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スカルソープのアースクライ

オーストラリアの作曲家ピーター・スカルソープのアースクライのスコアを入手した。
アースクライは1986年にスカルソープが作曲したオーケストラ曲で演奏時間は10分ほどのもの(原典版)。
オーストラリアの雄大な自然風景に触発されて作曲されたこの作品は、正にオーストラリアのアウトバックの音風景と呼びたくなるほどダイナミックで荒々しい表情を見せてくれる。
スカルソープはアボリジニの文化にも触れて彼らの使用する民族楽器ディジュリドゥの音色に感銘を受け、作品の数々にディジュリドゥを最も多く取り入れた作曲家となった。
2002年スカルソープはアースクライにディジュリドゥパートを書き加えて改めて発表(ディジュ改定版)。大変な評判を呼び以降、この作品はスカルソープを代表する曲となった。
クラシック音楽にディジュリドゥを取り入れた作曲家は、他にショーン・オボイルやゲオルグ・ドレフュスなどがいるが、その中でもスカルソープは最も多くの作品にディジュリドゥを取り入れていた。


特にアースクライでは、ディジュリドゥの出番も非常に多く、まるでディジュリドゥ協奏曲と呼ばれてもなんら不思議ではない。
しかも、協奏曲でのカデンツァのようにディジュだけのソロを存分に聞かせる部分が2箇所もあるなど、スカルソープのディジュリドゥへの傾倒がとてもよく現れているように思う。


さて、長年疑問に思っていたのは、このディジュリドゥパートが譜面にどのように書かれているのだろうか?という点だった。
もともと記譜法の存在しないディジュリドゥの演奏法をどうやって西洋音楽の楽譜に落とし込むのだろうか?
基本即興で演奏されるディジュゆえ、即興の要素が強いことは数種の録音を聞いて把握はできていた。
実際、この曲のディジュ改定版の初演を務めたウィリアム・バートンの複数の演奏を聞いても同じものはなく即興的要素が多く見て取れた。


スコアに記されたディジュの演奏に関する指示はわずか1ページ。
指示されているのは以下の点のみ。それ以外は奏者の即興に任されている。

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1.ディジュリドゥのキーの指定。この曲ではDフラット(Cシャープ)とAが指定されている。ただし、ディジュリドゥのキーでAはとてもレアでほぼ存在しない。
録音ではDフラットが使われることがほとんど。なお、トゥーツのキーの指定はなし。
2.演奏箇所。練習番号何番の何小節目から何小節目までなど。
3.どのような感じで演奏するかを大雑把に説明。静かな感じ、リズミカルに速く、コールを入れて動物の鳴き声を模する、など。

それとともにこの曲の録音(マイケル・クリスティ盤)を演奏の参考にすることと記されている。


曲は、大きく分けてA、B、C、Dの4部に分かれる。
ディジュが入るのは
1.Aの前の部分をソロで演奏しながら客席後方から入場しステージに着席。
2.Aの終わりの2小節からBの前の約40秒ほどのソロ(カデンツァ)。
3.Bの部分の後半。クライマックスで最も盛り上がる部分。
4.D全部。

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ピーター・スカルソープ作曲の「アースクライ」。


今では私のステージでのレパートリーに定着した感がある大曲。このディジュリドゥ版の初演を務めたのディジュ奏者がウイリアム・バートンである。彼はアボリジナルでありながら完全なコンテンポラリースタイルなので、私の演奏スタイルとはだいぶ違っている。
私の場合は出来るだけトラッドの要素を取り入れることを意識してヨルング式のタンギングを多用するようにしている。ただソロ部分は私のオリジナル曲なのでここだけはコンテンポラリーの要素が強い。
同じ曲でありながらディジュ奏者のスタイルによって全く違う演奏になるのが面白いところなのである。
この動画ではエッシェンバッハが指揮をしているが、このようにけっこうメジャーな指揮者でもこの曲を取り上げているのだ。
ジェームズ・ジャッド、バーノン・ハンドリー、岩城宏之なんかもこの曲を指揮している記録がある。
私の夢なのだが、いつか実演でこの曲をオケをバックに演奏して


https://youtu.be/1LH6_GUwLBU


アースクライとフロームユビルーと弦楽四重奏第12番の関係

スカルソープは1986年に管弦楽のための作品であるアースクライを作曲。後の2003年にスカルソープは、このアースクライにオプショナルディジュリドゥ を加えたバージョンを改作している。
そしてアースクライを1994年に弦楽四重奏へと編曲したものが、この弦楽四重奏第12番となる。ディジュリドゥ はオプショナルとなっている。サブタイトルとして「ユビルーから」と「アースクライ」と書かれている。
さらに2003年に彼は、このアースクライを今度は弦楽オーケストラ版に編曲している。「ユビルーから」というタイトルで、こちらもオプショナルディジュリドゥ となっている。
整理すると、
1、アースクライ=管弦楽曲
2、弦楽四重奏第12番=弦楽四重奏
3、ユビルーから=弦楽オーケストラ
となるわけだ。
さらに、ややこしいことにスカルソープは、1999年にアースクライの短縮版というものを発表している。こちらは管弦楽のみでディジュリドゥ はなし。
アースクライは、よほど彼にとってのお気に入りの作品だったのであろう。

アースクライ演奏記録

1.2017年10月8日 横須賀シマムラ楽器プライムストリートライブ

2.2017年11月3日 横須賀シマムラ楽器プライムストリートライブ

3.2017年11月12日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

4.2017年12月2日 小田原ライブハイウスJakajaka

5.2018年1月13日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

6.2018年3月11日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

7.2018年5月20日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

8.2018年5月27日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

9.2018年7月8日  東逗子古民家西日本豪雨被害復興支援チャリティ音楽会

10. 2018年12月23日 越谷ミラクル おもしろ楽器大集合

11. 2019年2月10日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

12.2019年3月3日 横須賀こひさまコーヒーライブ

13.2019年3月10日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

14.2019年3月30日 渋谷ホール あたたかいまなざしの演奏会

15.2019年4月21日 吉田町ライブハウス・リリー

16.2019年5月4日 横須賀芸術劇場オープンハウス

17.2019年7月25日 辻堂ステージコーチ ジーノの部屋

18.2019年8月11日 東逗子古民家福島復興支援チャリティ音楽会

19.2019年11月23日 浅草インフィニティブックストア

20.2021年6月27日 大倉山記念館

21.2021年10月4日 表参道ピアノサロンメロディー

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