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【映画感想】永い言い訳


自分の妻が死んだ連絡が入ったときに、その妻と過ごしている部屋で愛人と一緒にいる。そんな最悪なスタートで、暗すぎて見るのが苦しいな、、と思いながら見始めました。
でも、最後まで見て本当に良かったです。一気にこの西川美和監督のファンになりました。
映像も、音楽も、キャストもとにかくこだわり抜かれていて、世界観がとても魅力的でした。

真反対な幸夫と陽一。

お金持ちで見た目もスマートですが、夏子が死んでもなお、そのインタビューで自分がどう世間から見られるかを気にする幸夫。貧乏で清潔感はないですが、妻が死ぬ前の留守電を毎日聞いては泣き、いつも自分の気持ちにまっすぐな陽一。

この映画では対象的な二人のそれぞれなりの悩む姿が映し出されますが、当然実際に生きていると他人の裏側までは見えないから、自分に持ってないものを持っている人に嫉妬したり、自分だけ辛い悩みを抱えていると思ってしまったり、人生って本当に難しいよなと思います。
そんな人間の誰もがもつ弱さをリアルに表現してくれていて、すごく共感できるし、本木雅弘さんも竹原ピストルさんも本当に素敵な演技をする方だなと思いました。なのですが、何より最大の魅力は子役の二人なんです!とにかく表情も演技も自然体で、二人の人間らしさにとても惹きつけられました。。

自分を大事に思ってくれる人。

生きてりゃ色々思うよ、皆。
でもね、自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。
見くびったり、おとしめちゃいけない。
そうしないと僕みたいになる。
僕みたいに、愛していいはずの人が誰もいなくなる人生になる。
簡単に離れるはずないと思ってても、離れるときは一瞬だ。
だからちゃんと君らは握ってて。

幸夫は、取り返しのつかない愛にようやく気付いて後悔し、陽一を責めてしまった真平に語り掛けます。

たしかに「自分を大事に思ってくれる人」って、ついそのありがたみに甘えてそれを当たり前だと勘違いして、横柄な態度になってしまうことってあるなあと思います。
本当は一番大切な存在なのに、気づいたら一瞬のうちにいなくなっているなんてことにならないようにしなくちゃなと思いました。

『人生とは、他者だ。』

これは作家の幸夫が、物語の終盤で自分のノートに泣きながら綴る言葉でとても印象的なのですが、この解釈をどうするか、映画が終わったあとも余韻としてずっと残りました。

幸夫は夏子の死を聞いて、最初は涙も流さなかったのです。
でも、心から妻の死を悲しむ陽一と出会って、まっすぐな目で相手を見つめる子供たちに出会って、もう愛していないと書いた夏子の下書きメールを見て、幸夫は他者の存在によって自分の感情に向き合えるようになっていきます。

いつも自分を演じていて、とても胡散臭かった幸夫が、最後はとても誠実で謙虚なイメージに変わっていました。

監督の西川さんは、

“人生は自分だ”と思っていた人間が、“人生は他者である”ということに気付いていく物語なんだな、と。

とインタビューの中で語っています。

傷つくことを恐れずに、本気で相手にぶつかっていくこと。
自分への見返りを求めるのではなく、本当に相手の幸せを願って行動を起こすこと。

私はどうだろうか。と考えさせられました。
気を付けていないと、すぐに“人生は自分”だ、と勘違いして突っ走ってしまうなあと正直に思います。
だからこそ、日々立ち止まって、振り返って、ちゃんと他者に向き合えるように努力しなくちゃなと思います。

そして、最初はとても暗いと思っていたこの映画、悲しいまま終わるのではなく、最後にはこうして前向きな感情にさせてくれるような爽やかさもありました。

深みがあって、とても良い作品に出合うことができました!

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