見出し画像

【詩】朝焼けの快速

深夜 誰もいない無人駅のホーム
過去の恐怖と君への依存心 
嫉妬 束縛心 心配 執着
それから、見捨てられ不安を
貨物列車に積み込む

「今まで、守ってくれてありがとう」
ゆっくりと走り出す列車を
別れの讃美歌で送り出す

ホームにひとり残された私は
今になって、やっと
君からの思いやりを感じている

君の声を聴きながら
野次馬たちに
背を向けた私は
心の中の親友と手をつないで
次の貨物列車に紛れ込む

「静けさ駅」のホームを出て
湖の湖畔に立つと
水面に君の姿が写っている

上辺の虚像を取りのぞいた
君の不器用で弱くて優しい心が写っている

いじめられっこで、女の子にモテなくて
でも精一杯生きていた頃の君が写っている

親友と一緒に、水面に揺れる君の姿を、
そっと掬いとり、胸の奥に仕舞う

現実世界のもう大人になった君は
私から自由になって、忙しく歌う日々を
送っているのだろう

帰りの駅のホーム
大人になった私は「中央線」を
イヤホンで聴きながら、
朝焼けの快速を待っている




この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?