで数多くの日本人と働いてきたので、日本人の長所短所を含めた特質 (勤勉でシャイなところなど) を良く理解していて、若い日本人が初めて UAE に出向してきたときにも、いつも暖かく見守り、サポートしてくれました。

彼はUAEの北部にある首長国の出身で、都会の有力家系出身の若いUAE国民がどんどん出世していく中で、地道に努力と苦労をしながら働いていたと思います。そして長い間 Vice President を務めていました。

私が風邪をひき咳が止まらない時には、ちょっと苦いアラブのザアタル茶(ZAATAR:ハーブの一種)を山のように分けてくれたり、出身首長国原産のはちみつ (巣みつ、コムハニー) を大量にくれたり、おどろくようなプレゼントももらいました。

彼は、自分が定年になるときまでずっとこの国にいて欲しいと冗談交じりに言っていましたが、私は数年前日本に呼び戻されて一度帰任しました。しかし、数か月後、事情があってまた UAE に赴任すると、彼は「やっぱり UAE から離れられないんだね」という顔で笑って迎えてくれました。

私が今度は定年で帰任・帰国する際には、別れの挨拶をした時に、彼は多くを語らず、「自分ももうすぐ引退するよと」と言っていたのが印象的でした。

仕事の苦労を共に経験した仲間を「戦友」と呼ぶのなら、彼はまさに私にとって UAE 人の「戦友」のような気がします。

別れはあっさりしたものでしたが、彼が第二の人生を家族とともに楽しんでいることを祈ります。

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